[重賞回顧]中118日の雪辱劇!『マジックマン』に導かれたステレンボッシュが、逆転で桜の女王を戴冠~2024年・桜花賞~

一時は開花が心配されたものの、タイミングを計ったかのように満開となった阪神競馬場の桜。満開での桜花賞開催は8年ぶりで、開催当日に満開となるのは、記録が残る2011年以降では初めてのことだった。

ただ、レースに関しては混戦模様。上位人気馬の多くは2~4ヶ月ぶりの実戦で、近年トレンドになっている阪神ジュベナイルフィリーズからの直行はもちろん、アクシデントで意図しない臨戦過程とはいえ、10月のアルテミスS以来5ヶ月半ぶりの実戦となる馬もいた。

そのため人気は割れ、最終的に単勝10倍を切った馬は5頭。その中で、アスコリピチェーノが1番人気に推された。

いわゆる「直行組」のアスコリピチェーノは、ここまで3戦全勝。2ヶ月以上の休養をはさみながら、新馬、新潟2歳S、そして年末のGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズを制し、2歳女王に輝いた。

今回は、デビュー以来最長となる4ヶ月ぶりの実戦となるものの、GⅠ勝ちはメンバー中唯一の実績。また、阪神ジュベナイルフィリーズ1着から桜花賞に直行したノーザンファーム生産馬は過去2頭いて、ともに桜花賞も連勝。史上9頭目となる、無敗の桜花賞制覇が懸かっていた。

これに続いたのが、同じく「直行組」のステレンボッシュ。ここまで4戦2勝のステレンボッシュは、敗れた2戦も勝ち馬とタイム差なしの2着で、まだ底を見せていない。

とりわけ、前走の阪神ジュベナイルフィリーズは上がり最速の末脚をマーク。アスコリピチェーノにクビ差まで迫り、あわやの場面を演出した。

今回は「マジックマン」の異名をとるジョアン・モレイラ騎手を鞍上に迎え、前走の雪辱とGⅠ初制覇が懸かっていた。

3番人気となったのが、「準・直行組」ともいえるクイーンズウォーク。初戦で2着に惜敗したクイーンズウォークは、ここまでの3戦、いずれもメンバー最速の上がりをマークし、未勝利戦とGⅢのクイーンCを連勝中。その前走は、大外から直線だけで10頭を交わし去る圧巻のパフォーマンスだった。

半兄グレナディアガーズはこの舞台でGⅠを勝利しており、血統面での実績は十分。きょうだいGⅠ制覇はもちろん、騎乗する川田将雅騎手と管理する中内田充正調教師、さらに同馬を所有するサンデーレーシングは、桜花賞連覇が懸かっていた。

以下、アルテミスS1着以来、5ヶ月半ぶりの実戦となるチェルヴィニア。阪神ジュベナイルフィリーズで3着だったコラソンビートの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからショウナンマヌエラが飛び出し、2番手はキャットファイト、コラソンビート、エトヴプレが併走。その後ろも、クイーンズウォークとイフェイオンをはじめとして4頭が横一線となり、外からチェルヴィニアが上昇。直後にアスコリピチェーノとステレンボッシュがつけていた。

600m通過は34秒5、800m通過も46秒3と平均的な流れで、前から最後方のスウィープフィートまでは13、4馬身ほどの差。後ろ4頭が、前14頭から少し離れて追走していたものの、そこまで縦長の隊列にはならなかった。

その後、3、4コーナー中間から4コーナーに差し掛かっても隊列に大きな変化はなく、馬群がさらに凝縮して迎えた直線。内回りとの合流点でエトヴプレが先頭に立つも、馬場の真ん中から末脚を伸ばしたステレンボッシュがこれに迫り、坂の途中で先頭に立った。

一方、2番手は外からアスコリピチェーノが接近。内のクイーンズウォーク、大外から迫るライトバックやスウィープフィートらと懸命に前との差を詰めようとするも、これらの追撃を振り切ったステレンボッシュが1着でゴールイン。3/4馬身差2着にアスコリピチェーノが入り、クビ差でライトバックが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分32秒2。阪神ジュベナイルフィリーズ2着以来、中118日の実戦となったステレンボッシュが見事に雪辱を果たしクラシック制覇。騎乗したモレイラ騎手は、リスグラシューで勝利した2018年のエリザベス女王杯以来、2度目のJRA・GⅠ制覇となった。

各馬短評

1着 ステレンボッシュ

道中は中団やや後ろに位置し、直線に向いて仕掛けられるとスッと反応。馬群が凝縮していたこともあり、すぐ先頭に並びかけると一瞬でこれを交わし、余裕を持って押し切った。

オークスに関していえば、距離は問題なさそうだが、父エピファネイア、母父ルーラーシップともに、やや気難しい面がある種牡馬。この馬自身は、まだそういった部分を見せていないものの、スタンド前発走となるため、大歓声を克服できるかが二冠制覇のカギとなる。

2着 アスコリピチェーノ

ちょうど中団に位置しながら、終始、勝ち馬にマークされるような格好。しかも、そのステレンボッシュに自身のインを確保され、この差が最後の最後で大きく影響した。

長く良い脚を使う点は、いかにもダイワメジャー産駒。とはいえ、父のような先行粘り込みタイプではなく、序盤は中団に位置して、勝負所から徐々に脚を使うタイプ。ただ、今回は4ヶ月ぶりの実戦が影響したのか、騎乗した北村宏司騎手によると、スタート後うまくスピードに乗れず、体勢を整えるも、4コーナーでは手応えが苦しかったそう。直線入口で勝ち馬にそこを上手く突かれ、割って入られたのも勝負の分かれ目となった。

この馬に関しては、おそらく1600mがベスト。次走がNHKマイルCであれば、もちろん主力の一頭となる。

3着 ライトバック

道中は後ろから2頭目に位置し、末脚を温存。直線入口では最後方となるも、大外一気で先行各馬をごぼう抜きし、上位2頭にあとわずかのところまで迫った。

デビューから2戦は新潟と東京のレースに出走しており、左回りは問題なさそう。東京の長い直線を考えたとき、最も次に繋がる競馬をしたのはこの馬で、オークスで逆転があってもなんら不思議ではない。

レース総評

前半800m通過が46秒3で、同後半は45秒9=1分32秒2。 2023年と0秒1しか変わらず、水準以上のタイムだった。

ポイントとなったのが、スタート直後の攻防。やや膨れ気味にスタート(したステレンボッシュは一瞬、最後方近くまで下がってしまった。

ところが、結果的にこれが功を奏したのか、すぐに盛り返すとアスコリピチェーノの直後を確保。しかも当初の枠順とは逆に、1頭分内に入ることができた。また、自身の外にゲートの切れ目があり、隣の馬と激しく激突することが無かった点も大きかった。

さらに、直線入口でもやや反応が鈍いライバルを外へ弾くようにして進路を確保すると、1馬身のリード。この差が最後まで詰まることは無かった。

「マジックマン」と称されるモレイラ騎手とはいえ、膨れ気味のスタートはさすがに意図したものでは無かったと思うが、そこから立て直し、さらにライバルのインを確保したのはマジックマンたる所以。スタート直後と直線入口の攻防が、勝負の分かれ目となった。

ステレンボッシュは、エピファネイア産駒で母の父がルーラーシップ。その父キングカメハメハ。母父ルーラーシップのエピファネイア産駒はまだそこまで多くないものの、エピファネイア×キングカメハメハは相性抜群。牝馬として史上初の無敗三冠を達成したデアリングタクトに、府中牝馬Sを制したイズジョーノキセキ。エリザベス女王杯3着のクラヴェルなど活躍馬が続出しており、今後、エピファネイア×ルーラーシップの組み合わせからも、活躍馬が複数出てくるだろう。

一方、母系を遡ると、三代母が名牝ウインドインハーヘアで、同馬はディープインパクトの母。ステレンボッシュと、皐月賞に登録しているレガレイラ、アーバンシックの二代母はいずれもランズエッジで、これら3頭はすべていとこ同士。3頭で春のクラシックを総なめにする可能性も十分にある。

ステレンボッシュを管理するのが国枝栄調教師。これが3度目の桜花賞制覇で、過去の2頭、アパパネとアーモンドアイはその後いずれも三冠を達成。ステレンボッシュにも同様の期待が高まる。

また、国枝調教師といえば、関西のレースに出走する際、管理馬を度々栗東に滞在させていることでも有名。今回も、ステレンボッシュは3月半ばから栗東に滞在し調整されていた。

ルージュバックやメジャーエンブレムなど、かつての桜花賞といえば、1番人気に推された関東馬が人気を裏切ってしまうことも少なくなかったレース。しかし、アーモンドアイが勝った2018年以降は、むしろ関東馬が優勢で、ライバルのアスコリピチェーノや、今回は16着に終わったもののコラソンビートも栗東に滞在。結果的には阪神ジュベナイルフィリーズに続いて関東馬のワンツーとなり、桜花賞で関東馬が1、2着を占めたのは、実に43年ぶりの快挙だった。

一方、上位人気馬で掲示板に載れなかったのが、3番人気で8着に終わったクイーンズウォーク。

近年、桜花賞は内枠有利になっているものの、今回に関しては馬場の内側がパワーを要する状態になっていたよう。1枠2番からスタートしたクイーンズウォークは外に持ち出すことができず、馬体重が500kgを優に超える同馬にとって、やや窮屈な走りとなってしまった。

前走のように、距離ロスを承知でも馬場の外目を悠々と走るのが、おそらく理想の形。オークスで真ん中から外の枠を引いた際は、巻き返しに期待したい。

そして、阪神ジュベナイルフィリーズで上位2頭と接戦を演じ、5番人気に推されたコラソンビートは16着に大敗。

この馬に関しては、予想されていたように距離の壁、あと1ハロンの壁があった。さらに、騎乗した横山武史騎手によると、序盤からハミを噛んでしまったそう。また、スタート後しばらくしてショウナンマヌエラが自身の前に入るとやや首を上げるシーンもあり、リズムを欠いてしまったか。結果論とはいえ、思い切って逃げていれば違う結果になっていたかもしれない。

写真:@gomashiophoto

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