[重賞回顧]復活と希望の勝利!北村友一騎手とクロワデュノールがホープフルSを制覇~2024年・ホープフルS~

一年の終わりを告げると同時に、来年のクラシックを占ううえで非常に重要となるG1・ホープフルS。今年は重賞に昇格してから10回目となる節目の開催で、5年ぶりに土曜日に行われた。

ここ数年、人気の上では混戦となることが多かったホープフルSだが、今年は抜けた1番人気に支持された次代のスター候補がいた。

その馬の名は、クロワデュノール。6月東京の新馬戦でデビューし評判馬アルレッキーノを下すと、次戦の東京スポーツ杯2歳Sでイクイノックスやワグネリアンなど、歴代の名馬に迫る好時計で勝利を挙げた。

上記の時計や、好位から鋭く伸びるレースぶりが評価され、大本命として年末の大一番に駒を進めてきたのである。

やや離された2番人気に、札幌2歳Sでのちの阪神ジュベナイルフィリーズ馬アルマヴェローチェを下したマジックサンズ。

祖母のアンブロワーズは、20年前あと少しで2歳女王の座に手が届かなかった。彼女が果たせなかった悲願を、3年目のホープ、佐々木大輔騎手と共につかむことができるか。

これに続いたのが、福島のデビュー戦で圧勝して話題を呼んだピコチャンブラック。アイビーSは2着だったものの、道中2番手から33秒台の脚を繰り出しており、瞬発力勝負になればチャンスはあると見られていた。近親には皐月賞馬アンライバルドや、ダービー馬フサイチコンコルドなど活躍馬が多数並ぶ良血馬。今回から川田将雅騎手が跨ることもあり、マジックサンズとは差のない3番人気に推されていた。

以下、マスクトディーヴァの弟・マスカレードボールまでがひと桁台のオッズで、後は大きく離れた人気構成となっていた。

レース概況

スタートはまずまずそろったものの、真っ直ぐゲートを出た馬があまり多くなく、ところどころでごちゃついた形でレースが始まる。その中からスムーズに先頭を取りに行ったのがジュンアサヒソラで、そのまま単騎先頭でレースを作っていった。

これに続いたのがショウナンマクベス、アクアジェット、ピコチャンブラック。この3頭を見るようにクラウディアイとジュタが追走し、中団馬群の先頭を形成する。

逃げの手に出ると思われていたアスクシュタインはスタート直後に挟まれたこともあって、行き脚つかず中団からの競馬に。そして好スタートを切っていたクロワデュノールは北村友一騎手が手綱を引いて抑え、1コーナーへと向かっていく。

中団馬群のすぐ後ろ、インにつけたジョバンニの横で、マジックサンズとクロワデュノールが併せ馬の格好になる。だが、マジックサンズは落ち着き始めたペースに行きたがる一方、クロワデュノールは北村友一騎手とぴたりと折り合い、リズムを整え追走していた。

その後ろ、アスクシュタインを前に置く形でヤマニンブークリエとアマキヒ、レーヴドロペラがおり、これを見ながらマスカレードボール、リアライズオーサムが追走。1馬身程離れてファウストラーゼン、デルアヴァー、さらに2馬身程離れてアリオーンスマイルが最後方を進んでいた。

かなりゆったりしたペースで進んだレースの1000m通過タイムは、1分1秒4と遅め。そのペースを見切ったか、向こう正面でファウストラーゼンと杉原誠人騎手が進出を開始。後方3番手から一気に位置を上げ、先頭を行くジュンアサヒソラに競りかけていった。

この動きによってクロワデュノールを筆頭に控えていた馬達も動き始め、緩んでいたペースが一気に締まり始める。

4コーナーの入り口で、先頭2頭と後続との差は2馬身ほど。ここでジュンアサヒソラを競り落として、ファウストラーゼンが4角先頭で直線を迎える。

直線に入ると、抜け出したファウストラーゼンめがけてクロワデュノールが襲い掛かり、坂下で先頭に立つ勢い。これに中団から進出したジョバンニも追撃を開始し、外から上がってきたジュタも脚を伸ばす。

だが、その中でクロワデュノールただ1頭の脚色がよく、坂を上り切るころにはほぼ大勢が決する。

坂を上り切ったところでジョバンニが2番手にあがるものの、クロワデュノールは全くそれを寄せ付けず、余裕綽々、素軽い足取りでゴール坂へ。

3戦3勝、無敗の2歳王者が師走の中山に誕生した。

上位入線馬短評

1着 クロワデュノール

上り3F・34.9秒の末脚で初G1制覇。初の2000mや-8キロも全く問題なく、堂々と来春の主役候補に名乗りをあげた。

1000m通過が遅めで瞬発力勝負となったレースだったが、中団でしっかりと脚を溜め、勝負所で爆発させた。折り合いもしっかりついており、気性は素直。加えて、トップスピードへの乗りと反応速度は水準以上と、かなりの能力を見せてくれた。

順調に行けば4か月後、再びこの中山で我々を楽しませてくれることになりそうだ。

2着 ジョバンニ

これで野路菊Sから3戦連続2着。前2走で惜敗したエリキングに続いて現れた強敵の前に、G1制覇を阻まれる形となった。

だが、馬場が荒れた中山で中団の内を追走し、3コーナーでは一瞬置かれたが気合をつけられるとしっかり伸びてきた。勝ち馬にこそ届かなかったものの2着は確保しており、実力は十分にあると見ていいだろう。

デビューから常に上り3Fは上位で、強敵相手に戦い続けている経験は、必ず来春のクラシックで活きてくるだろう。

3着 ファウストラーゼン

単勝オッズ303.3倍、17番人気の伏兵が3着に大健闘した。

前走の未勝利戦では後方から追い込んでの勝利で、今回も中団以降からの競馬。後方待機に徹するかと思われたが、向こう正面で一気に捲って先頭に並びかけ、そのまま3着に粘り切った。

ファウストラーゼンの父は、新種牡馬モズアスコット。同じ父を持つモズナナスターがファンタジーSで見せたように、ファウストラーゼンも早め先頭から押し切りを狙う競馬で好走した。モズアスコット産駒は、末長く脚を使う競馬が得意なのかもしれない。

総評

レースの1000mラップは61.4-59.1で後傾ラップとなり、超がつくほどのスローペース。

ただ、勝ち時計の2分0コンマ5秒は、昨年、レガレイラが記録したタイムとわずかコンマ3秒の差である。

あちらは1000m通過が60秒ジャストで、後半のラップも60.2秒とほぼ均一のペースだったことを考えると、向こう正面で動いたファウストラーゼンによって後続も動き出し、後半のラップが締まるものになったということが分かる。その流れを作り出す動きをこの大舞台でやってのけた杉原誠人騎手の判断には脱帽である。

そして、完璧に近い動きをしたファウストラーゼンを難なく差し切ったのがクロワデュノール。

GOサインを送り出されてからの反応と、トップスピードに到達してからの瞬発力は凄まじく、同世代の中では一枚力が抜けていると見ていいだろう。

クロワデュノールの血統図には、Lyphardの5×5のクロスが入っている。これは2023年に皐月賞を制したソールオリエンスと同じ血で、加えて同馬はBustedの5×5のクロスと、Danzig系のケープクロスも母方に持つ。

道悪が得意なソールオリエンスと同系統のクロスに、さらにDanzigの血が入るのなら、天候不良となっても血統的には全く問題なさそうで、翌春に向けて死角はないように思える。

また、勝馬の鞍上である北村友一騎手は、2020年にクロノジェネシスで有馬記念を制して以来、4年ぶりのG1制覇となった。さらに、クロワデュノールの管理調教師はそのクロノジェネシスを管理していた斉藤崇史師で、馬主も一緒のサンデーレーシング。まさに『チーム・クロノジェネシス』の勝利であった。

そのクロノジェネシスが現役最後のシーズンとなった2021年のこと。未だ続いていたコロナ禍の中、陣営は彼女のドバイ遠征を決めた。

当時、もしこれに同行すると、日本に帰国した後は2週間騎乗できなくなるという制限があったが、それでも北村騎手は彼女と共にドバイへ遠征し、クビ差の2着に健闘。制約があっても乗りに行くほどに、彼女は北村騎手にとって最愛のパートナーであった。ゆえに、帰国後の落馬事故で引退まで手綱を取ることが叶わなくなった時には、我々には推し量ることのできない悔しさがあっただろう。

怪我から復帰した後はなかなか思うような成績が残せない時期が続いていたが、今年徐々に復調し、G1制覇を当時と同じ陣容で飾って見せた北村友一騎手。「またG1を勝ててうれしいです」と、勝利騎手インタビューで人目をはばからずに涙した同騎手には、スタンドから万雷の拍手が送られた。来年のクラシックで、新たな相棒・クロワデュノールと歩む道を楽しみにしたい。

一方、東京スポーツ杯2歳S勝ち馬による同レースの優勝は、G1に昇格して以降だと2020年のコントレイル以来3頭目となる。彼の名が冠されたレースの行われたメモリアルデイに、来年のクラシック──そして三冠への期待が、一気に膨らむような勝利だった。

写真:s1nihs

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