![[重賞回顧]極上の末脚を繰り出したエネルジコが、無傷3連勝でダービーの切符を獲得!~2025年・青葉賞~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/04/IMG_5026-scaled.jpeg)
開催替わりとなった東京初日のメインレースはダービートライアルの青葉賞。天皇賞(春)の前日におこなわれていたこのレースもまた、2025年から開催が1週前倒しされ、本番までの間隔は中4週となった。
最大11連休の幕開けとなるこの日の東京競馬場は、フリーパスで入場無料。土曜日にもかかわらず入場人員は54206名とGⅠ開催日並みの賑わいで、青葉賞の本馬場入場前後から突如大雨に見舞われたものの、ファンファーレが鳴ると大きな歓声が上がった。
そんな盛り上がりの中おこなわれた青葉賞にエントリーしたのは13頭。やや落ち着いた頭数とはいえ、好素質馬や良血馬が複数出走し、少数精鋭といえるメンバー構成だった。
その中で単勝オッズ10倍を切ったのは5頭。とりわけ人気は2頭に集中し、僅かの差でエネルジコが1番人気に推された。
10月東京の新馬戦で初陣を飾ったエネルジコは、3ヶ月半の休養を挟んだセントポーリア賞も連勝。その前走はスタートで1馬身半ほど出遅れ、直線でも大外に持ち出すロスがありながら最後は流すほどの完勝で、インパクト大の内容だった。
父ドゥラメンテは二冠馬で、母エノラもドイツオークスの覇者という良血馬。父のラストクロップからまた一頭大物が誕生するか。そして、父仔ダービー制覇へ権利獲得なるか。大きな期待を背負っての出走だった。
これに続いたのがファイアンクランツ。
7月札幌の新馬戦を勝利したファイアンクランツは、それ以降勝ち切れないレースが続いているものの、重賞で3、4着と好走するなど、このメンバーでは実績上位の存在といえる。
この馬もまたドゥラメンテ産駒で、半兄コスタノヴァは2月にGⅠのフェブラリーSを制したばかり。絶好調ジョアン・モレイラ騎手を鞍上に迎え、なんとしてもダービーの出走権を獲得したい一戦だった。
そして、3番人気に推されたのがレッドバンデだった。
2月東京の新馬戦こそ3着に敗れるも、前走の未勝利戦を完勝したレッドバンデは、再び中5週でこのレースに臨んできた。
父は2024年のリーディングサイアーに輝いたキズナで、母フィオドラはエネルジコの母と同じくドイツオークスの勝ち馬。そして、この馬もまたダービーに出走すれば父仔制覇の可能性があり、是が非でも権利を獲得したい一戦だった。
以下、1勝クラスのゆきやなぎ賞を好タイムで快勝したゲルチュタール。惜しくも皐月賞の権利獲得はならなかったものの、スプリングSで4着と健闘したマテンロウバローズの順に、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、レッドバンデがあおるようなスタート。同枠のエネルジコもスタートしてすぐに躓き、後方からの競馬を余儀なくされた。
一方、前はガルダイアが飛び出し、2馬身差の2番手にパッションリッチ。さらに1馬身半差でマテンロウバローズが続き、以下、ホウオウアートマン、ロードガレリア、ゲルチュタールが半馬身から1馬身間隔で追走した。
中団は、インにアマキヒ、外に同枠のヤマニンブークリエがつけ、1馬身半差の9番手をファイアンクランツとフィーリウスが併走する格好。人気のエネルジコは、さらにそこから1馬身半差の後方3頭目に控えていた。
1000m通過は59秒9のミドルペースで、先頭から最後方のスワローシチーまでは17、8馬身と縦長の隊列。しかし、中間点を過ぎたところで大きくペースダウンしたため、隊列はやや凝縮した。
その後ペースは上がったものの、ヤマニンブークリエとレッドバンデが1つずつポジションを上げた以外、隊列に大きな変化はないままレースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、ガルダイアが後続に1馬身のリードをとったものの、坂の上りで早くも2番手以下が殺到。まず、ホウオウアートマンと、いつの間にか内ラチ沿いから一気に差を詰めていたレッドバンデがこれを交わし、その後レッドバンデが単独先頭に立って押し切りを図った。
ところが、残り50mで様相一変。馬場の真ん中からゲルチュタール。外からファイアンクランツ。さらに大外からエネルジコが末脚を伸ばしてこれに襲いかかると、最後はエネルジコがグイッと前に出て先頭ゴールイン。ファイアンクランツがクビ差2着に入り、僅かハナ差及ばなかったゲルチュタールが3着に続いた。
良馬場の勝ち時計は2分24秒8。直線に向いた時点では最後方に位置していたエネルジコが、全馬をまとめて差し切り無傷の3連勝で重賞初制覇。2着ファイアンクランツとともに、ダービーの優先出走権を獲得した。
また、鞍上のルメール騎手は、これがJRA通算2000勝目。9085戦目での2000勝達成は、武豊騎手の10081戦目を大きく上回る史上最速の記録となった。

各馬短評
1着 エネルジコ
前走ほどではなかったもののスタートが決まらず、さらに躓いたことで後ろからの競馬に。それでも無理に挽回することなく後方で脚を溜めると、直線で凄まじいキレを発揮し、全馬をまとめて差し切った。
メンバーレベルが大幅に上がるダービーは頭数も今回より多くなるため、この戦法がそのまま通用するかといわれれば、おそらく難しい。それでも、五分のスタートからある程度の位置を取ることができれば、青葉賞組初のダービー馬が誕生してもなんら不思議ではない。

2着 ファイアンクランツ
僅かに好スタートを切って中団やや後ろに位置。少しいきたがるような面をみせるも、モレイラ騎手らしく、仕掛けのタイミングなどはほぼ完璧だったが、最後は勝ち馬の決め手に屈した。
そのエネルジコと同じドゥラメンテ産駒でも、本馬はどちらかといえば持久力タイプ。そのせいか、相手なりに走る反面、勝ちきれないレースが続いている。それだけに、ダービーの出走権を獲得したことはもちろん、秋に向けて賞金加算に成功した点は、ある意味それ以上に大きかったといえる。
3着 ゲルチュタール
ファイアンクランツに次ぐスタートを切り、理想は3番手あたりでレースを進めたかったはずだが、今ひとついき脚がつかず中団からの競馬。その後、直線に向いてからジリジリと末脚を伸ばしたものの勝ち馬に瞬発力で劣り、大接戦の2着争いにも僅かに後れをとって権利獲得はならなかった。
ケガがあったとはいえ、父ブリックスアンドモルタルは5歳時に。母父ゼンノロブロイは4歳秋に。さらに、母キラービューティも5歳12月に3勝クラスで2着した実績があり、おそらく本格化はまだ先。大幅な馬体増で動きが重かった京成杯以外はすべて3着内に好走しており、今後の活躍を期待したい。
レース総評
2月の開催終了後、東京競馬場では傷んだ箇所の蹄跡補修と洋芝の種まき。およそ2週間のシート養生や肥料散布、芝刈りなどがおこなわれた。4月は気温が一桁の日もあって芝の生育が心配されたものの、その後、平年並みの気温となり、芝は概ね良好な状態。青葉賞当日の開催初日から3週間はAコースを使用し、当日朝のクッション値は9.5と標準の値だった。
一方、含水率は4コーナーが12.2%で、ゴール前は12.3%。水曜日に降った雨の影響はなく通常の水分量だったが、青葉賞の本馬場入場前後から突如大雨が降り出し、表示は良でも、いわゆる「パンパンの良馬場」ではなかった。
そのようなコンディションでおこなわれた青葉賞は、前半1200m1分12秒3、同後半1分12秒5と前後半ほぼフラットで、勝ち時計は2分24秒8だった。
そして、この中身をさらに詳しく見ると、レース中盤は12秒5前後のラップが続き、7ハロン目で13秒3と大きくペースは落ちた。ただ、そこからは減速することなく最後の4ハロンは加速ラップ。特に、ラスト2ハロンは11秒3-11秒2で瞬発力勝負となった。
また、直線に向いたところで先頭から最後方まではおよそ10馬身と一団に近く、先行馬にはやや厳しい展開。これを最後方から差し切ったエネルジコは、おそらく2ハロン続けて10秒台の末脚を繰り出しゴール板を駆け抜けている。
そのエネルジコは、2015年の皐月賞とダービーを制したドゥラメンテの産駒。残念ながら、ドゥラメンテは2021年に9歳で早世したため現3歳世代が最後で、現時点でダービーの出走権を持っている同産駒は、エネルジコと2着のファイアンクランツ、皐月賞3着マスカレードボールの3頭である。
一方、母エノラは2010年のドイツオークス(ディアナ賞)勝ち馬。ドイツオークス馬は、エノラ以外にも数多く本邦に輸入されており、4着レッドバンデの母フィオドラや、サリオス、サラキア、サフィラらの重賞ウイナーを送り出した名牝サロミナ。NHKマイルCなど重賞3勝で種牡馬となったシュネルマイスターの母セリエンホルデ。チューリップ賞を勝ったエリザベスタワーの母ターフドンナ。新潟ジャンプS勝ちのフォイヤーヴェルクやダービー4着グレートマジシャンを送り出したナイトマジックなど、大半が繁殖としても成功を収めている。
さて、5週間後におこなわれるダービーは、過去2年、非サンデー系種牡馬の産駒が勝利している。かつてのダービーといえば、瞬発力に秀でたサンデーサイレンス産駒や、その孫、特にディープインパクト産駒の独壇場だったが、サンデーサイレンス産駒が初めて勝利した1995年以降(タヤスツヨシ)のダービー馬で、異色の血統といえるのが、2010年の覇者エイシンフラッシュである。
エイシンフラッシュも、エネルジコと同じくキングマンボ系種牡馬キングズベストの産駒で、母ムーンレディはドイツのセントレジャー勝ち馬。サンデーサイレンスの血を持たないバリバリのヨーロッパ血統で、瞬発力勝負にはいかにも分が悪そうに見えた。
ところが、同馬がダービーで繰り出した上がり3ハロン32秒7は、今なおレース史上最速。これは、同馬を管理した藤原英昭厩舎の「厩舎力」によるところも非常に大きいが、父キングマンボ系×母がドイツ産馬という血統はエネルジコと似ており、さらにエネルジコはサンデーサイレンスの血も持つため、長年言われ続けてきた「青葉賞組はダービーを勝てない」というジンクスを覆してもなんら不思議ではない。

また、エネルジコを管理する高柳瑞樹調教師は、ドゥラメンテ産駒の牝馬スターズオンアースで2022年の春二冠を制した実績がある。ただ、ダービー制覇の前に立ちはだかる一頭が皐月賞馬ミュージアムマイルで、こちらは弟・高柳大輔調教師の管理馬。このまま無事に出走が叶えば、大一番のダービーで調教師の兄弟対決が実現することは珍しく、ともに上位人気は間違いないだろう。
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写真:s1nihs