[重賞回顧]兄に続け、姉を追い越せ! ヤマニンアルリフラの連勝劇~2025年・北九州記念~

真夏の小倉競馬場芝1200mを舞台に、スプリント路線の精鋭たちが一堂に会する北九州記念。
過去10年間で1番人気が一度も勝利していない難解なハンデ重賞に、今年も快速自慢の18頭が名を連ねた。

今年のメンバーは、単勝20倍以下に支持された馬が10頭という混戦模様。最終的に単勝5.7倍で1番人気に推されたのは、連勝の勢いに乗る4歳馬、ヤマニンアルリフラ。

一方、僅差の単勝5.8倍で2番人気に続いたのが、同じく4歳世代で、このレースが14戦目にして2着以下はわずか1回という抜群の安定感を誇るロードフォアエースだった。

3連勝を狙う「上昇力」と、3戦連続2着でも全く崩れない「堅実さ」。今年の北九州記念は、この対照的な2頭が人気を分け合う構図となった。2025年の重賞戦線で好調の4歳世代がこのレースも勝つのか、それともスプリント路線を戦うベテランたちが意地を見せるのか、生ファンファーレの演奏に送られて、各馬ゲートインが始まった。

レース概況

ゲートが開くと、9番枠のヤマニンアルリフラが抜群のスタートを決めた一方で、最内枠のヤマニンアンフィルは一歩目で出遅れ、最後方からの競馬を余儀なくされた。ハナを奪ったのは気合をつけられたシロン。最初の1ハロンで後続に1馬身の差をつけ、これを最内からクラスペディアが積極的に追いかける。タマモブラックタイが3番手に続き、2番人気のロードフォアエースはその外4番手に収まった。ヤマニンアルリフラは好発を決めたあとも無理に前を追わず、馬群の中で息を潜めて抜け出すタイミングを伺った。

3コーナーでは、インからクラスペディアが半馬身抜け出そうとするが、すぐにシロンが盛り返し再び先頭へ。このつばぜり合いが前半600m32秒5という目の覚めるようなハイペースを生み出した。人気2頭はこの頃から進出の構えを見せ、外目を通るロードフォアエース、内でじっくり脚を溜めるヤマニンアルリフラの対照的な立ち位置が印象的だった。

直線に入ると、前で競り合っていた先行勢を目掛けてヤマニンアルリフラが馬群の外に出し、一気に差し切り体勢に入る。さらに外には前年2着のヨシノイースターが馬体を並べて迫り、残り200mでロードフォアエースがついに先行集団から抜け出す。だが息を潜めていた2頭の脚色は鋭く、ヤマニンアルリフラは団野騎手の鞭に応えてもう一段伸びを見せ、半馬身ヨシノイースターを交わしてゴールを駆け抜けた。ヨシノイースターは今年も2着に甘んじたが、その勝負根性は健在だった。

3着争いは大きく離れた後方から一瞬の隙間を突いて内を伸びたヤマニンアンフィルと、大外を回ってきたアブキールベイの接戦となり、わずかにクビ差でアブキールベイが制した。同じく後方一気のキタノエクスプレスが5着に追い込み、先行勢に厳しい流れの中、ロードフォアエースはゴール寸前で差し馬たちにのみこまれて9着に敗れた。

各馬短評

1着 ヤマニンアルリフラ 団野大成騎手

芝・ダート双方で勝利実績を積み、前走の淀ステークスを制して臨んだ重賞初挑戦。
抜群のスタートを決めながらも序盤は慌てず馬群に収まり、終始リズムを崩さず脚を温存する落ち着いたレース運びが光った。
残り200mで先行勢が苦しくなる展開を冷静に見極め、馬場の外に持ち出してからは団野騎手の手綱に応えてひと伸び。半馬身差で勝ち切るあたりに、スプリント戦での勝負根性と地力の強さが垣間見えた。

母ヤマニンパピオネの産駒としては半兄ヤマニンウルスに続く2頭目の重賞ウィナー。今回、半姉アンフィルも同じレースに出走していたが、どちらの前走も勝利に導いた団野騎手がこちらに騎乗していたことからも、陣営の将来への期待感が伺える。スプリント戦線に4歳世代から新たな主役候補が現れた。

2着 ヨシノイースター 内田博幸騎手

昨年の北九州記念2着に続き、今年も同じ舞台で再び勝ち負けに加わった。小倉コースはこれで通算1-3-0-1と相性抜群。前走の春雷ステークス(リステッド)を勝利し、その際2着に下したのが今回人気を集めたロードフォアエースだった。この実績が評価されて、今回はトップハンデ58キロを背負う立場となったが、それでも堂々と好走を果たした。

普段より少し後ろのポジションからの追走となったが、前半600m32秒5の厳しい流れを冷静に捌き、内田騎手とのコンビで脚を温存できたことが好走に繋がった。勝ち切るまでにはもう一押しが必要だが、7歳にしてこれだけ安定した粘り腰を発揮できるのは立派の一言。2年連続2着はこの馬の経験と小倉巧者ぶりの証だろう。斤量が軽くなる条件や同様の展開になれば、まだまだ重賞で勝ち負けできる。

3着 アブキールベイ 坂井瑠星騎手

3歳の若さと斤量53キロのアドバンテージを活かし、古馬相手に堂々の3着と健闘。
父は2018年スプリンターズステークスを制したファインニードル、母アゴベイも短距離を主戦場にしていたゴドルフィンの所属馬で、この路線での活躍を期待された血統構成だ。
前走のG3葵ステークスでは16頭立て15番人気の大穴をあけたが、その時も最後までペースが落ちない持続力で先行馬をまとめて交わす内容。今回のラスト3ハロン34.7秒は勝ち馬と同じタイムで、斤量の恩恵だけでなく地力の高さを改めて証明した。

今回は最後方近くから大外を通し、他馬に邪魔されることなくマイペースに徹する競馬ができたことが好走要因の一つ。ハイペースに助けられた部分はあれど、決してフロックではない鋭い伸び脚を見せたのは大きな収穫だ。馬体にもまだ成長の余地があり、秋以降さらに心身が充実してくればスプリント戦線で主役を張る可能性を秘めている。今後も「いかに自分の競馬を貫けるか」が鍵になりそうだ。

4着 ヤマニンアンフィル 亀田温心騎手

勝ち馬ヤマニンアルリフラの半姉であり、母ヤマニンパピオネの産駒は、ダート中距離のG3プロキオンステークスを制したヤマニンウルス、芝中距離でオープンクラス好走歴のあるヤマニンサンパを含め、4きょうだいがオープンクラスで活躍する層の厚い牝系の一頭。

小倉コースはこれで2-1-1-3となったが、馬券外のうち2回も掲示板を確保しており、7戦中6回で上位を外さない安定感が光る。もともと弟ヤマニンアルリフラより後ろから末脚を繰り出すタイプだけに、出遅れは決定的なロスにはならず、展開が噛み合って脚を温存できた面もあったが、スタートが決まっていれば姉弟で勝ち負けを争っていた可能性も十分だろう。

重賞初挑戦の舞台で、直線では馬群を一瞬の判断で捌いてしっかり脚を伸ばした内容は評価に値する。ゲートで後手を踏んだあとも慌てず折り合いをつけ、最後の伸びに繋げた亀田騎手の判断も冴えていた。手綱を取るのは2度目だったが、今回は前回の騎乗以上にこの馬の末脚を上手く引き出した印象。展開ひとつでさらなる上位進出が見込める1頭だ。

9着 ロードフォアエース 川田将雅騎手

これまで芝・ダート問わず安定した走りを続け、13戦して2着以下がわずか1回という抜群の安定感を誇ってきた4歳馬。今回は先行馬が飛ばす厳しいハイペースに巻き込まれ、展開のアヤに泣いた格好となった。外目4番手から早めに進出し、直線では一瞬先頭に立つ場面もあったが、後方で脚を溜めていた差し馬たちの強襲を受ける形に。斤量も56.5キロと上位ハンデを背負っており、苦しい条件が重なったことは否めない。

それでもゴール寸前まで先頭争いに踏みとどまり、先行勢の中では最も粘りを見せた。最後に先着を許した馬はいずれも後方から末脚を伸ばしたタイプで、位置取りの差が明暗を分けた一戦だったといえる。この夏のサマースプリントシリーズはまだ続く。ここで歩みを止める馬ではなく、条件が整えばすぐに巻き返せるだけの実力は確かにある。続戦の報を期待して待ちたい。

レース総評

例年波乱の決着が多い北九州記念らしく、今年は先行馬には厳しいハイペースが全体を覆った。前半600mが32秒台という息を抜けない流れの中、4歳ヤマニンアルリフラが好位で脚を溜め、直線でのひと伸びで初重賞制覇を果たした姿は、同世代の勢いを象徴するようだった。一方で、3歳アブキールベイも斤量差を活かして古馬を相手に堂々の3着。末脚勝負の適性を存分に示し、今後のスプリント路線に新たな顔ぶれが加わる手応えを感じさせた。

勝ち馬と同じ母から生まれたヤマニンアンフィルも4着に食い込み、姉弟が並んで口取りに立った光景は血統の奥行きと物語を感じさせる場面だった。ロードフォアエースは展開のアヤに泣いたが、力負けではない内容。過去10年を振り返っても、ヨシノイースターのように連続して好走する馬が多いリピーターレースでもある。今回悔しい思いをした馬たちが、来年この舞台で巻き返す姿も十分にあり得るだろう。
まだまだ熱気を増して続いていくサマースプリントシリーズに、スターの登場を期待する。

写真:@NavierStoke0718、でめきん

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