[重賞回顧]完成度と未知、その交差点で~2025年・函館2歳ステークス~

最速決着が続く、2025年夏の函館開催。

長らく破られなかったハギノトップレディ、そしてサッカーボーイのレコードが相次いで更新され、“速さ”への期待が一段と高まる中で迎えたのが、今年の函館2歳ステークスだった。

2歳世代最初のJRA重賞。その舞台には、早期デビューを果たし、初戦から目を引く時計を叩き出したスピード自慢たちが顔を揃えた。

なかでも注目を集めたのは、6月の新馬戦で芝1000mを56秒4という驚異的なタイムで駆け抜け、2歳コースレコードのみならず、古馬の1000m記録も更新したカイショー。その爆発的なスピードが、1200mという距離延長にどう対応するかが最大の焦点となった。

一方、同じく新馬戦で芝1200mのレコードタイム(1分8秒2)を叩き出し、同日の古馬2勝クラス・STV杯よりも速い決着を演出したブラックチャリス。そのレースで逃げ粘って2着に入ったトウカイマシェリの完成度の高さも見逃せない。

また、スプリンターズS3着馬アウィルアウェイの初仔、マイオウンウェイが阪神新馬戦から参戦。
回転の速いピッチ走法を武器に、未知のスピードで函館経験組に挑む。

そして、前日(7月19日)にJRA通算600勝を達成した丹内祐次騎手が手綱を取るエスカレイトも登場。

新馬戦はスローペースから外枠を活かしたまくり切りで勝利、速い時計への対応がカギとなる。

さらに、函館らしく、ダートデビュー組や、門別デビュー組のエイシンディード、スペシャルチャンスも参戦。“スピード”と“完成度”が交錯する2歳重賞の舞台に、多彩な個性が集結した。

この1勝が、未来のG1馬への第一歩となるかもしれない。誰もがスピードの証明を求めた舞台で、誰よりも未知だった馬が、大金星を挙げてみせた。

レース短評

スタート直後、2番枠に入ったカイショーはやや出足が鈍く、外の各馬がスムーズにダッシュを決めていく。そのなかで、最も迷いのない動きを見せたのが真ん中5番枠のエイシンディードだった。ゲートを出てすぐに鞍上のレイチェル・キング騎手が押してハナへ──経験豊富な地方馬らしいスピードと前進気勢を見せ、主導権を譲らなかった。

2番手に続いたのは、道営所属のままこの一戦に挑んだスペシャルチャンス。
そして、その内で行きたがる素振りを見せながらブラックチャリスが追走し、出遅れ気味だったカイショーも内枠を活かして4番手まで巻き返す。

逃げるエイシンディードは終始2〜3馬身のリードを保ち、後続に脚を使わせない絶妙なペース配分でレースを支配した。道中は淡々としたラップを刻みながらも、3コーナー過ぎから徐々にスパート。人気を集めた2頭──ブラックチャリス、カイショーも絶好位から追い出しにかかったが、その背中は思ったより遠かった。

直線、キング騎手の鞭が初めて入ったのは残り200mを切ってから。ブラックチャリスが懸命に差を詰めるも、同じ上がりでは届かない。最後までしっかりと脚を使ったエイシンディードが、後続を2馬身振り切ってゴール板を駆け抜けた。

2着にはブラックチャリス、3着カイショーと、人気を集めた2頭が順当に続いた形にはなったが、すべてを持っていったのは「芝レース未経験×門別デビュー×再来日2日目ジョッキー」という異色のコンビだった。

勝ち時計は1分8秒4。9Rの古馬2勝クラスにこそ0.5秒届かなかったものの、洋芝・2歳戦という条件を思えば中々の好タイム。この舞台での“時計以上”のインパクトを強調したくなるような、価値ある一勝だった。

各馬短評

1着 エイシンディード レイチェル・キング騎手

門別で2戦1勝というキャリアを持ってJRAへ移籍し、いきなり重賞の舞台に挑んできた本馬。
芝コース、更には1200mでのレース経験がないという点で人気を落としたが、いざ蓋を開けてみれば堂々たる逃走劇。
ゲートを出た瞬間から主導権を握り、道中も無理なくリズム良く運び、直線でも余力十分に後続を突き放した。鞍上のキング騎手が仕掛けをギリギリまで我慢したことで、持ち時計以上の脚が引き出された印象だ。

門別時代からスピードと前向きさには定評があり、今回はそれがそのまま芝でも通用した形。キング騎手とのコンビは初戦から抜群にかみ合っており、展開・馬場・仕掛けのタイミングすべてが噛み合った「完勝」だった。
葵ステークスで15番人気1着の大金星を挙げたアブキールベイと同じファインニードルの産駒であり、エイシンディードもまた、スプリント戦線に新風を吹き込む存在となりそうだ。
勝ち方にはまだ余裕があり、芝適性の高さを示したことで、今後のローテーションは更に広がった。
距離延長にも可能性を感じさせるだけに、次走の選択にも注目したい。

2着 ブラックチャリス 浜中俊騎手

1分8秒2のレコードで新馬戦を制し、今回も堂々の1番人気に推された。6枠8番からスタートを決めて好位を取りに行く過程でやや行きたがる面は見せたが、2戦目としては許容範囲。外にスペシャルチャンス、内にカイショ―、そして逃げるエイシンディードを追うという前後包囲網のなかで追走できた点は、浜中騎手の手綱さばきも含めて評価できる。

直線では満を持して抜け出しを図るも、逃げ馬以上の脚は使えなかった。
とはいえ、勝ち馬とは展開の利・仕掛けのタイミング差での明確な2馬身差であり、地力の高さは示した。

母のゴールドチャリスは中京2歳Sを制した早熟スプリンターで、父キタサンブラック×母父はキングカメハメハ産駒トゥザワールドという血統は、23年桜花賞2着馬、コナコーストに近い構成。
ゴールドチャリス譲りのスピードと、多少の渋った馬場でも踏ん張れる力強さを併せ持つ血統構成とよしウする。
京都のファンタジーステークスや阪神JFといった舞台でもその資質が問われてくるだろう。
完成度の高さに加えて、底力を問われる場面でも対応できる幅を感じさせる1頭だ。

3着 カイショ― 池添謙一騎手

新馬戦で1000mレコードタイムを叩き出して注目された馬が、しっかりと重賞3着と結果も残した。
ゲートを出た瞬間に後手を踏み、出足もやや鈍かったが、内枠を利して4番手までリカバリー。序盤のロスを補いながら、直線ではしっかりと脚を使って上がり3Fは34.2──エイシンディード、ブラックチャリスと0.1秒差にまとめ、最後まで伸び続けての3着だった。

1000m戦で見せた圧巻のスピードを、距離が伸びた今回でも再現できたことは大きな収穫。もしスタートを決めていれば、また違った景色も見えていたはずだ。
次走ではスタートダッシュをしっかりと決めて、再び「快勝」の二文字を届けてほしい。可能性を改めて感じさせる一戦だった。

レース総評

スピード能力の証明を求められた一戦で、最も未知だった馬が、最も鮮やかにその資質を示した。

芝未経験、門別ダート1000m戦デビュー、当日9番人気──そんな前情報が霞むほどに、エイシンディードの走りには説得力があった。そして、その実力を存分に引き出したレイチェル・キング騎手もまた、再来日2日目にして重賞勝利という“結果”という最高の挨拶で夏の日本に戻ってきた。8月18日まで短期騎手免許を取得しているので、この後も夏競馬での大活躍に期待したい。

一方、ブラックチャリスやカイショーといった期待のスピード馬たちも、その能力の片鱗は確かに見せた。道中の対応力や脚の使い方、課題と可能性が明確になったことは、むしろこの先を見据えるうえで大きな収穫だろう。

今年の函館2歳ステークスは、ただ速いだけでは勝てない、ただ完成度が高いだけでも届かない、そんな“2歳離れ”した競馬だった。

この一戦が、秋、そして暮れのG1戦線へと繋がっていく。未知が既知に変わっていく2歳世代の中で、今回の主役たちはいかなる成長を遂げるのか。その答えを楽しみにしながら、次なる戦いを待ちたい。

写真:@gomashiophoto

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