[重賞回顧]最内から魅せた”雷撃”~2026年・シンザン記念~ 

戦後の高度経済成長期にクラシック三冠を達成し、さらに天皇賞(秋)、引退レースの有馬記念も制して五冠馬と称された名馬シンザン。その名を冠して1967年から行われている3歳限定重賞が、シンザン記念である(馬齢は現表記)。

過去10年を振り返っても、このレースが出世レースの一つであることは明らかだ。桜花賞馬ジュエラー、天皇賞(春)を制したレインボーライン、短距離路線で頂点に立ったファインニードル(2016年)。ペルシアンナイトとアルアインの池江厩舎コンビ(2017年)、そして牝馬三冠を含むG1・9勝を挙げたアーモンドアイ(2018年)など、各路線の主役たちがこの舞台から羽ばたいていった。

また、G1タイトルには手が届いていないものの、ウォーターリヒト、ウォーターガーベラの兄妹が2年連続で3着に入り、競馬ファンを驚かせたことも記憶に新しい。特に兄ウォーターリヒトは2025年のマイルチャンピオンシップでも3着に健闘した。今年こそG1タイトルに手が届くか、注目される存在だ。

2026年のシンザン記念には16頭が出走。寒気の影響で午後のレースには一時雪が舞う場面もあったが、メインレースの時間帯は好天に恵まれ、良馬場で行われることとなった。

1番人気に推されたのは、ルメール騎手を背にしたモノポリオ。母ミスエーニョからは牝馬の産駒が続いており、本馬は初の牡馬産駒となる。クラシック路線に向かうステップに出来るか注目の存在だ。
2番人気はバルセシート。半姉にG1馬レシステンシアを持ち、京都マイルの新馬戦を快勝。距離を延ばした京都2歳ステークスでは力を出し切れなかったが、再びマイルに戻る今回は見直しの一戦となる。

新馬戦1勝でこの舞台に挑むアルトラムス、1800m戦を経験して距離短縮を選んだサウンドムーブ、夏の新潟で逃げ切り7馬身差の圧勝を演じたディアダイアモンドまでが単勝オッズ一桁台の支持を集めた。人気は拮抗し、どの馬にもチャンスがあるとファンが感じる一戦だった。

春の、そしてその先の飛躍を夢見て、16頭のゲートインが始まる。

レース概況

スタートはややばらつき、好発を決めた8枠の2頭に対し、最内のアルトラムスと11番枠のバルセシートは出負けして後方からの競馬となった。外の馬たちが出たなりにポジションを探る中、ルートサーティーンと岩田康誠騎手が内埒沿いを確保。ファニーバニーが逃げ、2番手にカクウチ、フレイムスターが続いて先行集団が形成された。

その後ろには内からサンダーストラック、モノポリオ、プレダトゥール、クールデイトナが横並び。今回は控える形となったディアダイアモンドがサンダーストラックの直後につけ、トミーバローズとサウンドムーブの間をフォルナックスが追走する。コーナー入り口でトミーバローズが位置を下げ、出負けしたアルトラムスとバルセシートは落ち着いて末脚を溜める構え。リアライズブラーヴ、エイズルブルームが後方で外回りコースへ向かった。

気分よく逃げるファニーバニーの800m通過は46.4秒。よどみのないペースでコーナーを下るが、後続も徐々に差を詰めていく。逃げるファニーバニーはロスを減らすため内埒沿いを選択するが、内回りコースとの合流地点で、その背後からサンダーストラックが一瞬の加速で迫る。内から並びかけたルートサーティーンが応戦するも、ファニーバニーとルートサーティーンの間に進路が生まれると、ハマーハンセン騎手が仕掛け、残り200mで逃げ馬をとらえた。

一団となった馬群から抜け出したサンダーストラックに迫ったのは、内外に広がった馬群の中から末脚を伸ばすサウンドムーブ。さらに大外からアルトラムスとバルセシートも鋭く突っ込んでくる。
4頭の追い比べは、ハマーハンセン騎手の右鞭に応え、外へヨレながらも最後まで脚色を保ったサンダーストラックが制した。サウンドムーブがクビ差の2着、外からアルトラムスが3着、バルセシートが4着。内中外から末脚を競い合った4頭が、後続を2馬身半突きはなす決着となった。

各馬短評

1着 サンダーストラック ハマーハンセン騎手

ドイツのリーディングジョッキーであるハマーハンセン騎手の騎乗は、初の短期免許とは思えない落ち着きと判断力が光った。
新馬戦、1勝クラスの黄菊賞ではルメール騎手とのコンビで走っていたが、今回はルメール騎手がモノポリオに騎乗したことで新コンビが誕生。加えて、このレースから装着したブリンカーが効果的に働き、前を追う競馬にしっかりと集中できていた。

道中は好位のインで折り合いをつけ、前が動くのをじっと待つ形。やや行きたがる面を見せながらも、鞍上が我慢を利かせ、内回りコースとの合流地点でGOサインを出すと、一瞬の加速で狭い進路を割って抜け出した。
スタート直後からルートサーティーンと岩田康誠騎手が内埒沿いにこだわる競馬をしていたことを思えば、同馬も直線までインを狙っていたはずだが、それを上回る鋭さで後続を交わしてみせた。

ブリンカー越しに見えていたのは、逃げるファニーバニーとルートサーティーンを交わす勝ち筋だったのだろう。右鞭を打ち、左腕一本で手綱を捌く形のため外へヨレる場面はあったが、勢いを削がれることなく押し切った点は高く評価できる。
スピードと反応の良さが際立つ内容で、新馬戦同様にマイル戦での高い適性を示した一戦だった。母シーブルックはオーストラリアの2歳マイルG1・シャンペインステークスの勝ち馬であり、距離はここがベストだろう。次なる目標はNHKマイルカップか。

2着 サウンドムーブ 団野大成騎手

新馬戦から団野騎手が継続騎乗。2戦続けて京都競馬場1800mを経験し、今回は1ハロンの距離短縮に挑んだ。大外枠から好スタートを決めると、後続の出方を見ながらポジションを選択。前にモノポリオとサンダーストラック、後ろにアルトラヌス、バルセシートという形で、各馬の動きに対応できる絶好の位置を確保した。

中団でしっかり脚を溜め、直線では馬群が内外に広がったタイミングでスムーズに進路を確保。モノポリオの後ろを抜け出すまで仕掛けを待てた点にも、団野騎手の冷静さが表れていた。
勝ち馬には一歩及ばなかったが、最後まで差を詰めた内容は立派。大外枠という条件上、インから抜け出したサンダーストラックと同じ競馬ができなかった点を思えば、着差以上に評価できる。

距離短縮でも折り合いを欠くことなく、大外を回しすぎるロスも最小限に抑えて走り切った。展開ひとつで着順が入れ替わっても不思議ではない競馬で、重賞2着による賞金加算も大きい。今後は距離を延ばすのか、マイル路線に据えるのか、陣営の判断に注目したい。

3着 アルトラムス 岩田望来騎手

新馬戦ではレーン騎手とのコンビで17頭立ての新馬戦を勝利。今回の出走16頭の中で唯一の1戦1勝馬として臨んだ一戦だった。
スタートで後手を踏む形となったが、岩田望来騎手は慌てることなく脚を温存。直線では馬群の大外からバルセシートと並ぶように鋭く伸び、上位争いに加わった。

坂の下りでバルセシートよりも一足早く前を意識して動き、外へ押し出しながらも進路を確保して前を追えた点は好判断。出負けからの競馬でありながら、内容は着順以上に評価できる。
新馬戦、そして今回と京都1600mを続けて使われたが、最後の脚を見る限り距離延長にも十分対応できそうだ。次走がキャリア3戦目となり、他馬と比べてまだレース数が少ないだけに、課題を克服するチャンスも十分に残されている。

4着 バルセシート 北村友一騎手

前走の京都2歳ステークスは、スタートで出遅れたうえに序盤で掛かってしまい、Cデムーロ騎手が抑えながら直線で外に出す形となったが、同じく外にいたジャスティンビスタの加速についていけず敗戦した。
半姉がスプリント、マイル路線で活躍したレシステンシアであることを考えれば、適性はマイルにあると見てのシンザン記念参戦だったと言える。

今回はゲート自体は出たものの、結果的に後方からの競馬に。それでも直線では大外から脚を伸ばし、最後まで諦めずに追い上げた。
マイルに戻ったことで前走より着順を上げ、直線最後方から上がり最速の末脚を繰り出したように、スピード負けは感じられない内容だった。

位置取りひとつ、直線での進路取りひとつで結果が大きく変わりそうな印象。今回のレースぶりを見る限り、1周コースの2000m戦では長いのかもしれないが、ワンターンの1800m戦までなら十分に対応できそうだ。折り合いがつき、末脚を活かせる展開になれば、再びパワフルな末脚を披露してくれるはずだ。

レース総評

サンダーストラックが直線で最内から一瞬の加速で馬群を抜け出すさまは、まさに“衝撃的”な走りだった。それを導いたハマーハンセン騎手は、初の短期免許での騎乗とは思えない落ち着きと胆力を見せた。
外回りコースから内回りコースとの合流点を通過する際、ほんの一瞬だけ内が空く区間が生まれる。ロスなく進む戦術としては狙いたいポイントだが、そこに馬を導くには、進路が開くことを信じて踏み込む勇気と、迷いのない判断が必要だ。狙いすました一瞬の決断で馬を導いたその騎乗は、さすがドイツのリーディングジョッキーの手腕であり、それに応えたサンダーストラックの走りも、3歳馬離れした驚くべきものだった。

もっとも、この一戦は勝ち馬だけのワンサイドレースではない。
大外枠からでも無駄のない立ち回りで迫ったサウンドムーブは、枠の不利を感じさせない内容だった。スタートを決めたことで直線勝負に持ち込む余裕を持ち、内外の差を考えれば、サンダーストラックにクビ差まで詰め寄った走りも高く評価できる。

出負けを挽回して外から鋭く脚を伸ばしたアルトラムス、バルセシートも、それぞれ末脚を発揮して着順を上げた。勝ち切るにはまだ課題を残すものの、次走に向けて何を磨くべきかを明確にした一戦だったと言えるだろう。

シンザン記念の面白さは、必ずしもこのレースで勝ち負けに加わった馬だけが出世するわけではない点にある。先述のファインニードルも、このレースでは10着に敗れている。
サンダーストラック以上に大きな飛躍を遂げる馬が、今後この中から現れるかもしれない。レースに敗れた馬たちからも可能性を感じさせてくれるところこそ、シンザン記念というレースの魅力だ。
勿論、勝ったサンダーストラックには、今後の大舞台でも「上手い走り」を見せてくれることを期待せずにはいられない。

写真:INONECO




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