[重賞回顧]惜敗にサラバ!いざ桜の女王へ~2026年・チューリップ賞~ 

3月1日。春を先取りするような暖かさが列島を包むなか、クラシックへ向けたトライアル戦線が幕を開けた。

今週のメインは桜花賞トライアル、チューリップ賞。阪神芝1600mは、冬の阪神ジュベナイルフィリーズ、そして上位3頭に優先出走権が与えられる桜花賞と同条件。まさに“本番直結”の舞台である。

1番人気はアランカール。母は2016年のチューリップ賞を制し、桜花賞2着、オークス1着と春の主役を張った名牝シンハライトだ。10年の時を経て、その娘が再びこの舞台でクラシックの権利を目指す。鞍上は騎手デビュー40周年を迎えたレジェンド・武豊騎手。

続く2番人気タイセイボーグは、これまでの対戦相手が強い。新潟2歳ステークスでは共同通信杯勝ち馬リアライズシリウスの2着。アルテミスステークスでは惜しまれつつターフを去ったフィロステファニの3着。阪神ジュベナイルフィリーズでも3着と、重賞3戦連続で好走を続けてきた。あと一歩届かなかった悔しさに、ここでピリオドを打てるか。

その後に続くのは、兄姉が重賞戦線で活躍するソルパッサーレ、三冠牝馬リバティアイランドの半妹コニーアイランド、重賞4勝スマートレイアーの娘スマートプリエールと血統背景豊かな馬たちが続く。

さらに、佐賀競馬からは8戦6勝2着2回の実績を誇るサキドリトッケンが参戦。鞍上は2021年ヤングジョッキーズチャンピオンで、地元佐賀で大活躍の飛田愛斗騎手だ。

出走した全15頭が、勝てばJRA重賞初制覇。
桜花賞への切符を懸け、青空の阪神競馬場でゲートインが始まった。

レース概況

スタートで初芝のサキドリトッケンがやや出遅れたが、他の馬たちはほぼ揃った発進。内枠を利してグレースジェンヌが前へ出ると、外からダンデノン、さらにこれまで逃げてきたグランドオーパスが主張し、先頭に立つ。内にグレースジェンヌ、外にダンデノンという形で隊列が固まった。

その直後にエレガンスアスク、スマートプリエール、ナムラコスモスが続き、ホワイトオーキッド、アンディムジーク、ソルパッサーレが中団。タイセイボーグは後方外目で脚を溜め、その3〜4馬身後ろにアランカール。さらにコニーアイランドらが続いた。

前半600mは36秒ちょうどのスローペース。ペースが遅くなったことで出遅れたサキドリトッケンも徐々に馬群へ取りつき、インコースを追走して外回りコースへと向かう。

3コーナー手前でホワイトオーキッドが外から進出するが、逃げるグランドオーパスと2番手ダンデノンは手応え十分のまま直線へ。

迎えた直線。内外に広がる攻防のなか、粘るグランドオーパスにダンデノンが並びかける。残り200m、先行していたナムラコスモスが前との差を詰め、さらに外からタイセイボーグが鋭く加速。トップスピードに乗ると一気に前を射程圏へと捉えた。

ゴール前は4頭が横一線。その外から武豊騎手のアランカールも懸命に脚を伸ばし、5頭が一団となってフィニッシュへ。最後のひと踏ん張りでクビ差抜け出したのはタイセイボーグ。ついに惜敗に終止符を打った。

2着は先行から抜け出したナムラコスモス、さらにクビ差の3着にアランカール。この3頭が桜花賞への優先出走権を手にした。4着は逃げ粘ったグランドオーパスがダンデノンとの競り合いをハナ差制した。

スローペースで流れを作った先行勢が上位に残るなか、後方から鋭く差し込んだタイセイボーグとアランカールの末脚が際立つ一戦となった。初芝挑戦のサキドリトッケンも内を立ち回り、勝ち馬から0秒6差の11着。着差を思えば、スタートのロスが悔やまれる内容だった。

各馬短評

1着 タイセイボーグ 西村淳也騎手

スローペースを後方外目でじっくり構え、直線でもそのまま迷わず外へ。
安全に末脚を繰り出せる位置を確保してからトップスピードに乗ると、一完歩ごとに前との差を詰め、最後はクビ差抜け出した。

2019年の春秋マイル王、インディチャンプ産駒初の重賞ウィナー誕生の瞬間である(ちなみにJRA産駒初勝利も、タイセイボーグが記録している)。これまでマイル重賞で3戦連続好走しながら、あと一歩勝利に届かなかった。しかし阪神ジュベナイルフィリーズ3着という実績に加え、阪神1600mで1分32秒9というメンバー唯一の32秒台の持ち時計。そのタイムの裏付けこそ、このメンバーの中で一枚上の存在であることを物語っていた。

新潟2歳ステークスで刃を交えたリアライズシリウスは共同通信杯から皐月賞へ向かい、阪神ジュベナイルフィリーズ組とは桜花賞で再戦が見込まれる。2歳夏から強い相手と戦い続けてきた経験値が、ここで実を結んだ形だ。

フィロステファニに敗れたアルテミスステークスから今回までの約半年で馬体は26キロ増。まさに成長途上にある。古馬になってからも長く一線級で活躍した父を思えば、この馬の成長曲線もまだ先にあるのかもしれない。

阪神1600mという本番直結の舞台で結果を出した意義は大きい。
チューリップ賞の勝利で、堂々と桜花賞へ。リベンジの準備は整った。

2着 ナムラコスモス 田口貫太騎手

芝1200mの新馬戦では6着に敗れたが、距離を1400mに延ばした未勝利戦で初勝利。続く京都1600mのこぶし賞(1勝クラス)では、逃げたチュウワカーネギーが粘る展開を後方から差し切り、牡馬混合戦でも通用する力を示した。その走りが評価されつつも、今回は8番人気。まだ半信半疑に見られていたのかもしれない。

前走内容からはタイセイボーグやアランカールと同じく差し脚勝負を予想していたが、新馬戦から手綱を取る田口寛太騎手の選択は先行策。前2頭を射程に入れながら折り合いをつけ、直線では早めに動いて逃げ勢を追い詰める強気の競馬に出た。

前半600m36秒のスローペースも味方したとはいえ、粘り強く脚を伸ばして2着を確保。勝ち馬にはわずかに及ばなかったが、前からでも後ろからでも競馬ができる器用さは大きな武器だ。

立ち回りの巧さが光り、阪神マイルへの適性も証明。優先出走権に加え、重賞2着で賞金も加算した。田口騎手とのコンビで、次はどのポジションから勝負を仕掛けるのか。本番での戦法にも注目したい。

3着 アランカール 武豊騎手

母シンハライトと同じ舞台で、桜花賞への権利を確保した。

後方から外を回し、直線で一気に脚を伸ばしたが、わずかに及ばなかった。
ディープインパクト産駒で鋭い切れ味を武器にした母に比べると、加速にひと呼吸かかる印象はある。
それでもトップスピードに乗ってからの伸び脚は、さすが良血馬と唸らせるものだった。

外を回して末脚に懸けるレーススタイルは、前半600m36秒のスローペースでは楽ではない。
それでも最後の1枚の切符を確保したあたりに、武豊騎手の勝負強さがにじむ。

母シンハライトは桜花賞でジュエラーとの大接戦に敗れたのち、距離が2400mへ伸びたオークスで鮮やかに戴冠した。アランカールも今回の脚の使いどころを見る限り、距離延長はむしろ歓迎かもしれない。

桜花賞では仕掛けのタイミングが勝敗を左右するだろう。
もし武豊騎手との継続騎乗が叶うなら、この舞台で名手が測った末脚はいつ解き放たれるのか、その仕掛けどころに注目したい。

11着 サキドリトッケン 飛田愛斗騎手

JRA馬主である三岡陽オーナーの夫人、三岡有香オーナーの所有馬サキドリトッケン。その名は法律用語の「先取特権」に由来する。地方馬主の中央挑戦時に用いられる“交流服”を着用し、佐賀競馬所属の飛田愛斗騎手とのコンビでトライアルの舞台に立った。

初の芝、そして中央重賞という大舞台。スタートで後手を踏んだが、重心を低く沈めてストライドを伸ばすフォームで内をロスなく進出。前半600mで馬群に取りつき、残り800m付近からは最内に潜り込んでも怯む様子はなかった。直線でも迷わず内を選択。飛田騎手の勝負手だったのだろう。坂を上がってからもじりじりと加速し、最後まで脚を伸ばした。

上がり3ハロン33秒2は、後方大外から追い込んだエイズルブルームと並ぶメンバー3位タイ。勝ち馬から0秒6差の11着である。

着順だけを見れば11着。しかし、序盤に脚を使いながらも馬群に追いつき、最内で怯まず、最後まで伸びた内容は着順以上の価値があった。スローペースで後方勢には厳しい展開のなか、この着差なら出遅れなければ、とタラレバを語りたくなってしまう。

かつて笠松から安藤勝己元騎手とともに春クラシックへ挑んだライデンリーダーもヒカル牧場の生産馬。30年越しの挑戦はあと一歩届かなかったが、この経験は確実に糧となるはずだ。再びJRAの舞台に立つ日を待ちたい。直近なら、夏の小倉競馬場はどうだろうか。

レース総評

結果的に、1着タイセイボーグ、2着ナムラコスモスはともに“競馬が上手い”2頭だった。スローペースを読み、位置を取り、仕掛けどころを見極める。立ち回りの巧さを見せたナムラコスモスと、現時点での完成度の高さで差し切ったタイセイボーグ。その差がそのまま着順に表れた印象だ。

対して3着アランカールは、まだどこか大味な競馬。それでも外を回して差し込んでくるあたりに能力の高さを感じさせる。不器用ながらも母を彷彿とさせるポテンシャルで切符を掴んだ一頭と言えるだろう。
本番で流れが速くなれば、より持ち味が生きる可能性は十分にある。

そして11着サキドリトッケン。着順こそ二桁だが、勝ち馬から0秒6差。序盤から追走し続け、最内を怯まず捌いてきた内容を見れば、芝適性が全くないとは思えない。条件や展開がかみ合えば、差はさらに詰められたはずだ。地方馬にとってJRA重賞への挑戦は、それ自体が大きな価値を持つ。その上で、着順以上の走りを見せた今回の内容は、確かな手応えを残したと言っていい。
ファンや陣営にとっても、次への夢をつなぐ走りだった。

トライアルは結果だけでなく、次へ繋がるヒントを残すレースでもある。阪神1600mで結果を出した2頭の完成度、能力で食らいついた1頭、そして挑戦の意義を示した1頭。
桜花賞やその先のレースへ向けて、それぞれの物語はまだ続いていく。

写真:@gomashiophoto、mosan

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