2020年の福島記念は、5年ぶりに開催最終週に行われることとなり、福島競馬の年間のフィナーレを飾るレースとなった。「ローカル重賞」「多頭数」「ハンデ戦」と、予想を難しくしそうな要素がたくさん詰まったレースではあるが、意外にも過去10年で馬連万馬券や3連単の配当が10万円を超えたレースは共に2回だけ。
実はさほど荒れずに、むしろ上位人気での決着が多い重賞なのだ。
今年もフルゲートの16頭がエントリーし、例年通り単勝人気は割れ気味のオッズとなっていた。

その中で、3.4倍の1番人気に推されたのは、5戦4勝3着1回と福島コースで抜群の実績を残しているヴァンケドミンゴだった。同コースで行われた7月の七夕賞で3着と好走し、今回は休み明け2戦目。まさに、狙いすましたローテーションでここに臨んできた。

続く2番人気となったのはバイオスパークで、昨年3月の2勝クラス・明石特別以降、近走は10戦して掲示板を外したのが2回だけという安定感を見せている。その掲示板を外したうちの1回は、休み明けで初のGⅡ挑戦となった前走の京都大賞典で、9着とはいえ勝ち馬からは0秒6差の惜敗といえる内容。ヴァンケドミンゴ同様、こちらも休み明け2戦目でさらなる上昇が期待された。

一方、3番人気に推されたのは、同じコースで4月に行われた福島民報杯を勝利したマイネルサーパス。この馬も、福島コースは4戦2勝2着1回と巧者ぶりを発揮していて、前述の2頭と同様に、休み明け2戦目での上昇が期待された。

そして、4番人気となったのがトーラスジェミニだった。こちらは出走馬の中では、唯一明確な逃げ馬といえる存在で、小回りコースで自らレースを作れる強みや、前走のGⅡ毎日王冠でも6着と好走している点が評価されてのものだった。

レース概況

ゲートが開くと、ロードクエストとソロフレーズが少し出遅れたものの、ほぼ揃ったスタートとなった。

予想通り、内からトーラスジェミニが先手を取ると、テリトーリアルが前走と同様2番手につけ、レッドアネモスとマイネルファンロンが3番手で並ぶ。一方、上位人気の3頭は、揃って先行集団の後ろにポジションを取り、向正面に入った。

前の2頭が後続を引き離し、最後方とは20馬身以上の差ができて縦長の隊列となったが、前半の1000m通過は59秒6の平均ペース。決して早くないものの、淀みない流れとなっていた。

3コーナーに入って残り800m標識を通過しても縦長の隊列は変わらず、残り600mを切ったところでようやく2番手と3番手の差が詰まり始めた。しかし依然として縦長のままレースは4コーナーへ。

残り400m標識付近で、2番手のテリトーリアルが絶好の手応えで先頭のトーラスジェミニに並びかけ、ここでようやく先行集団から中団にいた馬達が一気に押し寄せ4コーナーを回りきる。

直線に入ると、テリトーリアルが、粘るトーラスジェミニや横並びの2番手集団を引き離し始め、残り200mを通過してもそのリードがまだ1馬身半ほどあった。
それを追って2番手集団から抜け出してきたのは2頭で、馬場の中央から伸びてきた1番人気のヴァンケドミンゴと、4コーナーでは内に押し込められるも、なんとか最内を回りきり、直線はテリトーリアルの外に持ち出され伸びてきた2番人気のバイオスパークだった。

この2頭が、叩き合いの末にゴール寸前でテリトーリアルを交わすと、最後は内のバイオスパークがクビ差先着して重賞初制覇。
2着ヴァンケドミンゴから1馬身遅れてテリトーリアルが3着。
以下デンコウアンジュ、ウインイクシードの順で続いた。

なお、この勝利により、鞍上の池添謙一騎手は史上6人目の全10場重賞制覇を達成した。

各馬短評

1着 バイオスパーク

道中は中団からやや前目の内側を追走。
想定外だったとは思うが、内の窮屈なスペースに押し込められながらも4コーナーをギリギリ回って直線に向くと、今度は馬場の内から3頭目あたりまで持ち出されて伸びてきた。
今年に入り、窮屈になった4コーナー以外は、おそらく意図的に、一貫してそのようなレース運びをされている。確かに2着馬とは通ったコースの差があったかもしれないが、簡単にその一言で済まされるものではない。

また、折り合いに注文がつくようなところはまるでなく、常に安定した力を発揮できるタイプ。
前走の京都大賞典では、残り100mを切ってから最後の伸びを欠いただけに、休み明け2戦目の今回は、確実に状態も上向いていたのではないだろうか。

2着 ヴァンケドミンゴ

今回も、得意の福島で上位入着を果たした。
父ルーラーシップの産駒は晩成傾向にある。この馬は近走だと得意舞台の福島2000mを中心に使われているが、前走はワンターンの京都外回りで休み明けでも3着に入っていることを踏まえても、おそらく充実期を迎えつつある。

少なくとも、ローカルの2000mや中央場所の小回り2000mでは、スローペースの上がり勝負にでもならない限り、大崩れすることはまず考えにくい。

3着 テリトーリアル

決して目立つタイプではないが、この馬も過去2年間で15戦して二桁着順が2度のみ。

それ以外は全て6着以上で、3着内が実に10回という堅実派だ。
父は、サドラーズウェルズ系のTeofiloで、トニービン持ちの2着馬にもいえるが、ヨーロッパのスタミナタイプが本格化して、中距離のよどみない流れのレースを先行できるようになるとかなり強い。
間もなく7歳シーズンを迎えるが、2000m前後の距離であれば、まだ好走は続くのではとみている。

レース総評

上位3頭はいずれも重賞未勝利だったが、過去に小回り2000mの重賞で3着に惜敗した実績のある馬達で、その中でバイオスパークが見事に初タイトルを獲得した。道中のラップタイムは、通常最も遅くなる最初の200mと、逆に最も早くなる次の200m、そして最後の200m以外は、全て11秒8~12秒1というタイムが刻まれ(最後の1ハロンも12秒4)、緩むところがない厳しい流れのレースとなった。

勝ったバイオスパークの父は、エリザベス女王杯を制したラッキーライラックと同じオルフェーヴル。
2020年のオルフェーヴル産駒は、年始の2ヶ月で多数の勝利を挙げ好スタートを切ったが、春競馬では一度落ち込んでしまった。しかし、夏のローカル開催で再び活気を取り戻すと、この開催4日間で重賞3勝の大活躍となった。

2019年には52頭まで落ち込んだ種付け頭数も、2020年は3倍超の165頭まで盛り返し、中央競馬の種牡馬リーディングでは11月16日時点で4位と、ついに本領を発揮しつつある。

また、そのオルフェーヴルの現役時に手綱を取っていたのが、今回バイオスパークに騎乗した池添謙一騎手。
史上6人目の全10場重賞制覇の快挙をその産駒で達成したことに、なにか運命めいたものを感じずにはいられないレースとなった。

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