以前の愛知杯は、カブトヤマ記念、中日新聞杯とともに、父内国産馬限定の重賞として12月に行われていた。しかし、サンデーサイレンス産駒が大活躍して爆発的に枝葉を広げ、その産駒が種牡馬となってサイアーランキングの上位を賑わすようになり、父内国産馬限定の重賞はその役割を終え、姿を消した。

愛知杯も、2004年からは牝馬限定のハンデ重賞へと姿を変え、時期も当初は6月、その後12月へと戻ったが、現在は1月に落ち着いている。

牝馬限定のハンデ重賞のため、多くの年で大混戦となっており、過去16回で二桁人気馬同士の決着が実に3回、さらにそのうちの2回は、3着にも二桁人気馬が入る大波乱となっている。


2021年もフルゲートの18頭立てとなり、例年どおり人気は割れたが、1番人気に推されたのは6歳馬のセンテリュオだった。オーストラリアに移籍して現地のGⅠを2勝したトーセンスターダムを全兄に持つ同馬は、昨秋ついに本格化。GⅡのオールカマーで初めて重賞を制すと、続くエリザベス女王杯でも勝ったラッキーライラックから0秒5差の5着と好走した。今回はそれ以来、およそ2ヶ月ぶりの実戦となった。

一方、2番人気に推されたのは、4歳馬のマジックキャッスル。昨年の牝馬三冠レースに皆勤した同馬は、前走の秋華賞で、無敗の牝馬三冠を達成したデアリングタクトから0秒2差の2着に激走。1勝馬ながら、道悪に泣いた桜花賞以外は全て5着以内を確保していて、3ヶ月ぶりの実戦となる今回も好走が期待された。

そして、3番人気に続いたのは5歳馬のサトノダムゼルだった。ここまで、わずかキャリア8戦。デビューから、3戦全勝で挑んだ2019年の秋華賞は13着と敗れたものの、その後3勝クラスを2戦で突破。前走は、リステッド競走のディセンバーステークスで2着と好走していた。この馬も、秋華賞以外は全て5着以内を確保している堅実派。さらに半兄には、昨年から種牡馬として日本で供用されているアニマルキングダムがいるという血統の良さにも、注目が集まった。

以下、シゲルピンクダイヤとレッドアステルまでの5頭が、最終的に単勝オッズ10倍を切っていた。

レース概況

全馬ほぼ揃ったスタートから、まずディアンドルとナルハヤの2頭が飛び出す。
さらに、タガノアスワドがその後を追いかけ、これら3頭が先行集団を形成し1コーナーを回った。

後続は、そこから早くも6~7馬身開いて、サトノダムゼルが単独4番手。その後ろに、シゲルピンクダイヤをはじめとする5頭が集団をなし、上位人気に推されたマジックキャッスル、センテリュオ、レッドアステルは、中団よりも後方に位置していた。

1000mの通過は、57秒9とかなりのハイペース。
向正面では、先頭から最後方まで30馬身ほどの差で、かなり縦長の隊列に。
特に、センテリュオは行きっぷりが良くないのか、ルメール騎手が早くもこの辺りで手綱を押してポジションを上げようとしていたが、馬はそれに反応できず、逆に後方へと下がってしまう。

レースは進み、3・4コーナーの中間点で、4番手以下が一団となってその差が15馬身ほどに縮まる。さらに、4コーナーを回ったところで、ナルハヤとタガノアスワドは後退。ディアンドルが、1馬身ほどのリードをとって、最後の直線へと入った。

直線に向き、2番手から追い込んできたのは、サトノダムゼル、ランブリングアレー、シゲルピンクダイヤ、マジックキャッスルの4頭。中でも、ランブリングアレーとマジックキャッスルの伸び脚が良く、残り200mを切って先頭に立つと、そこからは完全に2頭の一騎打ちとなった。また、その後ろの3番手争いも、後方から追い込んできた、ウラヌスチャームとアブレイズの一騎打ちとなっていた。

前の争いはゴール板まで続き、ランブリングアレーが終始小差でリードしていたものの、最後の最後でマジックキャッスルが差し切って優勝。

2着はクビ差でランブリングアレーが入り、そこから3馬身離れた熾烈な3着争いは、ハナ差でウラヌスチャームが制していた。

良馬場の勝ちタイムは、1分58秒7。勝ったマジックキャッスルにとっては、待望の2勝目が初の重賞制覇となった。

各馬短評

1着 マジックキャッスル

秋華賞で自身の後に上位入線した馬が、相次いで3勝クラスで敗れ(勝負所で不利を受けた馬もいた)、この馬にとって今回は試金石の一戦となったが、見事に結果を出した。

牝馬限定のGⅠであれば、瞬発力が求められるヴィクトリアマイルよりも、底力が求められる阪神開催のエリザベス女王杯が向くはず。他にも今回と同じ舞台で行われる金鯱賞や、マーメイドステークス、オールカマーなど、タフな馬場や展開となって、底力が求められそうなレースで狙ってみたい。

2着 ランブリングアレー

前走は、久々のマイル戦で結果が出なかったが、現状、得意としている2000mのレースで見事に巻き返した。

上述したとおり、タフな展開になったことも良かったが、勝ち馬と生産牧場が同じだったことに加え、父ディープインパクト、母の父シンボリクリスエスという点まで同じだったことも、偶然の一致ではない。

3着 ウラヌスチャーム

この馬も長距離に実績があり、2400mのメトロポリタンステークス勝ちの他に、前々走制した新潟牝馬ステークスも、重馬場でタフさが求められるレースだった。今後もやはり、梅雨時で底力が求められることの多いマーメイドステークスや、北海道で行われる2600mのオープンに出走したときが狙い目になるのではないだろうか。

レース総評

道中ハイペースで流れたために、上位入線馬にとっては、通常の中京競馬場のレースで求められる以上の底力勝負となったことが向いた。とはいえ、上位2頭は3着以下を3馬身も引き離しており、単に展開に恵まれただけというわけではない。特に、マジックキャッスルに関しては、秋華賞でデアリングタクトに迫った実力が本物だったということが、改めて証明された格好だ。

また、土曜日の中京の芝のレースは、先週までとは違い、外枠に入った馬にもチャンスが出てきているが、それ以上に顕著だったのは、ロベルトの血を持つ馬が、多数、上位入線を果たしたことだ。特に、9~11レースの3着までに入った9頭中6頭が母系にロベルトを持っていて、実にその内の5頭は、母の父がシンボリクリスエスだった。

中京競馬場の芝が、内枠・先行有利の馬場から、底力・持久力が求められる馬場へと変化していることへの表れなのか。引き続き注目していきたい。

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