惜敗続きに終止符。涙なしでは語れない、レーヌミノルが制した2017年の桜花賞を振り返る。

2017年の桜花賞は、ある1頭の馬が単勝オッズ1.4倍という圧倒的な支持を集めていた。多くのファンが、その馬の勝利を信じてやまなかったことによるオッズだろう。

その馬の名はソウルスターリング。前年の阪神ジュベナイルフィリーズを制した2歳女王で、前哨戦のチューリップ賞も1番人気に応えて快勝。

無傷の4連勝で桜花賞に駒を進めてきた馬である。藤沢和雄厩舎とクリストフ・ルメール騎手の黄金タッグであったことも、人気を後押ししていたはずだ。

だが、そんなファンの思惑をよそに、先頭でゴール板を駆け抜けたのは、レーヌミノルという伏兵であった。

稀代の快速娘、爆誕!

レーヌミノルは父がダイワメジャー、母父がタイキシャトルという血統構成で、2016年夏の小倉でデビューを果たす。圧巻だったのは新馬戦を勝利した後に出走した小倉2歳ステークスであった。3コーナーを過ぎたあたりで楽々と先頭に立つと、最後の直線では完全に一人旅。後続馬たちとの差をグングンと広げていき、終わってみれば2着馬に6馬身差をつけての圧勝劇を見せつけたのである。

1,200Mの短距離戦でこれだけの大差をつけるのは、強さの証明以外の何物でもない。「稀代の快速娘、爆誕!」。当時、そんな言葉が脳裏をよぎったのは決して私だけではないだろう。

しかしその後、出走するレースの距離が伸びていくにつれ、勝ちきれないレースが続いてしまった。1,400Mの京王杯2歳ステークスでは最後の直線で先頭に立つも、ゴール手前でモンドキャンノに差されてしまい2着。2歳女王決定戦の阪神ジュベナイルフィリーズでもいいレースはしているものの、前述のソウルスターリングには完敗であった。

年明け初戦に出走したクイーンカップでも直線では先頭を走るもゴール前で捕まってしまい4着。その後に出走した桜花賞トライアルのフィリーズレビューでは単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持される。が、またまたゴール直前にカラクレナイに差されてしまい悔しい2着。「レーヌミノルはやはり1,200Mでこその馬なのか……」。そう考えた競馬ファンも多かったのではなかろうか。これまでのレースでは常に単勝オッズ10倍以下の人気となっていたレーヌミノルであったが、桜花賞当日は単勝オッズが40倍を超える8番人気となり、大きく支持を落としてしまっていた。

名馬たちを完封し、惜敗続きに終止符を。

そして迎えた2017年の桜花賞当日。桜花賞の日には珍しいようなどんよりとした空模様で、馬場状態は稍重というコンディション。実況アナウンサーの話によると、桜花賞が良馬場以外での開催となるのはキョウエイマーチが泥んこの不良馬場を駆け抜けた1997年以来、20年ぶりとのことだった。

そんな天候から、若干の波乱ムードが漂う桜花賞当日の阪神競馬場には、のちのち振り返ると錚々たる名馬たちが集結していた。2歳女王で後にオークスも制覇することになるソウルスターリング。2018年のエリザベス女王杯を勝利し、2019年には宝塚記念に有馬記念、オーストラリアのコックスプレートまで勝利し、歴代最強クラスの牝馬として競馬史に名を連ねるリスグラシュー。

3歳時には秋華賞を勝利、古馬になってからは海外を転々とし、イギリスのナッソーステークスを勝ち、香港カップでも2着という成績を残したディアドラ。NHKマイルカップを制し、古馬になってからは安田記念2着、天皇賞・秋3着と、G1戦線を盛り上げてくれたアエロリット。

これらの名馬たちを引き連れ、レーヌミノルは見事に桜の女王の栄冠を勝ち取ったのである。

レースが始まった。

スタートと共に、この年の出走馬の中で唯一のディープインパクト産駒・カワキタエンカ(この馬も後に中山牝馬ステークスで勝利)が大外18番枠から果敢に先頭を奪って、淀みのないペースで後続を引き離していく。そんな中、レーヌミノルは今回初騎乗の池添謙一騎手を背に前から4~5番手の位置でじっくりと脚を溜めながらレースを進めていた。最後の直線に入り、レーヌミノルは残り200メートルほどの所で逃げるカワキタエンカを捉えて先頭にたつ。

今までのレースも、ここまでは良かった。あとはこのまま先頭でゴール板を駆け抜けられるか否か──。

レーヌミノルを応援している人にとっては長い長い10秒間。外からはソウルスターリングが迫ってきていて、さらにその外からはリスグラシューやカラクレナイも猛然と追い込んでくる。

「粘れ、粘れ、粘ってくれ……!」

そんな祈りが、今回ばかりは届いた。レーヌミノルは最後まで失速することなくゴール板を通過したのであった。

記憶に残る、レース後の涙。

レース後、検量室前で号泣しながら勝利したレーヌミノルを迎えたのは、彼女を担当する中井仁調教助手だった。その隣でもうっすらと目に涙を浮かべていた本田優調教師、もらい泣きをしそうな池添謙一ジョッキーたち。

速くても勝てない、強くても勝てない──。そんな状況の中、関係者の方々も試行錯誤をしてきて掴み取った桜の栄冠。

先述の小倉2歳ステークスの衝撃からレーヌミノルファンとなっていた私自身も、この桜花賞の勝利には惜敗続きで胸の内にたまっていたモヤモヤが晴れ、溜飲が下がる思いがした。遠くから見守っていただけの私ですらそうなのだから、レーヌミノルと深く関わってきた人たちが感動しないわけがないじゃないか。

こうした関係者たちの姿も印象的で、なんとも心に残る桜花賞となった。

また、中井仁調教助手といえばレーヌミノルへの溺愛っぷりが競馬ファンの間でも話題となった。キスをするようにレーヌミノルと寄り添っている写真が有名だ。

そういったドラマ性も相まって、桜の季節になるとレーヌミノルのことを思い出すのである。

写真:かぼす、Horse Memorys

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