JRAのGⅠ開幕を告げるフェブラリーステークス。
JRAのダートGⅠとしては他にチャンピオンズカップが行われているが、昨年そこで上位に入着した馬が遠征・引退・長期離脱などで続々と回避。掲示板に食い込んだ馬は3着のインティのみの出走となったため、戦前から大混戦の様相を呈していた。

その中で、1番人気に推されたのは、唯一の4歳馬カフェファラオだった。
前走のチャンピオンズカップは、古馬の一線級に跳ね返されて6着と敗れたが、昨年、ユニコーンステークスを圧勝した際の内容は、タイム面なども含めて秀逸。今回は、それ以来の東京ダート1600mで、初GⅠ制覇と世代交代が同時に実現するかに、注目が集まった。

続く2番人気に推されたのはアルクトスで、3走前のマイルチャンピオンシップ南部杯では、1分32秒7という驚愕の日本レコードととものGⅠ級初制覇を達成。東京競馬場は8戦5勝と相性が良く、今回は、念願の中央GⅠ初制覇を目指しここに臨んでいた。

3番人気となったのは、関東の前哨戦の根岸ステークスを勝利したレッドルゼル。ここまで1600m以上のレースには未出走で、鞍上の川田騎手も距離に関しては「長い」とコメントしているものの、ここ2走は、マイル戦を意識したレース運びをしているとのこと。その成果が生かされるか。そして、ホープフルステークスに続き、師弟コンビでのGⅠ制覇なるか、注目が集まった。

そして、4番人気に推されたのは、7歳馬のサンライズノヴァ。2019年のマイルチャンピオンシップ南部杯を制し、昨年のフェブラリーステークスでも3着に入っている実績馬である。この馬も、アルクトスと同様、左回りのワンターンは得意としている条件で、こちらも中央GⅠ初制覇の期待がかかっていた。

レース概況

スタートが切られると、サクセスエナジーとサンライズノヴァが、やや立ち後れる格好となった。

まず、最内から飛び出したエアアルマスが先手を切り、そこにヘリオスとワイドファラオが絡んで、3頭が横並びの状態。その後ろに、早くもカフェファラオがつけて外のオーヴェルニュと併走し、アルクトスが6番手を進んだ。

一方、他の上位人気馬では、レッドルゼルが中団やや後ろの10番手で、サンライズノヴァは最後方。そして、展開の鍵を握ると思われていた2年前の覇者インティも、後ろから4番手という意外な位置につけていた。

最初の600m通過は34秒7の平均ペースで、先頭から最後方までは12馬身ほどの隊列に。

3コーナーに入るところで、今度はワイドファラオが先頭に変わり、エアアルマスが半馬身差の2番手となる。そこから2馬身離された単独3番手に、カフェファラオが続いた。
さらに4コーナーで、ヘリオスはやや後退気味となる。それをアルクトスとオーヴェルニュが交わして先行3頭へと取り付き、レースは最後の直線コースへと入った。

直線に向くと、再びエアアルマスが先頭を奪い返してリードは1馬身。
ワイドファラオは後退し、変わって追ってきたのは、内からワンダーリーデル、中からカフェファラオ、そして外のエアスピネルという3頭。中でも、カフェファラオの伸びが目立ち、残り200mを切ったところで先頭に立つと、2番手集団に1馬身半のリードを取って逃げ込みを図る。

その2番手集団の中ではエアスピネルの勢いが良く懸命に前を追うが、ジリジリとしか差が縮まらない。

結局、残り50mで脚色が同じになってしまい、そのままカフェファラオが押し切って1着でゴールイン。4分の3馬身差の2着にエアスピネル。そして、レッドルゼルの猛追を凌いだワンダーリーデルが3着に入った。

良馬場の勝ちタイムは、1分34秒4。
2歳のデビューから大器の片鱗を随所に見せていたカフェファラオが、待望のGⅠ初制覇を達成した。

各馬短評

1着 カフェファラオ

デビュー3戦でGⅠ級の能力は示していたものの、ジャパンダートダービーでよもやの敗戦を喫すると、チャンピオンズカップでも敗れてしまった。しかしやはり、天才少年はそれで終わらなかった。

馬具を工夫し、さらにはルメール騎手がここ一番で見せる、絶対に失敗しないスタートと先行策で内枠を克服。トップトレーナーとトップジョッキーが、互いに持っている最大限の力を出して、できる限りの最善策を施し、最高の結果をもたらした。

次なる課題は、シリウスステークスを勝利しているものの、チャンピオンズカップが行われる中京1800mのような、2ターンのコースでのレース運びだろう。

2着 エアスピネル

今回の出走馬の中で、昨年のチャンピオンズカップにも出走していた馬は6頭いたが、3着インティ、6着カフェファラオに続いて、3番目に着順が良かった(7着)のは、実はこの馬だった。

長い休養を何度も挟みながら、7歳にして昨年ダート路線に転向し、ここまで勝利はないものの、5戦して今回が3度目の複勝圏内。その3度はすべてワンターンのコースで行われたレースだった。

また、芝のレースも合わせて、これがGⅠでは3度目の2着。8歳となり老いてなお盛んだが、なんとかGⅠタイトルを獲らせてあげたいと、思わずにはいられない。

3着 ワンダーリーデル

エアスピネルと同じ8歳馬だが、近走も好調。
昨年もこのレースで4着に食い込んでいて、同じ舞台の武蔵野ステークスでも、2019年は1着で、2020年が4着。そして、前走の根岸ステークスも2着と、東京コースではほぼ大崩れがない。

また、アメリカ血統が苦手とすることの多いダートの内枠を苦にしないことも、この馬の強みとしてあげられるだろう。

総評

勝ちタイムの1分34秒4は、レース史上2番目の好タイム。
フェブラリーステークスのレースレコードは、2016年にモーニンがマークした1分34秒0だが、その時は重馬場だったため、良馬場での今回のタイムは、かなり優秀だったといえる。

ただ、内枠を克服したことはとても大きな収穫だったが、やや離れた先行2頭を前にしながら、勝負所で単独3番手につけられた点など、レース内容に関しては、やや展開面で恵まれた部分があったことも事実である。この点は、鞍上のルメール騎手の判断に大いに助けられたところだろう。

上述したように、今回はクリソベリルやチュウワウィザードなど、インティ以外のチャンピオンズカップ上位入着馬が出走していない。そのため「これでダート界の頂点を獲った」とは言い切れない部分もあるだろう。
ただ、近い将来、ダート界の王者として君臨するようになったとしても全く驚かない。

それら二強以外にも、オメガパフュームや地方馬のカジノフォンテンなど、今回は対戦が叶わなかった馬達と激突するレースは、果たしてどの舞台になるのだろうか、楽しみは尽きない。

話は変わるが、ダート界といえば、血統面ではゴールドアリュール産駒や、その孫の世代も強いが、アメリカ系の血統も非常に強い。

大まかにいうと、ストームバード系、エーピーインディ系、そしてカフェファラオが属するファピアノ系の三大系統が、近年のダート界では世界的に幅を利かせている。しかしそのファピアノ系種牡馬の産駒がフェブラリーステークスを制したのは、今回が初めてとなった。

また、カフェファラオと同じAmerican Pharoah産駒は、ダノンファラオとリフレイムが既に活躍しているが、ファピアノの血は、母系に入ってもディープインパクト系種牡馬との相性が良く、特に昨年は、コントレイルやラウダシオンがGⅠを勝利するなど、大活躍を果たしている。

それに関連して、現役時はダート未出走ではあるものの、カフェファラオと同じAmerican Pharoah産駒のフォーウィールドライブが、1月に本国に輸入されていて、今春からブリーダーズスタリオンステーションで種付けが開始される予定だ(既に満口)。また、やはり現役時はダート未出走ではあるものの、社台スタリオンステーションには、ファピアノ系のシスキンが、昨年12月にスタッドインを果たしている。

エンパイアメーカーやダンカーク、バトルプラン、サマーバードなど、これまでも多くのファピアノ系種牡馬が日本でも供用されてきたが、近い将来、日本の競馬界でもいよいよ一大勢力を築いていきそうである。

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