短距離戦「高松宮記念」。
秋のスプリンターズステークスと合わせて、短距離界の頂点を決める戦いとしてこれまで様々な"電撃戦"が繰り広げられてきた。重馬場でのパワー勝負、上り馬のG1制覇、海外からの刺客など、どのレースも印象深く私たちの心に刻まれている。
しかし、そんな日本のスプリント決戦を語るうえで、欠かせない1頭の優駿がいる。
今回は「龍王」の名を持つスプリント界のスーパースターが制した高松宮記念について振り返る。
2013年の高松宮記念。
このレースは1頭の王者を中心に回っていた。
前年度のスプリンターズステークス勝ち馬で、12月には香港スプリントも制したロードカナロアだ。
新たな王者として迎える2013年は、始動戦の阪急杯を勝利。
最高の形でこの尾張決戦にやってきた。しかしながらこの高松宮記念という舞台はロードカナロアにとって良いイメージの舞台ではなかった。
前年の高松宮記念で、G1未勝利ながら1番人気に支持されたものの、思うようなレースが出来ず、結果は同厩舎のカレンチャンに敗れ3着。ロードカナロアの戦績で唯一「連対を外した」レースとなってしまった。
王者として同じ過ちは繰り返せない。G1タイトルを手に、リベンジ達成を目指す。
高松宮記念当日。
11番ロードカナロアの横に表示される単勝オッズは、なんと1.3倍。
前年をはるかに上回る期待がファンから寄せられた。
圧倒的人気のロードカナロアだが、ライバルも黙ってはいない。
スプリンターズステークスでカナロアに肉薄し、シルクロードステークスから連勝を狙うドリームバレンチノ、強烈な末脚を誇り阪神カップを連覇したサンカルロなど、精鋭17頭が王者に立ちはだかった。
17頭のマンマークを受けるロードカナロアはどういったレースをするのか。その点も大いに注目された。
G1ファンファーレが高らかに尾張の空に鳴り響き、電撃戦の幕が開いた。
各馬、揃ったスタート。息つく間もなくダッシュを利かせて各馬がポジションを探る。
まずは7枠の2頭ハクサンムーンとメモリアルイヤーが馬群を引き連れた。続いて16番アイラブリリと8番のマジンプロスパーが追走。
それほど早い流れにはならず、ロードカナロアはちょうど中団。
まさに先団を睨みつけるようにレースを進めた。
短距離戦はあっという間に4コーナー。
ハクサンムーンが17頭を引き連れて直線に向いた。
先頭はハクサンムーン。鞍上酒井学騎手は手応え余裕なまま、直線で追い出す。後続は横一線。ロードカナロアは馬場の真ん中で岩田康誠騎手の豪快な追いムチに応える。
そして、残り150m。
ハクサンムーンの行き脚が鈍ったとみるや王者が襲い掛かる。
グングン脚を伸ばし、最後はハクサンムーンをとらえ、ドリームバレンチノを振り切ってのゴールイン。
上がりは最速タイの33秒2。
この上がりを出したほかの馬は共に最後方付近から追い込んだ馬だった。
中団でまくり上げながらこの数値を出したロードカナロアは、まさに他17頭を"ねじ伏せた"と言えるだろう。着差以上の完勝だった。
見事、スプリントG1連覇を達成したロードカナロア。
このレース後は安田記念で2階級制覇に挑み、見事勝利する。さらには秋のスプリンターズステークス、香港スプリントと連覇を果たして夢を子供へと託した。
引退後はアーモンドアイなどを送り出し、今も日本競馬界になくてはならない存在である。
一度敗れたレースで完璧に抑え込んで勝利を挙げるということは簡単ではない。
まさに「王者」の名に相応しい見事な勝利だった。
写真:Horse Memorys