![[アイドルホース列伝]異国の地で輝いたヴィクトワールピサ。勇気を与える胴白、青縦縞、袖赤、青一本線と金沢・松戸政也騎手(淀乃三千さん)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/07/IMG_7469.jpeg)
2024年9月25日に発売開始された競馬書籍『アイドルホース列伝 超 1949ー2024』(星海社新書)。
昭和の名馬から現役の名馬まで156頭が紹介される一冊で、リバティアイランドやドウデュースといった現役馬、クロフネやヒシミラクルといったゼロ年代の名馬、シンザンやスピードシンボリといった昭和の名馬など1949年〜2024年の長期にわたる名馬たちが取り上げられる。
今回はそのなかから、淀乃三千さんによる、震災下の日本に勇気を与えたヴィクトワールピサの記事を紹介する。
2011年2月27日、中山競馬場。この日のメインは中山記念。ここを単勝1.4倍の1番人気で制したのはヴィクトワールピサだった。
前年皐月賞を制し、日本ダービーを3着に敗れると秋は菊花賞ではなく凱旋門賞に挑戦。斤量的には3歳馬に有利と言われ、初めてその年のクラシックホースが挑むとあって期待を集めるも7着に敗れた。帰国初戦のジャパンCで3着に入ると次走有馬記念では1番人気ブエナビスタの猛追をハナ差凌いで優勝した。

この当時、有馬記念を制した馬の春の目標は天皇賞・春か宝塚記念となるケースが多かったが、陣営の選択はいずれでもなくドバイワールドC、再びの海外挑戦であった。この中山記念はその前哨戦とされ、他を寄せ付けない完勝を見せて期待を高めた。
この年のドバイワールドCはヴィクトワールピサ以外にも、最強牝馬の呼び声が高いGⅠ5勝馬のブエナビスタと中央のダートGⅠを全て制したトランセンドも出走を表明。
得意馬場や脚質とタイプの異なる実力馬3頭が出走、しかも馬場は芝でもダートでもないオールウェザーとどの馬にもチャンスあり。いずれかが日本馬として初制覇するのではないかと競馬ファンは期待し、1カ月後の本番に期待を膨らませていた。
——その日までは。
3月11日に発生した東日本大震災は関東、東北地方に甚大な被害を与えた。競馬界でも被害は大きく中央競馬は3月中の中山競馬の開催を全て取りやめ、地方競馬も岩手は競馬場の損傷の改修が終わるまで開催できず、南関東は震災直後より開催中止。帯広のばんえい以外、東日本から一時的に競馬の火が消えてしまった。
新聞やテレビと言ったマスメディアは地震災害報道一色。スポーツイベントも中止や延期が相次ぎ競馬どころかスポーツニュース自体を取り上げる事すら減った。
競馬を楽しむどころではない。そんな空気が漂う。
そんな中、日本から遠く離れたドバイのメイダン競馬場で27日、ドバイワールドCは予定通りにスタートした。まずは予想通りにトランセンドがハナを奪って先頭、追い込みにかけるブエナビスタは後方を行き、これも予想通り。しかし、予想とは違う走りを見せたのがヴィクトワールピサ。後方待機策のブエナビスタのさらに後ろ、最後方を走っていた。ゲートが開いた瞬間に頭をぶつけて出遅れるというアクシデントを受けていたのだ。そんな中、鞍上のM・デムーロ騎手は驚きの騎乗を見せる。
向正面に入るとすーっとヴィクトワールピサを大外から前に進出させて行った。先行集団に取りつく事はせずにさらに前へ前へ。ついには先頭を行くトランセンドと並走を始めた。
ペースが遅いと読んだデムーロ騎手の判断。
出遅れた後に一気に先頭を窺う進出。
ともすればちぐはぐで暴走とも見られかねない騎乗だが2頭は他馬に飲み込まれる事なくコーナーを回って直線に。
トランセンドが体半分ほど前に出ているがヴィクトワールピサが直線で交わす。そこにトランセンドが食い下がる。さらに地元のモンテロッソが迫る。しかし、先頭どころか2番手との差すら縮まらない。カクテルライトと大歓声に包まれてヴィクトワールピサはトランセンドに半馬身差をつけてゴール。史上初のドバイワールドC制覇を日本馬のワンツーフィニッシュで飾った。
震災で沈んだ空気となり、未来も見出せない闇の中で中東ドバイから強烈な光となった勝利。競馬ファンやホースマンはもとより、光を求める震災下の日本を大いに勇気づけた。
そして、そんな素晴らしい勝利を見て、勇気よりもプレッシャーを覚えていた騎手が地方にいた。
松戸政也騎手。地方・金沢競馬場所属、デビュー7年目24歳(当時)の若手である。

この松戸騎手、11年の開幕から自身の勝負服のデザインをヴィクトワールピサと同じものに変更申請していたのだ(中央は馬主が、地方は騎手がデザインを決める)。
今までの勝負服デザインがしっくり来ないと感じていた時に目にしたのが皐月賞のヴィクトワールピサ。その走りを純粋にかっこよく感じ、思い切ってアレンジではなくそのままのデザインにしようと思って変更した。金沢競馬の開幕前に自ら中山記念に赴き、客席から改めてその強さに心を震わせた。そして訪れた、燦然と輝く世界制覇——。
図らずも世界を制した馬と同じ勝負服になり、高まるプレッシャー。
しかし、松戸騎手はそれに恥じないように金沢で結果を残すとこの勝負服で奮起。翌12年には勝利数を倍増させ、重賞初制覇も飾る活躍をみせた。この勝負服に変えてよかった、と松戸騎手は語り、今もなおこの勝負服でレースに挑んでいる。
あの日、東日本大震災で傷つき下を向いていた日本人に再び前を向いて立ち上がる勇気を与えたヴィクトワールピサ。時が流れ24年、能登半島地震で傷ついた石川県の金沢競馬場をあの時と同じデザインの勝負服が駆けている。それはまるで「天災に負けず元気でいこう」と言っているかのようだ。スタンドには、笑顔のファンから声援が飛ぶ。スケールは違えど、あの時のヴィクトワールピサに思いを馳せて、頑張っていこうという勇気と競馬を楽しめる日常を味わわせてくれている。
(淀乃三千)

写真:RIONT
永遠に色褪せない名馬たちの記憶を綴った新書
無傷の10連勝でダービーを制し、その17日後に急死した「幻の馬」トキノミノルから70余年。
父譲りの美しい栗毛をなびかせ大レースに挑み続けたナリタトップロード、人気薄から何度も勝利を重ねた"奇跡"のステイヤー・ヒシミラクル、爆発的な末脚で二冠を達成して引退すると、わずか5年の種牡馬生活で活躍馬を輩出、早すぎる死が惜しまれるドゥラメンテ、世界ランク1位を獲得した新時代の史上最強馬イクイノックス、名手との絆で不運と挫折を乗り越えた現役トップのドウデュースなど。
昭和の名馬から現役世代まで、時代を超えて愛される156頭の名馬たちの蹄跡をこの1冊に!
| 書籍名 | アイドルホース列伝 超 1949ー2024 |
|---|---|
| 著者名 | 著・編:小川隆行+ウマフリ |
| 発売日 | 2024年09月25日 |
| 価格 | 定価:1,350円(税別) |
| ページ数 | 320ページ |
| シリーズ | 星海社新書 |

紙面構成 - ドウデュースにリバティアイランド、メロディーレーンにキズナにドゥラメンテ。昭和の名馬シンザン・トキノミノルから現代の名馬まで156頭を紹介
第1章 その走りが伝説になる 2020年代
パンサラッサ 比類なき大逃走、二刀流の国際GⅠ馬
イクイノックス 三冠牝馬すら寄せ付けない衝撃の歴代最強馬
ドウデュース 夢に照らされる、競馬の「主人公」
ミックファイア 期待を背にひた走る、22年ぶりの南関三冠馬
リバティアイランド 一体どれほど強いのか、完全無欠の三冠牝馬 など25頭
第2章 忘れたくないあのときの夢 2010年代
ヴィクトワールピサ 勇気を与える胴白、青縦縞、袖赤、青一本輪
キズナ 逆境に打ち勝つ希望の末脚
モーリス 落札価格は約160万円、砂漠で見つけた宝石
ドゥラメンテ “d u r a m e n t e” に走りぬけた、早逝の二冠馬
メロディーレーン 小さな体に満つ、父母のくれたスタミナ など42頭
第3章 色褪せない新時代の記憶 2000年代
クロフネ 日本競馬の眠りをさました白い〝黒船〟
ヒシミラクル 駆けだしたら決して止まらない穴馬ステイヤー
ネオユニヴァース 熱いハートとクレバーな頭脳、魅惑の二冠馬
スティルインラブ 勝負強さと反骨心で手にした17年ぶりの偉業
ドリームジャーニー 父の血を感じる、愛すべき不器用なアイドル など35頭
第4章 黄金時代のスターたち 1990年代
ダイイチルビー 1頭に焦がれた、輝けるお嬢様
ヤマニンゼファー 良い意味で期待を裏切り続けた不屈の挑戦者
サクラローレル 度重なる故障を乗り越え摑んだ年度代表馬
メイセイオペラ 史上唯一、中央GⅠを制した岩手の伝説的王者
ナリタトップロード 強豪相手に惜敗続きも人に愛された実力派 など28頭
第5章 遙かなる伝説の蹄音 昭和の名馬
トキノミノル 「幻の馬」の記録が伝える凄み
シンザン 類稀なる生命力を示した、伝説の三冠馬
カブトシロー 69戦を走り抜いた古武士は小柄な万能タイプ
スピードシンボリ 未踏の地を求め続けた偉大なチャレンジャー など26頭
![[中山記念]ヴィクトワールピサ、ジャスタウェイ、パンサラッサ。中山記念の勝利を海外GⅠ制覇に繋げた馬たち](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/02/2026022601-300x199.jpg)