[種牡馬・血統紹介]個性派の名マイラー、ロゴタイプ

競走馬の強さの評価は、実に難しい。

2歳時から活躍し、早期から一線級の舞台で走ることを可能にする「早熟性」と、古馬になってからも長く活躍し続けられる「頑健性」。人気馬として堂々のレースぶりで勝利を掴む「王道性」と、穴馬として大物食いを果たす「意外性」。

様々な相反する要素が、競走馬の強さを形成する。

しかしそんな相反し、ときに矛盾する2つの要素を持っていた名マイラーがいた。
ロゴタイプである。

今回はそんな個性派の名馬ロゴタイプについて、振り返りと考察を行っていきたい。

ロゴタイプ
- 2010年産まれ

血統的な背景

父ローエングリンはイギリスの名馬シングスピールの産駒。国内外で通算48戦10勝という成績を残した馬だった。国内では中山記念やマイラーズCを連覇し、海外ではフランスのムーラン・ド・ロンシャン賞の2着や香港マイルでの3着など好走があったものの、G1タイトルを獲得できず引退。

そんな戦績的には地味であったローエングリンだが、母のカーリングはフランスオークスとヴェルメイユ賞のG1を2勝している名牝であり、血統的な期待の高さが後押しする形で種牡馬となった。

母のステレオタイプは中央競馬でのレースは未勝利であるが、22戦2勝(うち地方競馬で2勝)というやや地味な戦績を残している牝馬。ただし、ステレオタイプの父は名種牡馬サンデーサイレンス。さらに母のスターバレリーナはローズSを制して、重賞で2着が3度、3着が2度ある名牝である。こちらも実績より血統的な期待の高さが上回る繁殖だった。

現役時代

そんな両親から産まれたロゴタイプもまた、デビューからしばらくは地味な存在であった。しかしデビュー戦から札幌2歳Sまでの4戦を村田一誠騎手が手綱をとり、函館2歳Sや札幌2歳Sといった重賞で4着に入線するなど、素質の一端は示していた。

5戦目からミルコ・デムーロ騎手が手綱を取ることになったロゴタイプは、乗り替わり初戦となったベゴニア賞を好タイムで勝利し2勝目をマークする。

そして6戦目のG1・朝日杯フューチュリティS。
レース前のロゴタイプの評価は高くなかった。

札幌2歳Sを勝ち、東京スポーツ杯を勝って3連勝で出走してきた圧倒的人気馬のコディーノ。
同じく3連勝で出走してきた、京王杯2歳Sの覇者エーシントップ。
ローエングリン産駒であり、2連勝中のゴットフリート。

そんな、「土つかず」のライバルたちに注目が集まっていた。

しかしレースが始まると一変。
直線を迎えても、中山の急坂を越えても、先頭を走るロゴタイプの脚色は衰えなかった。

猛追するコディーノを僅かに凌いだところが、ゴール板。
父の戦績同様に地味だと思われていたロゴタイプは、2歳の段階で早くも、父が届かなかったG1のタイトルを手にすることとなったのである。

3歳初戦のスプリングSでは、短期免許で来日していた弟のクリスチャン・デムーロ騎手に乗り替わりとなった。このレースでは1番人気に推され、堂々の勝利を収め、良い形で皐月賞へ向かうこととなった。

その皐月賞では再度、兄のミルコ・デムーロ騎手が手綱をとった。

3連勝の後、圧倒的人気となった弥生賞で不覚を取り4着に敗れていた、超良血馬のエピファネイア。朝日杯でロゴタイプを追い詰め、弥生賞でも3着に好走しているコディーノ。弥生賞でその2頭を下して勝利しているカミノタサハラなど、豪華メンバーの中で、ロゴタイプは一番人気となった。

そして──この後日本ダービーで2着となり、神戸新聞杯や菊花賞を勝利し、古馬となって超豪華メンバーのジャパンカップを圧勝するエピファネイアを下して、ロゴタイプはG1競走2勝目を勝ち取るのである。

朝日杯の勝利もスプリングSの一番人気での勝利もフロックではなく、実力で勝ち取ったものであるという事を、改めて証明した皐月賞の勝利であった。

この後日本ダービーに駒を進めたロゴタイプは、5着に敗れる。
そして今までの勢いが嘘で有ったかのように、長い長い勝利へのトンネルがロゴタイプを待ち受けていた──。

3年以上におよぶ勝利への壁。
得意としている中山の重賞では2着に3度も入線したが、勝利にはあと一歩及ばなかった。

「もうロゴタイプは勝てないのか……」

そんな思いを抱いた競馬ファンも多かったかもしれない。

しかし、ロゴタイプは折れていなかった。

迎えた6歳シーズンの安田記念の舞台。当時の最強マイラー・モーリスの参戦したこのレースで、皐月賞馬のプライドに、大物食いの魂に、ふたたび火がついた。

3年間の間にすっかり先行粘り込みのスタイルを確立していたロゴタイプは、この大一番で逃げの手を選択。最内の経済コースを進み、先頭で直線を迎えた。東京競馬場の直線は長く、タフな東京マイルのコースは逃げ、先行馬にとっても過酷な条件である。そして何よりも──このレースでは、最強マイラーのモーリスがすぐ後ろの2番手でレースを進めてきていた。

しかし、ロゴタイプは粘った。
最内を走るロゴタイプの脚色は、全く衰えない。

コディーノやエピファネイアを完封したあの脚が、蘇っていた。

そして長い東京の直線を先頭で走りきり、長い長い勝利へのトンネルの出口を、ロゴタイプはG1の大舞台で迎えることとなったのである。

種牡馬としてのロゴタイプ

2歳でG1レースを勝利し、7歳6月の安田記念を2着で締めくくって引退するという、非常に長く、タフな競走成績を残したロゴタイプ。5年に渡って一線級の舞台で活躍し、30戦6勝(うちG1を3勝)という戦績は、まさしく「無事是名馬」を体現したと言えるであろう。

同世代のクラシックタイトルを分けあったキズナやエピファネイアは先に種牡馬入りし、産駒が大活躍。種牡馬としての評価を上昇させている。時代を担うスター種牡馬としての地位を確立させつつあると言って良いはずだ。

しかし2021年現在、ロゴタイプの種付け料は80万円となっていて、あくまで「リーズナブルな種牡馬」という立ち位置になっている。まるで朝日杯を勝つまでは地味な穴馬扱いだった現役時代のように、ロゴタイプには、自身の力でその低評価を覆せるかどうかということが求められている。

父ローエングリンは紛れもなく世界的良血馬であるが、自身はG1を勝てなかった。また、一流と言える競走成績を残せた産駒がロゴタイプのみという事実も、種牡馬としての評価があがりにくい要因であろう。

そして現代の日本競馬では標準装備のような状態になっている、サンデーサイレンスの血を祖父という近い位置に持っていることも、種牡馬としての配合を狭めるものであり、決してプラスとは言えない材料である。

しかしロゴタイプは、G1を3勝した名馬である。
しかもG1の大舞台で下して来た相手は、いずれも世代を代表する超一流の名馬であった。

現在日本競馬の芝レースにおいては、ハービンジャーの産駒が活躍しているものの、まだまだサンデー系に比べてノーザンダンサー系の産駒の活躍が少ない。ロゴタイプの個性と強さを受け継いだ産駒は、必ず現れると信じている。

そして願わくばロゴタイプの果たせなかった、関西圏のG1制覇など、父を越える活躍を見せてくれる産駒に出会いたいと願っている。

写真:s.taka

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