
競馬の勢力図は、目まぐるしく変わる。
が、たとえその絶対的な主役が入れ替わろうとも、その脇を固める有力馬たちの顔ぶれは、意外にも変わらないケースも多い。2010年代の前半、カレンチャンからロードカナロアの2頭がその王座を取り合っていた短距離路線において、パドトロワはまさにそんな存在だった。
■バレエの血、短距離界で咲く
祖母スターバレリーナ、母グランパドドゥは馬名に「バレエ用語」を入れられており、「バレエ一族」の牝系が紡がれている。パドトロワという名前も「バレエ用語で3人で踊る」という意味だ。
そんな彼は、名手・安藤勝己騎手を背に11月の京都・芝1600mでデビューし3着となる。距離を1200mに短縮した未勝利戦を快勝すると、500万下条件(現:1勝クラス)も2戦目で突破。初のOP特別となった橘Sも3着と好走し、NHKマイルCにも挑戦した。結果は16着と敗れたが、これを受けて陣営は出走する路線を短距離にシフト。以降はスプリント戦を使われながら着実に力をつけていった。
そして、4歳の秋には重賞未勝利ながらスプリンターズSでカレンチャンの2着に入線。ここからスプリント路線を牽引していく時代の女王にこそ敗れたものの、シンガポールのスプリント王者であるロケットマンや、香港のトップスプリンターラッキーナイン、さらには長らく日本の短距離路線で主役の座を争い続けてきたダッシャーゴーゴーなどには先着したのだから、その実力は十分に示していると言っていい。暮れには香港スプリントへの遠征が敢行されたのも、そうした実績があったからだろう。
帰国後は、OP特別を2戦続けて凡走したが、前年に好走した夏になると復調。アイビスサマーダッシュで重賞初制覇を挙げると、そのままサマースプリントシリーズの王者となるべく、前年に3着と好走したキーンランドCへ戻ってきたのだった。

■レベランスは王者の称号で
前年、創設6年目で優勝馬から初めてのG1ホースが誕生したキーンランドC。そのカレンチャンは年が明けた後も高松宮記念を制し、国内G1の連勝を達成していた。
秋のスプリンターズSで短距離G1・3連覇へ向けて抜かりなく準備を続ける彼女に挑むべく、キーンランドCにはステップレースに相応しいメンバーが顔を揃えていた。その中でパドトロワはG1で好勝負を演じるダッシャーゴーゴーと、前走の函館スプリントSで断然人気のロードカナロアを下し、3連勝で重賞初制覇を飾ったドリームバレンチノに続く3番人気に推されていた。
ゲートが開くと勢いよく、大外のビウィッチアスが飛び出してレースの幕が開いた。
だが、安藤勝己騎手とパドトロワは内から好発を決めたライバルに競りかけ、先頭を奪っていった。
そのすぐ後ろにダッシャーゴーゴー。手綱を取る横山騎手は前走のCBC賞と違い、今回は先行集団のすぐ後ろに相棒を誘導した。周りをマークされるような形で進めるが、番手を取ることに集中したダッシャーゴーゴーは、特に掛かるような素振りを見せることもなく進んでいった。
一方、ドリームバレンチノと三浦皇成騎手はスタートから控え、中団の外目を追走していく。逃げたパドトロワを無理に追いかけるものはいない。気持ち良く飛ばす彼が刻んだラップタイムは600mを通過した時点で33.5秒。見た目にはややハイペースで、ここから抑えた各馬の末脚が見られると思ったファンは多かったはずだ。
しかし、彼は1年前のこのレースにおいて、600mを33秒ジャストで逃げて3着に入線している。さらに今回は前走のアイビスサマーダッシュを制して臨んできていた。前年以上の勢いに加え、前走で快速ぶりに磨きがかかった彼を楽に逃がしてしまえば止まるはずもない。直線に向くと、パドトロワは共に先頭争いを繰り広げていたテイエムオオタカを突き放し、そのまま一気に抜け出した。後方勢は案の定、逃げるパドトロワに迫ることができない。
だがただ一頭、G1・2着馬の意地を見せんと迫りくるダッシャーゴーゴーの末脚はしぶとく粘るパドトロワとの差をじわじわと詰めてゆく。
その差は1馬身半から1馬身、アタマ、クビ、ハナと徐々に詰まる。
そしてゴールの数10m手前、ダッシャーゴーゴーの鼻先がパドトロワを捉え、先頭は確かに入れ替わった。
しかしその後、パドトロワが最後の執念とばかりにもう1度ダッシャーゴーゴーを差し返しゴールイン。重賞2勝目はクビ+ハナの僅差に敗れた前年の雪辱を、ハナ差で晴らした結果となった。
この勝利により、サマースプリントシリーズの王者に輝いたパドトロワ。そのままスプリンターズSに向かい、女王・カレンチャンに挑む有力馬の1頭として駒を進めることとなった。

■プリマの期待は、次代へ
そして確かに、スプリンターズSでカレンチャンから短距離路線の王座は変わった。
だがそれは、夏の短距離王者がそのまま路線の王者に輝くというものではなかった。
直線、逃げるマジンプロスパーに並びかけ、抜け出そうかというパドトロワ。そこに怒涛の勢いで競りかけてきたのは、ライバルであるカレンチャンとロードカナロア。2頭はあっさりとパドトロワを競り落とし、熾烈な叩き合いに持ち込む。勝利したのは、ロードカナロアだった。これがG1初制覇となった彼は、この勝利を機に年末の香港スプリントも勝利。日本馬として史上初めての同レース制覇を果たし、名実共に日本の短距離界の頂点へと輝いて行くこととなる。
一方、パドトロワは2頭から大きく離れた8着に終わると、続く京阪杯も15着。このレースでパドトロワに騎乗した安藤勝己騎手は、自身が馬をうまく動かせなくなったと感じ、引退を決意。現役最後の騎乗となった。
パドトロワ自身も翌年函館スプリントSで勝浦正樹騎手を背に重賞3勝目を挙げたものの、それ以降は凡走。結局これが最後の勝利となり、1年後、2014年のキーンランドCの12着をもって競走生活に幕を閉じ、種牡馬入りした。
産駒の頭数はそれほど多くないが、初年度からJBCスプリントを勝利したダンシングプリンスを輩出。自身が惜しくも届かなかったG1級競走の制覇を、息子が叶える形となった。
パドトロワの現役時代には、カレンチャンとロードカナロアという、2頭の絶対的王者が君臨していた。時の王者たちに肉薄しようと懸命に走る彼の姿は、多くの人々の記憶に刻まれたのではないだろうか。そしてその血は、確実に次代へと紡がれていく。
写真:Horse Memorys