[地方レース回顧]神がほほ笑む「虎」の名は~2021年・JBCクラシック~

金沢競馬場JBCデーの最終レース、JBCクラシックは2100m戦で争われました。
向こう正面奥のポケットからスタートしてコースを1周半回ります。

日本テレビ杯からここを目指していたクリソベリルは重度の喘鳴症で引退してしまいましたが、交流G1級競走だけあって好メンバーが勢ぞろい。
JBCクラシック3度の2着から今年こそ戴冠を狙うオメガパフューム、2019年の覇者で昨年は川崎記念とチャンピオンズカップを制したチュウワウィザード、今年の帝王賞を勝ってG1級競走の連勝を狙う新星テーオーケインズ、ジャパンダートダービー勝馬で長距離戦が得意なダノンファラオ、2018年覇者で8歳でも未だ健在の古豪ケイティブレイブの5頭がJRAから参戦。どの馬も、実力・実績ともに申し分ありません。

対する地方馬も、川崎記念とかしわ記念を逃げ切ったカジノフォンテンと、交流G1級競走で常に上位争いに加わってきたミューチャリーらが参戦。このレース初の地方所属馬勝利を狙います。

夕暮れ時の西日を浴びて、チャンピオン決定戦が幕を開けました。

レース概況

テーオーケインズとオメガパフュームが出遅れて後方から。スタートが良かったカジノフォンテンが逃げようとしますが、これを制してダノンファラオが先頭に立ちます。カジノフォンテンは無理に競らずに2番手を選択。
スタートの出が良かったミューチャリーは吉原騎手に促されて先行し3番手、4番手はテーオーケインズ、チュウワウィザード、ケイティブレイブが横並びで続きます。

テーオーケインズの後ろにテーオーエナジー、その1馬身後方にグリードパルフェとトップロイヤル、オメガパフュームは更にその後ろの後方3番手、その後ろにシゲノブ、マイネルパイオニアの順で隊列が決まり、2周目の向こう正面へ。

3コーナー手前で2番手に控えていたカジノフォンテンがスパートを開始し、ダノンファラオを引き離します。
その横でマークしていたミューチャリーが並走し、ケイティブレイブもその外3番手で3コーナーに。

コーナーに入ると先行集団のすぐ後ろまでオメガパフュームが捲り、ダノンファラオがついていけず後退します。カジノフォンテンも抜け出そうと必死に追われますが、外からミューチャリーが前に出て直線の攻防へ。

抜け出したミューチャリーをめがけて外から捲り切ったオメガパフュームと、インを捌いたチュウワウィザードが迫りますが、余力をもって抜け出していたミューチャリーが吉原騎手の鞭に最後まで応えて1着でゴール。オメガパフュームは半馬身差まで追い詰めましたが差し切れず2着でした。

その1馬身後ろでチュウワウィザードが3着、テーオーケインズが4着、ケイティブレイブは直線で一瞬追えなかったシーンがあり5着でした。
2番手から抜け出しを狙ったカジノフォンテンは6着、ダノンファラオは早めにばててしまった分での7着敗戦でした。

各馬短評

1着 ミューチャリー

前走白山大賞典を使ったことは今回への布石だったのでしょう。
主戦の御神本騎手ではなく、2戦連続で吉原騎手を確保したことからも、陣営の並々ならぬ「金沢での勝利」への熱意を感じます。
そしてその期待に応えてみせたミューチャリーの走りはこれまでで最も良いパフォーマンスに見えました。

ミューチャリーの武器は決め手上位の末脚で、羽田杯でも大井記念でも後方から押し上げる姿が印象に残っていましたが、今回は南関で競い合ってきた同期カジノフォンテンを徹底マークする位置を選択。
スタートの出が良かったですが、そこから吉原騎手が押していたので、決め打ちの作戦だったのでしょう。

これまでのレースではオメガパフュームやチュウワウィザードとの末脚比べであと一歩足りませんでしたが、最序盤で先行し、余裕を持った状態で2週目の向こう正面に入ったことで、大井記念でも見せたロングスパートをいち早く始めることが出来ました。

見事、G1級競走の勝ち馬となったミューチャリー。今後はチャンピオンズカップに挑むか、地元南関の東京大賞典で迎え撃つ立場になるか……。いずれにしてもまた強い走りを見せてくれるはずです。

2着 オメガパフューム

2018年の京都1900m、2019年の浦和2000m、そして昨年の大井2000mと、3年連続でJBCクラシック2着の実績があるオメガパフューム。これまで参戦した競馬場は7か所、金沢競馬場は8か所目の参戦でしたが、ここでも末脚を発揮して好走してみせました。

出遅れたことで後方3番手から大外を回すレースでしたが、チュウワウィザード以下を完封。勝ち馬ミューチャリーを半馬身差まで追い詰めた末脚に、衰えはなさそうです。

前人未到の東京大賞典4連覇を目指すシーズン、左回りは得意ではないのでおそらく年末の大井に直行することでしょう。この馬が最も得意とするコースでの再戦であればこの着差をひっくり返す走りが出来ることでしょう。

3着 チュウワウィザード

前走の帝王賞は海外帰り初戦で本調子ではなかったようですが、今回は事前の追切から活気に満ちた走りを見せていました。オメガパフュームやミューチャリーに比べると少し末脚を繰り出すのに時間がかかった分も響いての3着でしたが、直線で前を行く馬たちを交わした走りに復活の兆しが見えました。

こちらはオメガパフュームとは逆に左回りの浦和JBCクラシック、チャンピオンズカップ、川崎記念を勝っているので、次走はチャンピオンズカップ連覇を狙うことになるでしょう。

掲示板を外すことがほとんどない安定感が武器の馬ですし、体調を維持できれば再び勝ち負けに加わるはずです。JBC→チャンピオンズカップのローテーションであれば3回目の挑戦ですが、結果はいかに。

4着 テーオーケインズ

昨年末にほぼ連闘のローテーションながら東京大賞典で0.2秒差の6着に入り、年明けは3連勝で帝王賞を制覇した活きの良い4歳馬テーオーケインズ。連勝を期待されて1番人気での出走でした。

ミューチャリーと同じ3F36.0秒の末脚を繰り出して能力の高さは示しているだけに、スタートでの出遅れが悔やまれます。帝王賞では相手が本調子ではなかったので、実力を発揮されると簡単には勝たせてもらえませんでしたが、スタートでのロスがありながら正攻法のレースを選んでの4着ですから実力は確かです。

ダート中距離戦は年長馬たちが元気でまだまだ強いですが、現時点で対抗できる若い世代の代表として今後も立ち向かってほしいですね。

5着 ケイティブレイブ

長く地方交流重賞を走り続けるベテランも、8歳馬になりました。
先行力を活かして武豊騎手と逃げで浦和記念を制したかと思えば、福永騎手と挑んだ帝王賞では出遅れから末脚を繰り出してJpn1制覇、昨年のフェブラリーSでも稽古をつけてきた長岡騎手とのコンビで後方から追い込み2着と、戦術の幅も広い馬です。

清水英克厩舎への移籍後はまだ勝利が無いですが、今年は内田博幸騎手とのコンビで復活を目指しています。
今回も直線までいい感じで上がってきましたが、コーナーを捲ってきたオメガパフュームがインに入って一瞬追い遅れてしまっての敗戦、不利を巻き返せる末脚は無いのかもしれませんが、この敗戦を悲観的に見る必要もないでしょう。

ダート中距離路線はケガさえしなければ長く現役でレースを走ることができますので、ケイティブレイブも引退の日までまずは無事に、願わくばもう1つぐらい重賞タイトルを取って欲しいです。

レース総評

レースが終わった後のTwitterで「ダート中距離で絶対的な王者はいない」という投稿を目にしましたが、私も同感です。日本のダート中長距離界は、3歳から引退まで息長く活躍する実力馬が豊富な戦国時代の真っただ中にあります。

オメガパフュームは東京大賞典を3連覇してもこのレースでは4度目の2着で勝てませんでしたし、2019年にオメガパフュームとの一騎打ちを制したチュウワウィザードは今春のドバイで世界の強豪を相手に2着。テーオーケインズも帝王賞で鮮やかに勝った実力は確かですが、簡単には連勝させてもらえませんでした。だからこそ、今回のミューチャリーの勝利はただの1つの優勝以上の価値があると感じています。

JBC競走の中で唯一JRA勢が勝ち続け、地方馬の勝利が無かったこのレース。デビューから南関の代表として敗れても敗れても挑み続けたミューチャリーの走りは、決して運が良かっただけのものではありません。カジノフォンテンにも言えることですが、彼らが強い馬になったからこそ、絶対的な王座に君臨するほどの抜けた存在がいなくなったと言うべきでしょう。

シンプルに言えば「みんな強いから面白い」のが、今のダート中距離界。

鞍上の吉原騎手はJBCスプリントでタッグを組んだサンライズノヴァでマイルチャンピオンシップ南部杯制覇がありますが、今度は地方所属馬での勝利、また格別の喜びがあることでしょう。

吉村騎手、矢野義幸調教師、関係者の皆様、おめでとうございます!

写真:はねひろ(@hanehiro_deep)

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