2018年、京都大賞典。
G2競走とは思えぬほど大きな祝福の歓声が、ゴール直後に響き渡った。
勝者の名は、サトノダイヤモンド。
額にダイヤの形をした流星が光り輝き、その個性的な特徴から名付けられたサトノダイヤモンドは、2015年秋に京都競馬場でデビューを迎えた。
そのデビュー戦はロイカバードとの2億円対決に注目が集まり、サトノダイヤモンドが2馬身半差の完勝。その後、同じく京都競馬場が舞台のきさらぎ賞で重賞初制覇を達成する。500万下も挟んでデビュー3連勝を果たし、クラシック候補に名乗りを上げた。
しかし、皐月賞は3着、ダービーはハナ差の2着と、春のクラシックは苦汁を嘗めた。
悔しさを晴らすべく迎えたクラシック最終戦・菊花賞。三度、淀のターフでダイヤモンドは輝いた。念願のクラシック制覇、そしてG1タイトル獲得の瞬間。春先にクラシック候補と謳われた評判に応える勝利を掴んでみせたのである。
勢いそのままに、前年の菊花賞勝ち馬であり春の天皇賞も制した淀の大スター・キタサンブラックをはじめとする超強力古馬勢との初対決も見事に勝利。善戦マンだった春のクラシックから一転、世代No.1の座に輝き一年を締めくくった。
しかし、古馬になってからは自身の庭である淀の舞台(天皇賞)でキタサンブラックに敗れると、秋にはフランスへと旅立って凱旋門賞に挑戦するも、終始見せ場を作ることができず惨敗。年が明け5歳になってからも、かつての輝かしい姿は鳴りを潜め、気づけば1年半以上勝利から遠ざかっていた。
正念場の中、迎えた京都大賞典。輝き続けた淀のターフが舞台だ。
2年前のダービーでダイヤモンドを下しダービージョッキーに輝いた川田将雅騎手を新たな鞍上に据え、前年のジャパンCチャンプ・シュヴァルグランとの2強対決に打って出た。
春までのダイヤモンドは、レースはおろか調教やパドックですらも良い頃の雰囲気が感じられず、もどかしさが募っていた。しかし、この時のダイヤモンドは違っていた。調教ではハミをグッと取って確実に良い頃のデキに近づいており、当日のパドックはもちろん、本馬場入場で見せたキャンターも全盛期に近い雰囲気を醸し出していた。
「ダイヤモンドが帰ってきた!」
私は心の中でそう感じていた。
レースでは前半からハミをしっかり取り、ライバルであるシュヴァルグランをマークする形。
そして、勝負どころの4コーナー。抜群の手応えで外から上がっていくダイヤモンドの姿を見て、自然と込み上げるものがあった。
「間違いない、あの頃のダイヤモンドだ」
川田騎手のゲキに応え、サトノダイヤモンドはシュヴァルグランを置き去りにし、後続の追撃も振り切って1年7ヶ月ぶりの1着ゴールを果たす。初コンビである鞍上は普段のクールな姿とは裏腹に首筋を何度も撫で、勝利を称えた。期する思いがあったに違いない。
その後、初参戦のジャパンC、一昨年制した有馬記念とラストランを無事終え、現役引退となった。
ダイヤの原石としてデビューを迎え、その原石は淀のターフで磨かれて“宝石”となり、輝いた。
胴長の美しいシルエットをした馬体に、キラリと光るダイヤの流星、その輝かしい見た目に負けない素晴らしい走り。見ている人々を魅了する要素がたっぷり詰まったサトノダイヤモンドの復活Vに湧き上がった祝福の大歓声は、ファンの多さを物語っている。あの地鳴りのような大歓声は今でも忘れられない。
初勝利、重賞初制覇、G1初制覇、復活V…。淀のターフで4度、輝きを放ったサトノダイヤモンド。永遠なる『淀のヒーロー』だ。
写真:Horse Memorys