[重賞回顧]GI2着馬の意地が炸裂! 春二冠の雪辱を果たした良血馬が、いざ乱菊へ~2022年・神戸新聞杯~

2週連続の3連休を中心とするシルバーウィークも、ついに終了。最終日の25日こそ全国的に好天に恵まれたが、多くは台風の影響を受けてしまった。この期間、中央競馬は中止、延期されることなく無事開催されたが、24日は、2名のジョッキーが交通機関の乱れで乗り替わりとなるなど、少なからず影響を受けた。

9月の競馬が台風に見舞われるのは毎年のことだが、気がつけばあっという間に終了。また、10月に行なわれるGIの前哨戦も、オールカマーをもってすべて終了。各レース、大方の勢力図が見えてきた。

そんな中、3歳限定GI最後の前哨戦として行なわれたのが、菊花賞トライアルの神戸新聞杯。ただ、2022年は、春二冠の連対馬が凱旋門賞や天皇賞・秋に狙いを定め、当レースで毎年のように好走しているダービー4着内馬が不出走。かわりに上がり馬が多数出走してやや混戦となったが、単勝10倍を切った4頭の中で、パラレルヴィジョンが1番人気に推された。

キャリア2戦2勝、国枝厩舎所属、ノーザンファームの生産馬という点は、ローズSで2着に好走したサリエラと同じ。骨折の影響でデビューが4月にずれ込んでしまったが、条件戦とはいえ、ここまでの2レースとも上がり最速で2着に0秒4以上の差をつけて完勝。重賞初挑戦の今回も、大きな期待を背負っていた。

これに続いたのがプラダリアで、こちらも年明けデビュー組。初勝利を挙げたのは、さらにその2ヶ月後だったが、そこから果敢に挑戦した青葉賞を快勝し、ダービーでも5着と好走した。ダービーの最先着馬で、なおかつGⅡ勝ちもあり、実績面ではナンバーワンといえる存在。当レース、菊花賞ともに強いディープインパクト産駒で注目されていた。

やや離れた3番人気に推されたのが、メンバー中、唯一の3勝馬ボルトグフーシュ。春二冠は出走が叶わなかったものの、同じ舞台で行われた京都新聞杯3着の実績がある。それも含め、現在4戦連続で上がり最速を計時するなど、しまい確実に伸びる末脚が武器で、優先出走権獲得を目指していた。

僅差の4番人気となったのがヴェローナシチーで、こちらは京都新聞杯の2着馬。ここまで7戦1勝と勝ちきれず、賞金不足でダービー出走は叶わなかったものの、いまだ3着内を外していない堅実派。エピファネイアとの菊花賞父子制覇を実現するため、なんとしても権利を獲得したい一戦だった。

レース概況

ゲートが開くと、パラレルヴィジョンがほんの少し遅れたものの、全馬ほぼ揃ったスタート。その中から、最内枠のリカンカブールが飛び出し、2馬身のリードを取って1コーナーに進入。その後に、ミスターホワイト、メイショウラナキラ、ジュンブロッサムが半馬身間隔で続き、1馬身差の5番手にジャスティンパレス。さらにその1馬身後ろを、サトノヘリオスが追走していた。

一方、上位人気馬では、プラダリアとパラレルヴィジョンがちょうど中団。ヴェローナシチーは後ろから4頭目に控え、ボルトグフーシュは後ろから2頭目を追走していた。

前半1000m通過は、1分0秒0の遅い流れ。先頭から最後方まではおよそ17~8馬身で、縦長の隊列となったものの、ボルトグフーシュや、離れた最後方を追走していたアスクワイルドモアが差を詰め、3コーナー手前ではその差が12馬身ほどに縮小。続く3~4コーナー中間で、再びアスクワイルドモアだけが3馬身ほど引き離されたものの、それ以外の16頭はほぼ一団となり、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、再度リカンカブールが後続を引き離し、坂下でリードは1馬身。メイショウラナキラは後退し、ジャスティンパレスが2番手。ジュンブロッサムが3番手に上がり、4番手以下は7~8頭が横一線となった。

その後、ジャスティンパレスが坂上で先頭に立つと、そこから独走態勢を築きはじめ、焦点は2着争いに。ゴール前50mでは5頭にチャンスがあり、ヤマニンゼストとボルトグフーシュが抜け出すも、そのはるか前でジャスティンパレスがゴールイン。3馬身半離れた2着争いを制したのはヤマニンゼストで、後方から追い込むも、半馬身及ばなかったボルトグフーシュが3着となった。

良馬場の勝ちタイムは2分11秒1。GI連対実績のある良血馬ジャスティンパレスが、春二冠の雪辱を果たしてトライアルを完勝。菊花賞の有力候補に名乗りを上げた。

各馬短評

1着 ジャスティンパレス

重賞勝利はないものの、唯一、GI連対実績のある馬が完勝。神戸新聞杯は、大レースでの実績を素直に重視すべきということを、改めて認識させられた。

そのホープフルSで2着の後は、皐月賞とダービーで9着。ダービーでは勝ち馬から1秒3離されてしまったが、皐月賞では0秒8差と格好はつけていた。

今回も休み明けで、馬体重はわずか4kg増だったものの、パドックでキビキビと歩いてやる気満々。前半はややいきたがったものの、初コンビの鮫島克駿騎手が引っ張り殺さないギリギリのところで抑えると、直線半ばからは突き放す一方で、圧勝といっていい内容だった。

ノーザンファーム生産のディープインパクト産駒で、半兄には米国クラシックの第三弾、ベルモントSの勝ち馬パレスマリスや、ステイヤーズSと阪神大賞典で2着のアイアンバローズがいる良血。2020年セレクトセール1歳市場において、税込2億900万円で落札された高馬が、世代トップクラスに再浮上してきた。

2着 ヤマニンゼスト

上位入着馬の中で驚かされたのが、この馬の激走。

3走前から新人の鷲頭騎手が騎乗して2戦2勝だったが、減量の恩恵を使えない特別戦に出走した前走は、勝負所で外を回りすぎたこともあり差し届かなかった。

そして今回、武豊騎手に乗り替わると、序盤は後ろから4頭目のインで我慢。直線でも内ラチ沿いから末脚を伸ばして2着争いを制し、見事、本番への優先出走権を獲得した。

2020年に亡くなった父シンボリクリスエスは、近年、母の父としての活躍が目立つが、この世代の血統登録数は14頭で、ラストクロップとなる現2歳は僅か4頭。シンボリクリスエス産駒の菊花賞馬といえばエピファネイアで、それに続く菊花賞馬となるか、注目が集まる。

3着 ボルトグフーシュ

このレースで最も強いレースをしたのは、ジャスティンパレスとボルトグフーシュだろう。

前半スローな流れを後ろから2頭目に控え、さらに勝負所では大外を回らされる苦しい展開。それでも上がり最速の末脚を繰り出してしぶとく伸び、なんとか3着と本番への優先出走権を確保した。

父はスクリーンヒーローで、上述したシンボリクリスエス-エピファネイアのラインと同じロベルト系に分類される。ただ、菊花賞で計3頭の連対馬を出している上記のラインに対し、スクリーンヒーローとその父グラスワンダーのラインから菊花賞の連対馬は出ておらず、3着馬が2頭(セイウンワンダーとゴールドアクター)という成績。2022年も阪神で行なわれるため、その傾向が覆される可能性もあるが、どちらかといえばもう少し短い距離、2200m~2500mのレースで狙ってみたい。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒0で、12秒5をはさみ、後半1000mは58秒6。後傾ラップとなったが、ラスト800mから200mまでは3ハロン続けて11秒台が刻まれ、なおかつ加速するような、前にいた馬にとっても簡単ではない展開。そのため、最後の1ハロンはやや失速し、ヤマニンゼストやボルトグフーシュなど後方待機馬も台頭したが、1、2番人気のプラダリアやパラレルヴィジョンのように、外枠かつ、中団以下に待機していた馬には厳しい展開となった。

このレースをもって前哨戦が終了。菊花賞の大方の図式も見えてきた。

その中で注目したいのは、セントライト記念2着のアスクビクターモア。父がディープインパクト、母の父がヨーロッパ系のレインボウクエストという血統で、京都で開催された菊花賞にはなるものの、18、19年の勝ち馬フィエールマンとワールドプレミアも、父ディープインパクトに母の父がヨーロッパ系種牡馬の組み合わせ。ジャスティンパレスもこれに当てはまるが、より持久力タイプと思われるアスクビクターモアは、前走からのさらなる上積みが期待できるのではないだろうか。

これに続くのが、父子制覇を目指すガイアフォース。こちらは母系に、自身が菊花賞を制し、産駒も2勝2着2回と抜群の実績を誇るダンスインザダークがいるものの、母の父がクロフネで、菊花賞は距離がやや長く惜敗。しかし、続く有馬記念で巻き返して勝利というストーリーを描いている。

対して、神戸新聞杯組で注目しているのは、1、2着のジャスティンパレスとヤマニンゼスト。そして、近2年で3頭の好走馬を送り出しているエピファネイア産駒の中から、ヴェローナシチーを挙げたい。

一方、2勝クラスを勝ってきた馬にも多数の伏兵がおり、芝2600mの札幌日刊スポーツ杯を制したディナースタや、藻岩山特別でヤマニンゼストに勝利したドゥラドーレスは、いずれもドゥラメンテ産駒。

また、過去2年で2頭の3着内馬を出しているのが、中京芝2200mの2勝クラスの特別戦で、これに当てはまるのが木曽川特別1着のアーティット。現在放牧に出ているため出走しない可能性もあるが、仮に出走が叶えば、ディナースタやドゥラドーレスとともに、少なくとも相手には付け加えたい。

写真:バン太

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