[重賞回顧]別次元の走りで圧勝!イクイノックスが現役最強を証明。~2022年・有馬記念~

中央競馬の総決算であり、国民的行事といっても過言ではない有馬記念。世界で最も馬券が売れるレースの一つであり、中でもサクラローレルが勝った1996年の有馬記念は、875億円の売上げをマークしてギネス世界記録に認定されている。

普段は馬券を買わない人でも、このレースだけは買うという人も多いだろう。それこそが、有馬記念が国民的行事たる所以と言える。一日を通して独特の緊張感が、中山競馬場はもちろんのこと、場外馬券発売所、そしてお茶の間にも漂っているが、逆転で年間の収支をプラスに持っていきたい──はたまた、このレースだけはなんとしても的中させたいと願う多くのファンが、そういった空気感を醸し出しているからなのかもしれない。

もちろん、筆者もそんな独特の空気感を醸し出してしまう一人ではあるが、その雰囲気を心地良く感じ、仮に馬券を外したとしても、どういうわけか「まあ、いいか」とレース後に思えてしまうのも有馬記念デーならではと言える。

もちろんそれは、有馬記念という最高峰のレースに、最高のメンバーが集結するという前提の上に成り立っている。2022年も、GI馬7頭を中心にほぼベストといえるメンバーが集結。最終的に3頭が単勝10倍を切ったものの二強の様相を呈し、その中でイクイノックスが1番人気に推された。

春二冠はいずれも2着に惜敗したものの、前走では史上最少キャリアで天皇賞・秋を制した本馬。その後はジャパンCに目もくれず、この有馬記念一本に照準を定めてきた。今回は、キタサンブラックとの父仔制覇。さらには、現役最強の座とイクイノックス時代の到来を証明するかに、大きな注目が集まっていた。

これに続いたのがタイトルホルダーで、春は日経賞、天皇賞・春、宝塚記念と3連勝。年度代表馬ならぬ「上半期の代表馬」というタイトルがあれば、選出されていたに違いないであろう活躍を見せた。前走の凱旋門賞は11着と大敗したものの、重い馬場に苦しんだことは明らか。自身こそが現役最強であることを証明するか。そして、春秋グランプリ制覇もかかっていた。

この2頭からやや離れた3番人気に推されたのがジェラルディーナ。1年前にGⅢで4着に敗れたこの馬が本格化したのは、わずか3ヶ月前。GⅡのオールカマーで重賞初制覇を成し遂げると、勢いそのままにエリザベス女王杯も連勝し牝馬の頂点に君臨した。母ジェンティルドンナは、引退レースとなった8年前の有馬記念を制しており、こちらはレース史上初の母娘制覇がかかっていた。

以下、ジャパンCからのGI連勝を目論む、超新星ヴェラアズール。2021年の年度代表馬にしてディフェンディングチャンピオンでもあるエフフォーリアの順に、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、タイトルホルダーが好スタートを切ったのに対し、ジェラルディーナが出遅れ。ボルドグフーシュ、アカイイトもダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされた。

前は、タイトルホルダーがそのままハナを切り、ブレークアップ、ディープボンド、ボッケリーニと7、8枠の4頭に加え、ジャスティンパレスまでが先行集団を形成。その後ろ、6番手にエフフォーリアがつけ、イクイノックスはちょうど中団で、先頭からはおよそ7馬身。さらに、その2馬身後方にヴェラアズールが位置し、ジェラルディーナはそこから1馬身差の後ろから3頭目を追走していた。

1周目のゴール板を通過したところで、先頭から最後方のアカイイトまでは15馬身ほどとやや縦長の隊列。前半1000mは1分1秒2の遅い流れとなった。

向正面に入るとタイトルホルダーがペースを緩め、2番手との差が1馬身半に縮まり、その後アカイイト以外の15頭が固まりはじめる。中団では、行きたがるイクイノックスをルメール騎手が懸命になだめ、その2馬身後方では、同じくやや行きたがる素振りを見せたヴェラアズールが、松山騎手になだめられていた。

そこからレースは、3~4コーナー中間の勝負所へと突入。ここで後方の2頭、アカイイトとボルドグフーシュが一気に上昇を開始し、今度はタイトルホルダー以外の15頭が一団に。

さらに、4コーナーでは押して押して前との差を詰めようとするディープボンドの外から、イクイノックスが馬なりで接近。後ろから2頭目にいたはずのボルドグフーシュも、いつの間にか5番手へと押し上げ、レースはそのまま直線勝負を迎えた。

直線に入るとすぐ、イクイノックスが先頭に立ち、差を徐々に広げ始めた。タイトルホルダーは失速し、かわってエフフォーリア、ジャスティンパレス、ディープボンドの2着争いになるかと思われたが、各馬決め手を欠き、その隙にこれらをまとめてかわしたボルドグフーシュが2番手に上がる。

さらに、その後ろからは牝馬の2頭。イズジョーノキセキとジェラルディーナが追ってきたものの、坂を上りきったところで、イクイノックスとボルドグフーシュの差は3馬身に広がっていた。

その後もイクイノックスの末脚はまったく衰えず、ルメール騎手が後ろを振り返りながら、最後は流すように先頭ゴールイン。2馬身半差の2着にボルドグフーシュが入り、1馬身半差の3着にジェラルディーナが続いた。

良馬場の勝ちタイムは2分32秒4。完璧な内容で圧勝したイクイノックスがGIを連勝。豪華メンバーが集結した大一番で、現役最強を証明した。

各馬短評

1着 イクイノックス

「天才は例外」という言葉があるように、キタサンブラック産駒としては異質ともいえる瞬発力タイプ。そのため、コーナーを6度もまわる小回りの中山芝2500mで、自身の武器を活かせるかが懸念材料だったが、まったく問題にしなかった。

父は天皇賞・春を連覇しているものの、おそらくこちらは2000mから2400mの中距離路線を歩みそうなイメージ。母系には、凱旋門賞を制したダンシングブレーヴやトニービンなどの名前もあり、国内はもちろんのこと、海外の大舞台でも活躍が期待される。

2着 ボルドグフーシュ

スタートで行き脚がつかず後ろからの競馬を強いられるも、勝負所でワープしたかのような押し上げ。一気に5番手までポジションを上げると、その後も末脚は衰えず2着に健闘した。

今回は相手が悪かったといえる内容で、長距離路線では中心になってもおかしくない存在。現時点でも素晴らしいパフォーマンスを発揮しているが、父スクリーンヒーローやその代表産駒ゴールドアクターは4歳秋に本格化しており、伸びしろは十分。現状は勝ち切れていないものの、1年後に雪辱を果たす可能性は十分にある。

3着 ジェラルディーナ

出遅れて後方からの競馬。勝負所でも、スッと上がっていった2着馬に対してこちらは反応が鈍く、なかなかエンジンがかからなかった。しかし、その後しぶとく伸びて3着を確保。2000m以上では、現役最強牝馬であることを証明してみせた。

古馬では、ヴェラアズールに並ぶ2022年最大の上がり馬で、二冠牝馬スターズオンアースとの対決も楽しみ。母ジェンティルドンナが当レースを制したのは5歳時で、こちらも1年後、雪辱を果たした上でレース史上初の母娘制覇なるか、出走してきた際は改めて注目したい。

レース総評

前半1000mは1分1秒2の遅い流れ。その後、向正面に入るとさらにペースは落ち、12秒台後半から13秒台のラップが刻まれ、先行馬有利の流れと思われたが、残り1000mから大きくペースアップ。3~4コーナー中間で一度ペースが落ちるも、4コーナーで再びペースアップするという、やや特殊なラップ構成だった。

タイトルホルダーをはじめ、先行した各馬はいずれも7、8枠の4頭。外枠発走のため、スタートを合わせると計3回加速していることになり、道中は遅い流れでも、最後は軒並み苦しくなってしまった。

断然、内枠有利といわれる有馬記念だが、過去5年をみると、以前ほどそうなってはおらず、1、2枠の複勝率は、圧倒的に不利といわれる8枠と同じ10%。今回も、着順だけを見ると一桁番の馬が6着までを占め、2枠のボルドグフーシュが2着に、1枠のイズジョーノキセキも4着に好走しているが、これらはいずれも差し、追込み馬。上述したように、外枠に入った馬は実質3度の加速が必要になってラスト苦しくなり、下位に沈んでしまった。

そのため、来年以降の有馬記念も、先行馬が外枠に入ると厳しいかもしれないが、差し、追込み馬に関しては、仮に外枠でも評価を下げすぎないよう注意したい。

一方、勝ったイクイノックスは理想ともいえる中枠を引き、レースもほぼ完璧。前走よりも楽な内容での勝利だった。それでも、向正面ではやや引っ掛かるような素振りを見せており、そのあたりの精神面が改善されれば、史上最強クラスの名馬になってもなんら不思議ではない。

ただ、これまでどおり、今後もGIからGIに出走する可能性が高く、特に、国内でお目にかかる機会は少ないかもしれない。一戦必勝の貴重な出走機会に、都度、伝説が刻み込まれるのか――。これまで以上に、イクイノックスの走りをしっかりと目に焼き付けていきたい。

写真:shin 1

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