[連載]イーストスタッドブログ・第5回 種牡馬展示会と、その準備

ウマフリ読者のみなさま、こんにちは。

イーストスタッドのマネージャー佐古田直樹です。

馬産地では種馬場(スタリオン)へ向かう馬運車が列を成して行き交い、種付けシーズン真っ盛りの光景が繰り広げられています。今年は序盤から記録的なペースで種付けが進んでいて、暖冬の影響を感じるシーズンとなっています。

種付けシーズン直前の2月上旬には、種牡馬展示会が各地で行われました。主要スタリオンで開催される種牡馬展示会は、連日たくさんの牧場関係者が詰め掛ける注目のイベントです。その模様はYouTubeなどでも配信されるので一般の方にも知られた存在かもしれません。今回はそんな種牡馬展示会の舞台裏についてお伝えしようと思います。

2月5日に行われたイーストスタッドの種牡馬展示会は晴天に恵まれ、和やかな雰囲気のなかで27頭の展示を終えることが出来ました。彼らは不慣れな環境や行動に対してはとても不安を感じてしまうので、展示会のようなシチュエーションも十分な準備をして挑まなければ暴れ馬の展示となってしまいます。

種牡馬を展示会のステージに慣れさせる周回スクーリングは1ヶ月前からおこないます。同じ場所を種牡馬27頭が共有することになるので、最初は各馬が自己顕示するように走り出したり立ち上がったりと、扱いになれた我々でもヒヤッとするほどの事態に陥ります。また、臭いに敏感な馬たちは頻繫に排便するので何度も掃除をする手間を強いられます。しかし、毎日周回馴致を続けていくと、そこが共有スペースだと認識するかのように落ち着いていき、地に足がついたようにしっかり滑らかに歩けるようになるのです。そんな彼らの順応性は馬を管理する面白さといえるかもしれません。

周回に慣れてきたところで、今年は音に対するスクーリングもおこないました。展示会当日は厩舎の軒下に設置したスピーカーから司会者の音声が鳴り響きます。当日の雰囲気を体感する方法を考えていた時に展示会のYouTube映像を思いつき、音声をスピーカーから流して周回スクーリングすることにしたのです。これには想像以上の反応があり、前日まで平和だった周回が一気にざわつく状況となりました。特にホッコータルマエは展示会の当日になると興奮するところがあるのですが、音に対してとても敏感であることが判明しました。スピーカーの設置位置も含めて、今後の課題が見えた気がしています。

展示では、周回に加えてステージ中央で立ち姿も披露するのが一連の流れです。立ち姿は四肢の位置や姿勢など、美しく見せる理想のポーズが細かく決まっていて、カタログ写真などは蹄の位置を数cm単位で調整するほど緻密なものです。展示会での立ち姿はある程度の妥協を必要とするのですが、ハンドラーの技量や馬との関係性が如実に表れるため、人の鍛錬が重要といえます。このことについては、まだまだ課題が多いところがあり、日々精進していきたいと思います。馬が自発的にポーズをとっているように見せられれば、馬の魅力をもっと伝えられると考えています。

種牡馬の馬体については、展示会のみならず種付けシーズンに向けての準備となりますが、繫殖牝馬の管理で盛んにおこなわれているライトコントロールを12月下旬から実施しています。

馬は本来、春から夏にかけて発情が訪れて交配する動物で、冬は発情がなく交配ができません。冬の2月から種付けをおこなう繁殖牝馬は、春の日照時間に相当する光を電灯で疑似的に照射させるライトコントロール法を利用して発情を誘発させています。

このライトコントロール法は、種牡馬に対しても男性ホルモンの分泌を促す効果があり、精子の造精機能を早期に活性化させるなどのメリットがあります。2月や3月からたくさんの種付けが予想される人気種牡馬ではより効果が見込まれています。

ライトコントロール法のもう一つの効果として挙げられるのが、冬毛から夏毛への換毛です。体内では春の訪れを感じているために冬毛が抜け始めるのです。展示会に向けては毎日大量の抜け毛と格闘することとなりますが、日を追うごとに毛艶が良化して魅力的な馬体になっていきます。大変な作業で磨き上げた馬体ですから、展示会は晴天で披露したいと願って当日を迎えています。

このように、年の瀬になると種牡馬展示会やその先の種付けシーズンを意識するような準備が始まっていきます。その間には新種牡馬の入厩や試験交配作業など、重要な業務も重なっていくので展示会までは慌ただしい毎日となります。そのような中で、馬と人の成長をめざしながら試行錯誤し、ともに展示会のステージに立つのがスタリオンスタッフの醍醐味だと思います。

写真:出越茂毅

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