[連載]イーストスタッドブログ・第7回 新種牡馬、レッドルゼルについて

ウマフリ読者のみなさま、こんにちは。

イーストスタッドのマネージャー佐古田直樹です。

いつもより早い開花となった場内の桜は、すでに見頃を過ぎた感があります。日高地方には桜の名所が数多くあり、例年は連休中にたくさんの観光客で賑わいます。この期間は幹線道路でも交通渋滞が起き、種付けに向かうドライバーや繁殖牝馬にとっては苦難のゴールデンウイークになっています。

種付けシーズンはようやく折り返しを迎えたところで、毎日忙しい人気種牡馬たちは無難に種付けをこなす日々で頭の下がる思いです。今回は、今年からイーストスタッドに加わった期待の新種牡馬、レッドルゼルについてお話ししたいと思います。

ダート短距離王者のスタッドイン

レッドルゼルは2021年のJBCスプリント(Jan1) をコースレコードで制するなど、ダート短距離重賞で3勝をあげた快速馬です。父ロードカナロアから豊富なスピードを受け継いでおり、先行馬を鋭い末脚で差し切る豪快なレースぶりでファンを魅了してきました。2年連続2着のドバイゴールデンシャヒーンや昨年のフェブラリーステークスで見せたパフォーマンスは、彼の更なる飛躍を期待させるものでした。昨年のリベンジを期した今年のフェブラリーステークスでしたが載冠はならず、レース後に右前脚の炎症が判明したことから急遽種牡馬入りが決まりました。

引退発表から間もない3月4日、イーストスタッドに入厩しています。新天地に降り立ったレッドルゼルは、筋肉質な好馬体を誇示するように落ち着き払っていて、すでに種牡馬の風格が感じられました。心配された前脚の炎症は、日常生活には支障ないようでホッと一安心です。新しい放牧地に戸惑うこともなく草を食み、移動の疲れを癒していました。

彼のスタッドインは以前からラブコールを送ってきたイーストスタッドにとって待望のことですが、種付けシーズンが開幕した中での受け入れは大変なこともあります。

種畜検査を経て種牡馬へ

種牡馬は毎年の種畜検査を受けてはじめて種付けが可能となるのですが、検査では精液証明書も提出しなければなりません。つまり種牡馬となるために試験種付けをおこない、精液を採取する必要があるのです。

そもそも種付け未経験の牡馬にとって牝馬に乗賀することはとても勇気のいる行為です。自然界で牝馬に蹴られてペニスが受傷すれば、生命にかかわる事態になるでしょう。怪我のないように我々が牝馬を保定しているものの、警戒心の強い馬だとなかなか乗駕してくれないのです。種畜検査の日程は決まっていることから、精液が採取出来なければ1ヶ月先の種畜検査に繰り越しとなり、種付けの開始も大幅に遅れることになります。

レッドルゼルの試験種付けは日数を要することも想定して、入厩後2日目という異例の早さで開始しました。発情期の牝馬を前にした彼の反応はとても良好で、あっという間に興奮状態となりましたが、そこから乗賀への一歩が思うように出ません。仕切り直しながら何度もアプローチを続けていると、牝馬からキックの洗礼を受けてしまいました。レッドルゼルはショックのあまり性欲も萎えてしまったため、初回のトライはそこまでとしました。

同日午後に再開すると、朝のフラストレーションからあっという間に興奮がピークに達します。十分に欲求を高めてから牝馬に近づけると、少し躊躇しながらも立ち上がって牝馬の背中に抱きつきました。

新種牡馬は乗賀状態の体勢にも不慣れなために、牝馬の背後で左右にふらつきがちです。種牡馬の後脚は牝馬の後脚と交錯する位置で動くために、バランスが崩れれば柔道の足払いを食らったように5~600kgの巨体が倒れることもあるのです。我々は彼らの足元にも注意を払いながら種付けを介助していきます。

レッドルゼルは初乗賀でペニス挿入に至りそのままフィニッシュを迎えましたが、射精直後には体勢が崩れて早々に牝馬から落ちるという課題の残る種付けでした。これには何度か経験を重ねる必要があるかもと思いましたが、翌日には一変して安定感のある種付けが出来るようになっていました。その後も数日練習を重ねてから精液証明書を取得し、3月19日の種畜検査で正式に種牡馬と認められ種付けを開始しています。

3月下旬の種付け開始でどれほどの牝馬を迎えられるか心配しましたが、約1ヶ月が経過した5月1日時点で30頭の牝馬と交配を済ませており、順調に種付け頭数が伸びています。彼の種付けも随分と上手になったので、我々も安心して見守ることが出来ています。

種牡馬の戦いも熾烈なものですが、将来彼の戦績を凌ぐような産駒が誕生することを期待したいと思います。

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