[連載]イーストスタッドブログ・第4回 馬を通じた縁

ウマフリ読者のみなさま、こんにちは。
イーストスタッドのマネージャー佐古田直樹です。
ブログの第一回で、下記の話に触れました。

イーストスタッドでは近年、この業界に興味がある学生のインターンシップや修学旅行生の体験学習などを受け入れています。実際に名馬に触れる作業をしてもらい、その感動や彼らの迫力を体感する機会を設けるのが狙いです。

今回は、こうした活動についてお話をしていきたいと思います。

上述した修学旅行生は、農家や酪農家などの家庭に民泊して作業体験するという体験型の修学旅行で、偶然受け入れ家庭の募集があったので手を挙げて実現しました。2年連続で受け入れたのは私の地元兵庫県にある農業高校でしたが、じつは私が卒業した高校の分校(現在は独立)という存在で、私が馬の仕事に従事しているのはこの農業高校のおかげなのです。

高校2年生で就職活動中だった私は、学校に寄せられた求人票のなかから進路を模索していて、そこで社台ファームと巡り合いました。その求人票は、社台ファームが初めて全国の農業高校に送ったものでしたが、農業科のある分校と私の高校を間違えたために届いたのでした。競馬も知らなかった私が手違いで届いた求人票に導かれて馬業界に入ったということです。そして、その高校の生徒たちが北海道の小さな町に修学旅行に訪れ、赴任して間もない私が彼らに馬の作業体験を提供するという不思議な縁を感じた出来事でした。イーストスタッドで未経験者にも種牡馬の作業体験を提供しているのは、そういった何気ないところに人と馬の縁があると実感しているからです。

学生のインターンシップでは未経験の大学生を数名受け入れましたが、それとは別に、日頃から馬を世話している高校生も受け入れたことがあります。その彼は将来スタリオンスタッドで働きたいという目標があったので、少し扱いの難しい種牡馬にも触れてもらい、実践的な体験をしてもらいました。種牡馬のように身体能力に優れた馬は、暴れたり噛みついたりするスピードも次元を超えています。はじめは成すすべもないことですが、日々の作業でそのスピードに慣れていくと不思議と順応できるものなのです。こういった経験は種牡馬特有のものですが、いざという時に冷静な判断をする時間を与えてくれます。経験が浅い彼には大変な体験となったかもしれませんが、簡単には習得できない課題に挑戦して成長することを楽しんでくれていたらいいなと思います。

種付けシーズン中の恒例行事となっているのが、BTC研修生の種付け見学です。BTC研修は騎乗調教のスキルを1年で学べる研修制度で、学校を卒業して間もない10代や20代の若者から社会人経験のある30代の方など年齢も経歴も様々な人たちが生産牧場や育成牧場への就職を目指して研修しています。毎年約25名の研修生が見学に訪れて間近で種付けを見学してもらい、種牡馬の管理などについても話をしています。彼らの多くが希望する騎乗員としての仕事とは違った業務ではありますが、皆とても真剣な眼差しで話を聞いて質問をくれたりもするので、こういった人たちが生産界に入って活躍してくれるのは嬉しいなぁと思います。

彼らのように、競走馬の騎乗調教がしたいと思って育成牧場に就職する方や、繁殖牝馬の出産に感動して生産牧場に就職する方など、いろんな経緯で馬の仕事を知りこの業界に飛び込んでくる方たちがいらっしゃいます。私もたくさんの人にこの業界に飛び込んで欲しいと願っていろんな活動をしています。しかし、就職後その大変さや難しさに直面して馬の仕事を辞めてしまう方もいるのが現実です。

様々な事情があると思いますし、近年はそういった話をいろんな業種で聞いたりもします。もしかしたら雇用環境にも問題があったのかもしれません。

──ただ、いつも思うことがあります。
馬の業界は生産から中期育成・育成調教など様々な業務の牧場があって、それぞれに適性があります。もしも今の仕事に疑問を感じているのなら、違った業務の牧場を訪ねてみてはどうでしょう。わずかな経験で自身の適性や業界を判断するのは惜しい気がしてしまいます。もしかすると育成には向いてなくとも、種牡馬を扱うセンスがあるかもしれません。馬が好きであればスタリオンスタッドの扉を叩くことは簡単なことです。もちろん我々の業務も簡単なものではないですが、私はそこに新たな縁がある気がしてなりません。

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