東京から最も遠い……でも飛行機を使えば競馬&グルメが楽しめる。
東日本の人達にとって、行きたいけれど遠い競馬場の一つに小倉競馬場があると思います。
「九州」や「福岡」と聞いただけで、「日帰りなんて絶対無理」と思う人も多いのではないでしょうか。
しかし、小倉競馬場は日帰りで行ける場所であるんです。
更に都心近郊に住んでいれば、最終レースが終わってから市内観光したとしても、20時頃のバスに乗れば、羽田空港には23時前に到着です。東日本の競馬ファンにはあまり馴染みのない競馬場。でも、のんびりとした風景で競馬を楽しみ、夜は海の幸などを堪能し東京へ戻る……この夏、小倉競馬場でのレース観戦はいかがでしょうか?
1.福岡の空港は福岡空港だけじゃない。北九州空港だってあるのだ。
小倉競馬場がある福岡県北九州市。北九州市にも北九州空港があります。日本航空(以下JALと略)とスターフライヤー(以下SFJと略)が1日17往復運航しています。
朝7時40分に羽田空港を出発する飛行機に乗れば、小倉競馬場に10時頃に到着。一日中競馬が楽しめる時間かと思います。
北九州空港に到着すると、小倉駅行きのバスが2種類あります。一つは「ノンストップ 小倉駅(砂津)行」。
もう一つは「中谷経由 小倉駅(砂津)行」。料金は620円。
ここでは「中谷経由 小倉駅(砂津)行」に乗ってください。
「中谷経由 小倉駅(砂津)行」に乗って約35分経つと競馬場前駅に到着です。
競馬場前駅に着く前にはこんなアナウンスが。
「みなさんこんにちは。JRAジョッキーの浜中俊です。小倉競馬へは次でお降りください」
そうです、浜中俊騎手は北九州市出身の騎手。そんな彼による粋な放送とともに競馬場前駅に下車し、いよいよ入場です。
下に羽田空港から北九州空港の飛行機の運行時間、そして、中谷経由小倉駅行きバスの競馬場前駅までの時間を掲載しますのでご参考にどうぞ。(2017年7月現在)
ここまで読んで「確かに羽田空港から北九州空港まで2時間で行ける事は分かった。ただ、日曜日に行くとなると、東京に日曜日に帰らなければならない。帰る事ができる便はあるのだろうか?」と考える方も多い筈。
大丈夫です。冒頭にもある通り、レース終了後、小倉競馬場から小倉の繁華街に行き、食事等を楽しんで、20時発のバスに乗れば、最終の飛行機に乗れば、23時に羽田空港に到着できるのです。
更にもっと楽しんで、泊まってしまい、月曜日を迎えた……それも、大丈夫です。北九州空港は海上空港なので、始発は5時30分発。羽田空港には7時に到着します。余裕をもって出社できる人が多いはずです。(ただし、会社に行く時の準備も忘れずに!)
2.小倉競馬場の歴史とジンクス
北九州市に競馬場が出来たのは1907年のこと。小倉の隣にある戸畑にて戸畑競馬場が開設されました。
その後、1919年には小倉の三萩野(みはぎの)に総面積35000坪の三萩野競馬場が完成します。
しかし、競馬人気が過熱するにつれて、三萩野競馬場では手狭になってきたそうです。
そこで当時競馬を主催していた小倉競馬倶楽部は三萩野の南にある北方(きたがた)に1坪3円という当時の割安価格で11万3千坪の土地を購入、1931年に完成した競馬場が現在の小倉競馬場となります。
その後、戦争の激化に伴い小倉競馬倶楽部は解散し、日本競馬会小倉競馬場として開催されることとなりました。
戦争による中断を経て、1948年に国営競馬として開催、1954年には現在の日本中央競馬会(JRA)主催の小倉競馬場として開催される事になりました
1997年の夏の開催終了後、スタンド並びに馬場改修のため、翌1998年は開催分を他の競馬場で開催。
1999年には現在のスタンド並びに馬場が完成しました。
ウマフリでも韓国・釜山競馬場の訪問記を掲載していましたが、2009年5月に小倉競馬場と釜山慶南競馬公園(釜山競馬場)と姉妹競馬場提携を結んでいます。
それに伴い夏の小倉開催に釜山ステークスと名付けられたレースが行われています。
さて、競馬関係者の誰もが憧れるであろうレース、日本ダービー。これまで幾多の馬がダービーを制しましたが、小倉競馬場にはあるジンクスがありました。
小倉競馬場デビュー馬は、日本ダービーを勝てない。
このジンクスにはいくつか理由が考えられます。夏の小倉開催の新馬(デビュー)戦は芝1200mのレースがほとんどで、芝1800mのレースが少なかった事。関西馬が所属する栗東トレセンから時間が掛かる事。良血馬達は秋の阪神、京都開催まで待つ事が多かったのです。
しかし、2006年に前年小倉競馬でデビューしたメイショウサムソンがダービーを制覇。さらには2014年にはワンアンドオンリーがダービーを制し、このジンクスは過去のものとなりました。
その他に小倉競馬でデビューした名馬としては2015年の天皇賞秋などGⅠを2勝したラブリーデイ、2010年に中京競馬場の馬場改修で小倉競馬場が振替開催になった際にデビューしたロードカナロアなどが挙げられます。
最近でいうと2017年の桜花賞を池添謙一騎手と制したレーヌミノルも小倉競馬デビューです。
小倉競馬場デビュー馬の桜花賞制覇は、1943年のミスセフト以来実に74年ぶりとなりました。
3.改札口を抜けると、すぐそこに競馬場が。
ほとんどの競馬場は駅から競馬場の入場口があると思います。とは言いつつも、府中競馬正門前と謳っている東京競馬場も高架橋の上を歩きますし、中山競馬場も船橋法典駅までそれなりの距離があります。
しかし、小倉競馬場は違います。
モノレールの「競馬場前・北九州市立大学前」駅を降り、右を曲がると、
ご覧の通り、改札口と入場券売り場が直結(撮影当日はパークウインズ開催のため入場券売り場はクローズ)しているのです。
更に、入場券を購入した後には
といったように、パドックがすぐ見えます。
パドックを横切るとスタンド2階に直接入る事も可能です。
スタンドの構造について下の表に簡単に記載します。
基本的にはほとんどの競馬場と変わらないと思いますが、特徴的なのは1階の「わくわく子供広場」。
これはトランポリンなどの本格的な遊戯施設があります。お父さんが馬券に没頭している間、ご家族はここで遊んだりゆっくりする事が出来ます。
※ただし、小学生以下のみの対象遊具となっていますのでご注意ください。
競馬場グルメですが、色々とありますが、個人的には2階にあります「ボントン」と言うカレー屋がお薦めです。
この店はかつて、小倉のメインストリートの魚町(うおまち)に店を構え、あの文豪の松本清張が頻繁に通っていた洋食屋でした。
1978年に店舗は閉店しましたが、カレーに関しては小倉競馬場の販売のみ受け継がれています。
また、小倉競馬馬主協会主催で「馬主席招待」なる企画があります。普段は入る事が出来ない馬主席に、抽選で入場が出来る企画です。
最大の特徴は、パドックの係員に馬主席の証明書を見せると、馬主専用の入り口があり、そこから馬主専用の席で愛馬を見られる事。
ちなみに私も2015年に、この企画に参加させて頂く事ができました。
当日はアーリントンカップが阪神で開催され、観客も少ない中、サイレンススズカの馬主の永井敬壱氏、馬に「オマワリサン」といった珍名を付けることで有名な小田切有一氏が来場。
その日は非常に寒かったので暖房室で暖を取っていたところ、小倉競馬最終レースのパドックとアーリントンカップの発走時間が重なり、矢作芳人調教師、佐々木晶三調教師、さらにはあのナリタブライアン、タマモクロスなどの名馬に騎乗した南井克己調教師と並んでアーリントンカップのレースを観戦することに。
憧れの南井さんが目の前にいて、レースの内容は忘れてしまいました。
ただし、馬主席ですから、服装はドレスコードが基本ですのでご注意を(ポロシャツ、ジーンズ等の着用は禁止です)。興味のある方はJRAホームページよりご応募ください。
では、肝心の小倉競馬場のコースはどうなっているのかについては下のコース図をご覧ください。
なお、これは私がイラストレーターで書いたため、多少凸凹がある事をご了承下さい。
小倉競馬場は芝コースの1周が福島競馬場の1600m(Aコース使用時)に次ぐ狭さ。
さらに直線の坂は無いコースですが、ゴールラインから2コーナーにかけて上り勾配があります。
2コーナーから向こう正面、さらに3コーナーから4コーナーにかけて下り坂があるため、高低差が芝コースでは3m、ダートコースでは2.9mあります。
また、3コーナーから4コーナーにかけては「スパイラルコーナー」と呼ばれるものがあります。
これは3コーナーで緩やかに回った後に、4コーナーの回り方が厳しくなるというカーブ。
つまり、スピードを落とさずに回る事ができるのです。
芝コースのコース幅がAコース使用で30m。これは中京競馬場と同じ広さがあります。
馬場の荒れ具合によって柵を設け、内と外のロスを軽減しようとしています。
もう1つ、小倉競馬場の特徴として「ローカル競馬場唯一の障害コースがある」事が挙げられます。
ローカル競馬場と言われる福島、新潟、中京の競馬場には障害専門コースはなく、福島、中京競馬場には襷(たすき)コースがありますが、障害は芝コースに移動式の柵を用意しております(札幌、函館競馬場は障害レース自体がない)。
一方、小倉競馬場には障害コースが予めあり、襷コースで右回りになります。
更に直線コースには移動式の竹柵障害を設け、一部のレースでは移動式の竹柵障害を設けています。
4.小倉競馬場で行われる主なレース
小倉競馬場は基本的には2月中旬から3月上旬までの8日間と7月中旬から9月上旬の12日間の2開催となっております。なお、2月の開催では障害レースは行われておりません。
2月開催での重賞競走は1レースのみで、しかもフェブラリーステークスと同日のため、あまり注目されていないかもしれません。
小倉大賞典(4歳以上・芝1800m・GⅢ・ハンデ戦)
1967年に小倉競馬場・芝1800mを舞台とするハンデキャップ競走として創設されたレース。
関西馬の出走が多いのですが2017年の勝ち馬マルターズアポジーなど、関東馬の参戦もあります。
ちなみに、ミルコ・デムーロ騎手が初めて重賞制覇したレースが2001年のこのレースです。
メイン開催となる夏の小倉開催。ここでは4つの重賞が行われます。
小倉サマージャンプ(3歳以上・芝3390m・J-GⅢ・別定)
1999年に障害レースの充実の一環として新設された重賞です。
2011~2014年には関西の障害の名騎手・高田潤騎手が障害重賞競走では初めて同一重賞4連覇を達成しました。
農林水産省賞典・小倉記念(3歳以上・芝2000m・GⅢ・ハンデ戦)
1965年に創設された小倉競馬場では一番伝統のある重賞競走です。
第2回の小倉記念では「悲運の名馬」と言われたテンポイントの母、ワカクモがこのレースを制しました。
また、オルフェーヴルの全兄のドリームジャーニーが2008年に優勝。
翌年の宝塚記念と有馬記念制覇へと続くきっかけとなりました。
サマー2000シリーズの第3戦目に設定され、2006年のスウィフトカレントや2011年のイタリアンレッドはこのレースを制したことでサマー2000シリーズのチャンピオンになりました。
テレビ西日本賞・北九州記念(3歳以上・芝1200m・GⅢ・ハンデ戦)
札幌記念と同じ日に開催されるため、注目度は低いかもしれませんが、サマースプリントシリーズの第4戦となります。
ここで勝ち、サマースプリントシリーズのチャンピオンになったのは2014年のリトルゲルダと2015年のベルカントの2頭です。
1966年に創設。2005年までは芝1800mの別定重賞戦でした。
この北九州記念と小倉記念、春の小倉大賞典を制した馬の事をかつては「小倉三冠」と呼ばれました。
現在、小倉競馬場で誘導馬になっているメイショウカイドウが2005年に同じ年でこの3つのレースを制し、史上初の同一年での小倉三冠を達成しました(他にも小倉三冠馬は3頭いるものの、同一年での小倉三冠達成はメイショウカイドウのみ)。
2006年から距離が1200mに短縮。秋のスプリンターズステークスへのステップレースに位置づけられました。
2008年に制したスリープレスナイトはその後スプリンターズステークスに優勝。
2007年に1番人気で出走も6着に敗れたアストンマーチャンは本番で見事復活を遂げています。
小倉2歳ステークス(2歳・芝1200m・GⅢ・馬齢定量戦)
その年の小倉競馬の最後を飾る重賞レース。1981年に創設された重賞競走です。
なお、この日のレース後はファンに対して芝コースの開放などを行っております。
1200mという距離で実施されるため、現時点での完成度を問われるレースです。
しかし、2006年にアストンマーチャンがこのレースを制し、翌年のスプリンターズステークスを制覇。
2016年に制したレーヌミノルは今年の桜花賞を制し、小倉競馬でデビューした馬では1943年のミスセフト以来74年振りの桜花賞制覇となりました。
以上が小倉競馬の重賞競走ですが、他にも様々なレースがあります。
特に九州産馬限定競走の「ひまわり賞」は九州産のサラブレッドにとって重要なレースですが、それは別の機会にご紹介したいと思います。
開催合計20日と短い小倉競馬の開催。もちろん、パークウィンズ小倉での馬券の発売もあります。
また、大規模災害発生時の拠点としての利用、子供たちの遠足の受け入れなど、地域にも密着した小倉競馬場。
しかし、ある時には別の面で貴重な場所となっております。それは後編のお話に。
後編では主に観光やグルメなどの案内等をしていきたいと思います。
小倉駅からモノレールで10分、北九州空港からバスで35分。
月曜日に早朝便に乗れば、始業時間に間に合う北九州市小倉競馬場──あなたのアウェー競馬場の旅心はくすぐられ始めたでしょうか?
写真と図:おかのひろのぶ