
2024年のダート改革により距離が1400mへと短縮され、短距離3歳王者を決める戦いとしての位置づけと変わった兵庫チャンピオンシップ。
だがそれ以前は中距離の1870mで行われていたこともあって、3歳ダートの頂点であるジャパンダートダービー(現:ジャパンダートクラシック)を目指す馬にとって、このレースは登竜門といえる存在であった。
過去の勝ち馬にはクリソベリルやケイティブレイブなど、のちにGⅠを制し、ダート戦線の王者に輝く馬たちが並ぶ。
勿論彼ら以外にもドンクールやフェラーリピサ、バーディバーディと長らく砂の舞台を沸かせ、数多くの好勝負を演じてきた馬たちが顔を揃えている。このレースを制覇することはその後のダート戦線で一線級を張ることが約束されるといってもいいような、若き砂の優駿達が鎬を削る舞台として熱い戦いが繰り広げられていた。
そんな兵庫チャンピオンシップで、当時、これまでにない強烈な勝ち方をしたコパノリッキーだ。
このレースで目を見張るような走破タイムを叩き出したがいったんはその功績を忘れられ、晩冬の府中で大波乱を引き起こしたのち、日本競馬最多のGⅠ級競走勝利の記録を持つことになる彼が初重賞制覇を挙げたのは、この園田1870m戦であった。

■伏兵から一転、超新星へ。
父にゴールドアリュール、母にコパノニキータ、母父ティンバーカントリー。
近親に産経大阪杯や毎日王冠を制覇したサンライズペガサスがいたが、この血統である同馬は最初から「ダート馬であろう」という見方が大勢を占めていた。それでも12月末のダートでデビューした際の人気は11頭立ての8番人気。伏兵どころか、超大穴という評価であった。
すでに砂の2歳王者を決める全日本2歳優駿は終了し、芝の2歳チャンピオン決定戦である朝日杯フューチュリティステークスもロゴタイプが制していた時期の初出走。世代の頂点が決まったこの時点では全く注目を集めていなかった存在であるコパノリッキーは、レースでも全く見どころがないまま8着に終わる。「普通の馬」というのが、一般的な評価だった。
だが年が明け、京都の未勝利戦で始動したコパノリッキーは、追走に苦労していた前走と打って変わって番手につけると、直線では8番人気の低評価をあざ笑うかのような加速を見せ、5馬身差の快勝。その走破タイムは1分52秒4と、この日行われた500万下の条件戦より0秒8も速い圧巻の勝ち時計である。
そして舞台を府中に移した500万下でも直線、鞍上のクリストフ・ルメール騎手に軽く追われただけで圧勝。後のGⅠ馬サウンドトゥルーを全く相手にしなかった。
次走のヒヤシンスSこそ、やや速い流れの中直線抜け出し目標にされたことで後塵を拝したものの、続戦した伏竜Sでは前走で敗れたソロルにしっかりリベンジ。しかもスタートで躓きながらも立て直し、後方で脚を溜めて直線突き抜けるという強い勝ち方で、勇躍、兵庫チャンピオンシップに狙いを定めて初の重賞に挑戦することとなった。
■園田で見せた「開運」の序章
2012年、創設以来JRA勢が初めて掲示板内を独占した兵庫チャンピオンシップ。前年に続いての上位独占を目指すJRAからの参戦馬は5頭で、ベストウォーリア以外はすべてOPや重賞で2着以上の実績があるうえ、ベストウォーリアもすでに2勝。実力馬が大挙して出走してきていた。
一方、対する地方勢は地元兵庫の大将格ユメノアトサキが兵庫三冠レースの1冠目である菊水賞を勝ちながらも二冠目となる同レースを回避。重賞勝ち馬も高知の金の鞍賞を勝っているマインダンサーのみであったことから、この年もJRA勢優勢の見方は強く、JRA勢5頭が一桁オッズなのに対し、地方勢7頭はすべてが100倍超えのオッズだった。
そんなJRA勢の中でもひときわオッズが飛びぬけていたのがコパノリッキーで、そのオッズは1.5倍と断トツである。2番人気のソロルが4.9倍で続いていたものの、伏竜Sで見せた自在性のある走りと着差から既に勝負付けは済んだと捉えるファンも多かったのだろう。
3番人気のベストウォーリアも東京ダート1600mの500万下を勝ち上がっての参戦だが、同条件のヒヤシンスSとのタイム差は1秒7と歴然。上位2頭にはやや水をあけられた6.0倍のオッズに落ち着いていた。
果たして、JRAの新星がどのような勝ち方を見せるのか。このオッズには、そんな意味合いも込められていたに違いないだろう。
そしてコパノリッキーは、期待に違わぬ強さを園田のファンに見せつけることとなる。
園田の向こう正面からゲートが開くと、好スタートを決めたイチノバーストとマインダンサーをよそに、同じようなスタートからすんなりコパノリッキーが先手をとる。出遅れた前走とは違いスタートを決めれば前に行くだろうと考えていたファンはいたと思うが、キャリア初の逃げの手に出ることを予想できたものはいただろうか。
ハナを切ったコパノリッキーの後ろにイチノバーストとマインダンサーが続き、その後ろにソロルと、新馬戦以来のダート戦となるノウレッジ。やや岩田康誠騎手が手綱を引っ張りながらベストウォーリアが直後につけ、ラジオNIKKEI杯2歳Sではキズナとエピファネイアとたたき合いを演じたバッドボーイに前走で初勝利を挙げた園田のザッツトライアンフがそれに並ぶ。ハルイチバン、オグリストームとオグリシチヘンゲがこの時点でかなり離されて1周目のスタンド前へと各馬が入っていった。
スタート直後に先頭を争ったマインダンサーはメインスタンド前で既に先頭争いから脱落しており、各馬のピッチが上がる2周目の向こう正面で、地元の意地を見せんと追走していたイチノバーストも遂に苦しくなったか先頭争いからは後退。地方勢の勝利はこの時点でかなり厳しくなった。
代わって一気に上がってきたJRA勢4頭がコパノリッキーに襲い掛かる。園田の直線は短い。向こう正面から仕掛けなければ皆、前の馬に残られてしまう。各々に跨る騎手は皆、同じ考えなのは間違いない。
だが──。
「福永祐一余裕の手応えで4コーナーへ向かいます!」
実況アナウンサーが伝えるまま、コパノリッキーの脚色は衰えることを知らない。
元・兵庫所属の岩田康誠騎手がトレードマークの剛腕でベストウォーリアを叱咤し、前走の雪辱を果たすべく捲ってきた元・大井所属の内田博幸騎手とソロル。昔から勝手知ったる地方競馬場での仕掛け所を熟知しているはずの2人と2頭の追撃。これほど恐ろしい強襲はないはずだ。
しかし当のコパノリッキーは意に介さないような涼しい顔で園田の4コーナーを回ってくる。それどころか、追撃してきたベストウォーリアとソロルのほうが逆に突き放され、ソロルはノウレッジを交わせるかどうかという微妙な脚色になった。
それなのにコパノリッキーに跨る福永祐一騎手は手綱を持ったまま。鞭などくれない。後ろも振り返らない。圧倒的なスピードのまま、2着ベストウォーリアに6馬身。3着ソロルには合算で15馬身差という、とんでもない着差で圧勝を飾った。
走破タイム1分58秒4は従来の良馬場でのレースレコードを1秒2も更新。2着のベストウォーリアもその時計を0秒2更新するほどの速さで駆け抜けており、2026年現在も同距離でこのタイムを超えたのはクリソベリルの1分57秒3のみだというのだから恐ろしい。
そしてコパノリッキー陣営は、この勝ち方に日本ダービー参戦を決める。結局ケガで参戦は立ち消えになってしまったが、後年、コパノリッキーに跨って何度も勝利を挙げた武豊騎手が「芝でも面白いかもしれない」と語っていたといわれているように、もし参戦していたらあの熱狂の舞台でキズナやエピファネイアらにひと泡吹かせる存在になっていたかもしれない。
■開運者、勝利を呼ぶものへ。
ケガから復帰後、霜月S、フェアウェルSと復帰2戦は続けて連敗。それでもフェブラリーSにエントリーしたコパノリッキーは、1/2の抽選を潜り抜けて出走がかなった。だが前2走の凡走が影響し、評価は急落。出走16頭中16番人気、272.1倍の最低人気までオッズは落ちた。
しかしここで兵庫チャンピオンシップまでに見せていた快速ぶりが復活。ホッコータルマエやベルシャザール、ワンダーアキュートらといった当時のダート一線級ホースたちを向こうに回して、鮮やかな先行押し切り勝ちをやってのけてみせたのである。ちなみにこの勝利での単勝配当27210円は、2026年5月現在でもGⅠでの単勝高額配当歴代2位に輝いている。
そしてこの後、決してこの勝利がフロックではないことを証明するかのようにダートグレード競走を連戦連勝。歴代1位となるGⅠ級競走11勝を挙げた。その過程でホッコータルマエ、サウンドトゥルー、ワンダーアキュートらといった馬たちとの幾度にもわたる対決は、今も砂の名勝負として語り継がれる名演だろう。

種牡馬入りした後も自身のスピードを伝えるかのように、ダートの短距離戦線で活躍するアームズレイン、父と同じ伏竜Sを制してケンタッキーダービーに参戦し5着に入ったテーオーパスワードを中央で輩出。地方でも牝馬ながら無敗で東海ダービーを圧勝したセブンカラーズを出しており、ゴールドアリュールの後継種牡馬としての地位を着々と築きつつある。
2024年から装い新たに3歳短距離戦線の王者を決める戦いに生まれ変わった兵庫チャンピオンシップ。今年もまた、ダート戦線の新星は生まれるかどうか。
コパノリッキーのような卓越したスピードを持つ優駿の誕生を期待したい。

写真:Horse Memorys、s1nihs、はねひろ(@hanehiro_deep)
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