[重賞回顧]古馬相手でも適距離では負けられない! 混戦を断った3歳馬シックスペンスが、秋初戦を快勝~2024年・毎日王冠~

毎年のように豪華メンバーが集結し、スーパーGⅡとも称される毎日王冠。ダイワメジャーが勝利した2006年にはレース史上最多6頭のGI馬が集結し、天皇賞(秋)に勝るとも劣らないメンバーが顔を揃えたこともあった。ただ、近年はGⅠに直行する馬も少なくなく、2024年の毎日王冠は、グレード制導入以降、初めてGⅠ馬が一頭も出走しない毎日王冠となった。

それでも出走14頭と頭数は揃い、半数以上の9頭が重賞ウイナー。3歳から8歳まで実に6世代が集結し、非常に骨っぽいメンバーが顔を揃えた。言い換えれば、抜けた実績馬がいない混戦で、最終的に単勝10倍を切ったのは5頭。その中で、シックスペンスが1番人気に推された。

デビューから3戦続けて中山のレースに出走し勝利したシックスペンスは、2走前のスプリングSで重賞初制覇。当地では極限ともいえる上がり3ハロン33秒3の末脚でライバルを圧倒し、2着に3馬身半差をつける完勝だった。

前走のダービーは9着に敗れ初黒星を喫したものの、遅い流れで折り合いを欠いたことが敗因。クリストフ・ルメール騎手とのコンビが復活し距離短縮となる今回、2つ目のタイトル獲得が懸かっていた。

僅かの差でこれに続いたのがローシャムパーク。3代母が名牝エアグルーヴという良血馬ローシャムパークは、ここまで重賞を2勝。3月のGⅠ大阪杯でも、勝ち馬とタイム差なしの2着に好走した。

前走の宝塚記念は5着に敗れるも、スタートが遅く、行き脚がつかなかったことが敗因。1年ぶりの勝利と重賞3勝目が期待されていた。

そして、3番人気となったのがヨーホーレイク。2022年の日経新春杯で重賞初制覇を飾るも、屈腱炎を発症し長期休養を余儀なくされたヨーホーレイクは3月の金鯱賞で復帰。いきなり3着に好走すると、新潟大賞典3着を挟んだ前走の鳴尾記念で2つ目の重賞タイトルを手にし、完全復活をアピールした。

4ヶ月ぶりの実戦となる今回は、デビュー戦以来、久々の1800m戦。ただ、これまでGⅡ以下ではすべて3着内に好走と安定しており、重賞連勝なるか注目を集めていた。

以下、前走の函館記念を制し、同じく重賞連勝が懸かるホウオウビスケッツ。2023年の覇者で、あのオグリキャップ以来、史上2頭目の連覇が懸かるエルトンバローズの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、トップナイフが僅かに出遅れ。ダッシュがつかなかったオフトレイルも後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、前は好スタートを切ったホウオウビスケッツがそのまま逃げ、大外枠からエルトンバローズも積極的な競馬でこれに続き、シルトホルンを挟んだ4番手にシックスペンス。中団は、ヤマニンサルバム、ダノンエアズロックと続いて、ヨーホーレイクは7番手につけ、ローシャムパークはニシノスーベニアと並んで9番手に位置していた。

800m通過47秒5、1000m通過は59秒4と遅い流れ。先頭から最後方のカラテまでは12馬身ほどの差だった。

その後、4コーナーで後方に位置していたオフトレイルがポジションを上げ2頭を交わすも、それ以外に目立った大きな動きはないままレースは直線勝負を迎えた。

直線に向いてもホウオウビスケッツは快調に逃げ、リードは変わらず1馬身。楽な手応えのまま坂を駆け上がり逃げ込みを図ろうとするところ、2番手からエルトンバローズとシルトホルン。その後ろからシックスペンスとヨーホーレイクが懸命に差を詰めようとしたものの、前はしぶとく、なかなか差が詰まらない。

それでも、残り100mで僅かにホウオウビスケッツの末脚が鈍ったところへ、ようやくエンジン全開となって2番手の混戦から抜け出したシックスペンスがゴール寸前でこれを捕え、1着でゴールイン。クビ差2着にホウオウビスケッツが入り、3/4馬身差でエルトンバローズが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分45秒1。4ヶ月ぶりの実戦と古馬との初対戦をものともしなかったシックスペンスが混戦を断ち、2度目の重賞制覇。秋、順調なスタートを切った。

各馬短評

1着 シックスペンス

遅い流れとなったダービーは折り合いを欠いて敗れ、そこから600m短縮となった今回も再び遅い流れとなったが、さすがに前走ほど遅くはなく、折り合いも問題なし。最後の直線こそ、休み明けのせいか、それとも遅い流れに持ち込んだ逃げ馬がしぶとかったからかジリジリとした伸び脚になったものの、ゴール寸前できっちりと前を差し切った。

唯一敗れたダービーは、折り合いはもちろんのこと距離もやや長かった印象。レース後、ルメール騎手も「たぶん2000mまで」とコメントしており、次走は秋の天皇賞か、マイルCSか、はたまた香港か。動向が注目される。

2着 ホウオウビスケッツ

緩い流れに持ち込んで長い直線を粘りに粘り、最後まで勝ち馬を苦しめた。

前走の函館と今回の東京ではコース形態などまったく異なるが、まるで問題にせず好走。もともとダービー6着の実績があり、近2走も「巴賞勝ち馬は函館記念を勝てない」というジンクスを19年ぶりに打ち破っており単純に能力は高い。

GⅠとなるとさすがにマークは厳しくなりそうだが、少なくとも人気にはならなさそう。なにより、岩田康誠騎手とコンビを組んだ今シーズンは5戦すべて3着以内と相性抜群で、同厩のノースブリッジと似たタイプ。評価を下げられるようであれば、逃げ粘りを常に警戒しなければならない存在。

3着 エルトンバローズ

スタートは決して良くなかったものの、積極的に位置を取りにいって好位を確保。ただ、瞬発力勝負では分が悪く、勝利した前年より3キロ重い斤量を背負ったこともあり、僅かに伸び負けてしまった。

ただ、前年と同じくマイルCSに向かえばチャンスは十分で、日本の馬場よりややパワーを要す香港も面白そう。この馬もまた次走が注目される。

レース総評

前半800m通過が47秒5で、11秒9をはさみ、同後半は45秒7と後傾ラップ=勝ち時計は1分45秒1。4コーナーで4番手以内に位置(シックスペンスとヤマニンサルバムはともに4角4番手)していた馬が掲示板を独占する前残りの展開で、中団以下に位置していた馬にとっては厳しいレースだった。

そんな一戦を勝利したのは、2走前に小回りの中山で極限ともいえる上がり33秒3の末脚を繰り出しスプリングSを完勝した3歳馬シックスペンス。東京競馬場でも活かされると思われたその末脚は、ダービーこそ折り合いや距離適性もあって発揮されることはなかったが、適距離と思われる1800mに短縮された今回は古馬相手でも通用した。

ただ、休み明けだったせいか、ペースが遅かったからか。それとも、先を見据えた仕上げでまだ中身ができていなかったのか。スパッと切れるような末脚ではなかったが、古馬との初対戦で勝ち切ったことに意味がある。

そのシックスペンスは、リーディングサイアー争いでも依然として首位を快走するキズナの産駒。この先おこなわれるGⅠでも、有力馬が複数スタンバイしている。

一方、母フィンレイズラッキーチャームは米国ダート7ハロンのGⅠマディソンSの勝ち馬で、その父はトゥワーリングキャンディ。キズナ×母父ファピアノ系種牡馬の組み合わせは、同世代だけでも、先日のローズSを勝利したクイーンズウォークや、青葉賞2着、神戸新聞杯3着のショウナンラプンタと同じ。また、母方にダンチヒを持つキズナ産駒も、皐月賞馬ジャスティンミラノや、桜花賞とオークスでともに3着だったライトバック。さらに、2024年から交流重賞になった不来方賞を勝利し、先日のジャパンダートクラシックで3着だったサンライズジパングと同じである。

これまで、キズナ産駒の牡馬はやや瞬発力に欠ける印象があり、東京競馬場での重賞勝利は、2月の共同通信杯を制したジャスティンミラノが初めてだった。ただ、現3歳はノーザンファームが自社の繁殖に数多く種付けした世代。もちろん、大前提として育成技術の進歩や向上はあったが、キズナ産駒の牡馬=瞬発力に欠けるという印象は、少なくともノーザンファーム生産馬には当てはまらない。

また、毎日王冠を勝利した3歳馬は、グレード制導入以降シックスペンスで8頭目。その半数以上が直近5年以内に集中しており、なおかつ2022年は3歳馬が出走しなかったため、2019年のダノンキングリーから出走機会5連勝となった。

ただ、そのいずれもが次走GⅠに出走したものの勝利できず、後にGⅠ馬となったのもダノンキングリーだけ。この時点で古馬を撃破したということは、3歳馬の中でもトップクラスの実力を持っている何よりの証拠だが、古馬の「超」一線級の壁は高く、もう一段階上のレベルへいくためのさらなる成長力が必要となる。

写真:s1nihs

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