[重賞回顧]世界を完封! 主役はやはり日本総大将~2024年・ジャパンカップ~

近年、海外馬の参戦が少なくなっていたこともあって以前までのような国際G1の色味にやや陰りが差していたジャパンカップだが、今年は海外からディープインパクト産駒のイギリスダービー馬オーギュストロダンにキングジョージを制したゴリアット、昨年のドイツダービー馬で今年のバーデン大賞馬ファンタスティックムーンとまさに超一流のメンバーが府中に集結。

対する日本勢も出走11頭全馬が重賞馬で、うち7頭がG1ホースと錚々たるメンバーが出走しており、これぞ国際招待競走というメンバーが顔を揃え、史上空前のハイレベルなジャパンカップに。その中でも1番人気は、日本代表のドウデュースが支持された。

前走の天皇賞・秋で大外から一気の差し切りを見せ、グランプリホースの貫禄を見せるとともに見事な復活劇を成し遂げて見せたドウデュースは、堂々と日本総大将の肩書を手にジャパンカップへ駒を進めてきた。

メンバー中唯一の秋古馬三冠の権利も持つ同馬に跨るは、最早黄金コンビとなった武豊騎手。既に引退が発表されている同馬にとって、有馬記念まで残すはここを入れてあとふたつ。当然、G1連勝が期待されていた。

2番人気に支持されたのが3歳牝馬チェルヴィニア。オークスは外から桜花賞馬ステレンボッシュを差し切り、秋華賞は直線の不利も意に介さず堂々の牝馬二冠を達成した淑女が次に目指すのは古馬王者。前走で見せたパフォーマンスは着差以上の強さを感じさせたうえ、近年3歳牝馬はジャパンカップと相性も良いことも後押しし、一気の王座獲りを狙っていた。

この2頭からやや離された形で3番人気に推されていたのがジャスティンパレス。宝塚記念、天皇賞・秋は着順こそ低いものの、不良馬場や直線での不利と、実力をしっかり出し切っての負けではないという意見も多く、実力は十分と見られていた。

加えて鞍上に来日後1ヶ月で16勝と絶好調のクリスチャン・デムーロ騎手を配してきており、やや不完全燃焼な今年の走り全てを払拭するべく、秋2戦目で復権を誓っての参戦となった。

レース概況

シュトルーヴェが出遅れたものの、ほかはほぼ横一線でスタンド前を通過していく。

逃げ馬不在で誰が出るのかと注目されていた先頭争いは、なんとシンエンペラーが先手を主張。続くように外からソールオリエンスも進出し、東西若手のホープが国内外の一流馬を引き連れる姿にスタンドからは歓声が沸く。

その後ろでダノンベルーガがインを取り、並ぶようにチェルヴィニアとスターズオンアース。世代を超えた二冠牝馬2頭が並んで3番手集団を形成していく。

直後にジャスティンパレス、ドゥレッツァと淀の長距離G1を制した2頭が、オーギュストロダンとゴリアット、欧州の伝統あるG1を制した2頭の前につけていき、ここまでが中団馬群を形成。

後方に2年ぶりのジャパンカップ出走となるカラテ、春のグランプリ王者ブローザホーンが続き、ドイツダービー馬ファンタスティックムーンと中山、府中の長距離重賞を連勝したシュトルーヴェの間、天皇賞秋と同じ後方から2番手の位置にドウデュースがつけ、進出の機会を窺っていた。

逃げたシンエンペラーと坂井瑠星騎手が刻むラップはかなり遅く、1コーナーから2コーナーの間では13秒台のラップタイムを刻んでいた。それを見切ったか1400のハロン棒付近で早くもビュイック騎手とドゥレッツァが動き、勝負に出る。

この動きにスターズオンアースが反応し、ソールオリエンスを交わして2番手へと進出したが、シンエンペラーは競るようなことはせず引いて3番手へ。後続集団もスターズオンアース以外は大きく動くような馬はなく、大欅の向こう側へ差し掛かって行った。

だが3,4コーナーの中間で、後方からドウデュースが早くもスパートを開始。中団馬群の先頭程まで位置取りを上げ、コーナーでGOサインが出たオーギュストロダンと一瞬の邂逅を果たすと、スピードに乗ったまま直線に向いていった。

直線に向き、途中から進出したドゥレッツァが迫るスターズオンアース、シンエンペラーらを振り切ろうとそのギアを再度上げようとした刹那、まるで瞬間移動したかのようにドウデュースはもう先頭集団のすぐ後ろまで来ていた。同じように仕掛けたチェルヴィニア、ゴリアットを置き去りにし、有馬記念で叩き合いを演じたスターズオンアースも競り落とすと、残すはドゥレッツァだけ。

しかしドゥレッツァも簡単には譲らない。さらには内から一度は下がったはずのシンエンペラーも脚を伸ばす。坂を上り切って、優勝争いはこの3頭に絞られた。

それでも、競り合いになればドウデュースは強い。ダービー、有馬記念で競り合いの末イクイノックスやタイトルホルダーを競り落とした勝負根性はここでも健在だった。一完歩ずつ脚を伸ばし、粘るドゥレッツァと伸びるシンエンペラーを僅かに抑え切って、G1・5勝目、秋古馬三冠へリーチをかける栄光のゴール坂へ飛び込んだ。

注目馬短評と上位入線馬短評

1着 ドウデュース

G1連勝、秋古馬三冠リーチのその走りは堂々たるもの。上り最速32.7秒の末脚を繰り出して、日本総大将の肩書に相応しい走りを見せた。

スローペースながら後方から構え、その期待に応えるように脚を伸ばしたドウデュースの強さは、最早疑う余地がない。願わくば、今のドウデュースと昨年のイクイノックスの対決を見てみたかったものである。

これで現役生活、残すは有馬記念のみ。秋無敗で大団円を飾ることはできるだろうか。

2着同着 ドゥレッツァ

スローペースを見切って動き、4角先頭から押し切りの構え。これは昨年菊花賞で見せた走りと同様なもので、再現も十分にあり得たが勝ち馬が強すぎた。

道中、先頭に立ってからは12秒台の正確なラップを刻んでおり、これは馬に相応の実力がないとできない芸当。やはりレースセンス自体は抜群にいい馬と踏んでいいだろう。

トリッキーな中山2500mも対応できそうだが、逆に消耗戦となるとやや不安もある。菊花賞を勝っているとはいえ、本質的にこなせる距離はクラシックディスタンスまでか。

2着同着 シンエンペラー

後方から進めるかと思われていたが、まさかの逃げの手に打って出たシンエンペラー。

道中ドゥレッツァが進出してきたときも、併せてレースペースを早くすることなく引いて末脚を溜める判断は素晴らしかった。

ここまで追い込んで惜しい競馬が多かったが、逃げることができたのは大きな収穫。レースの立ち回りが器用になってきたのなら悲願のG1制覇もすぐそこか。来年以降も海外遠征を敢行するようであれば、是非期待したい。

総評

レースの平均上り3Fは33.4秒でレース史上最速を記録したものの、良馬場での走破時計自体は2017年、キタサンブラックが制した際の2分25秒8に次いで遅いタイムだった。1000mの通過タイムも過去10年で最も遅い超スローペースに加え、彼と同じように後方から追い込んだジャスティンパレスの上りが33.3秒。ドウデュースはそれをさらに上回る32.7秒の末脚だったのだから、彼の強さがいかに際立っているかということがわかる。

さらに、秋の天皇賞からジャパンカップを連勝するのは史上6頭目の偉業だが、ドウデュース以外はすべて4歳馬(スペシャルウィークは現行表記で統一)。加えて、ダービ馬が5歳となってジャパンカップを制覇したのも、ウオッカ以来史上2頭目で14年ぶりのこと。4歳馬が制することの多いこの舞台であれほどまでの強さを見せるのだから、脱帽するほかない。

過去、古馬になって覚醒したハーツクライ産駒はリスグラシューやジャスタウェイのように手の付けられない強さになることが多々あったが、ドウデュースもその領域に脚を踏み入れているのではないだろうか。恐らく次走の有馬記念がラストランになると思うが、最後までその走りに注目したい。

また、今回のジャパンカップで2着同着となったシンエンペラーとドゥレッツァに騎乗していた坂井瑠星騎手とウィリアム・ビュイック騎手は、世界を席巻するゴドルフィングループでの日本と世界の主戦騎手。それに先着した武豊騎手は、その昔安田記念でハートレイクを優勝に導き、ゴドルフィンに日本初のG1制覇をもたらしている。世界との差が縮まったのを実感すると同時に、ここでも「世代交代はまだ早い」と言わんばかりの貫禄をレジェンドが見せつけた格好だろうか。

残すはあとひとつ。秋古馬三冠か、それとも阻止する馬は現れるのか。師走の中山、最後の激闘への道は開かれた。

写真:s1nihs

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