「障害レース、かっこいい!」
「馬って飛ぶんだね!」
初めて障害レースを観戦した競馬ファンが、1レースですっかりその虜になっている――そんな光景を目にするのは少なくない。こと最近、そのような機会が増えているようにも感じる。
前回の記事では障害馬や障害騎手の貢献を綴ったが、今回はその世界に魅了された障害ファンと、障害界を盛り上げている現王者の一頭・オジュウチョウサン、そして第二の馬生で活躍中の元障害競走馬について語りたい。
障害レースの魅力を発信する手段として、SNSやブログ、HPが例に挙げられる。
そこには障害ファンによって、彼ら・彼女らの愛してやまない世界が、写真や文章と共に活き活きと描かれている。
情熱に敵うものはない。気づけばその熱意に引き込まれていた……そのような事もあり得るだろう。
競馬メディアで障害レースに関するインタビューやコラムが増えている事を鑑みると、ファンの情熱は日々、実を結んでいるように思う。
また、現在の障害レース人気の高まりに、オジュウチョウサンが貢献している事は想像に難くない。
J-G1を3連勝、重賞6連勝中。(2017年10月現在)
平地レースのみを見ているファンにもその名を知る人は多いはずだ。
才能はあるものの、一時期は気性の難しさからその能力を存分に発揮できなかったオジュウチョウサン。
石神騎手はその背から幾度となく落とされようと、我が子のように彼の心身に合わせた調教を積んだ。
その愛情に応えた彼は、2016年中山グランドジャンプ……J-G1で、初の重賞タイトルを手にした。石神騎手にとっても初のJ-G1タイトルであり、まさに絆のもたらした勝利である。
その一戦で自信をつけたのだろうか。オジュウチョウサンは、王者として厳しいレースを経験する立場になったものの、毎回観衆の想像を超えるような内容で重賞を圧勝し続けている。
2016東京ハイジャンプでは空馬が出てしまうというトラブルの影響で「あわや落馬では」と肝を冷やした場面があった。しかし彼は空馬をものともせず、勝負根性を発揮してゴールへ飛び込んだ。
「オジュウチョウサンの強さ、魅力は言葉で説明できない」
そんな声を多々、耳にする。
そのミステリアスさが、ファンの心を掴むのかもしれない。
彼もまた、人を障害レースの世界に引き込んでしまう不思議な魅力を持つ競走馬なのである。
そんなオジュウチョウサンは、連覇を果たした2017年中山グランドジャンプののちに剥離骨折の手術を受け、東京ハイジャンプでの復帰が予定されている。
今後の障害界を占う意味でも見逃せない一戦だ。
そして、競馬とはまた違った所から、近年の障害界を賑わせた名馬の名を耳にする事となった。
鮮烈な記憶を残してターフを去ったスピードジャンパー・サナシオンである。
馬術の競技馬となった彼は、大会デビューを馬場馬術競技入賞で飾った。そして先日行われた大会では、障害飛越競技で優勝という快挙を達成。
馬術においても多彩な才能を発揮する彼に、更なる活躍への期待が寄せられる。
京都ハイジャンプを連覇した「都に舞う華」ルールプロスパーもまた、彼の愛した京都の馬術部に所属し、数多くの大会で活躍している。
競走と馬術は異なるものの、名手・白浜騎手の認めた飛越センスをもって障害馬術での入賞も果たしている。
そんな彼らの華やかな活躍は障害レースがあってこそ……彼ら自身が、障害レースで掴んだ未来ではないだろうか。
丸太1本を跨ぐ所から一歩ずつの積み重ね、そして生垣・竹柵といった障害で華麗なハイジャンプを披露する障害馬。
障害レースの魅力を広める事も同様である。競馬ファンの友人を誘ってみる、自分なりに障害レースの魅力を発信する……一人ひとりのファンの行動は、決して影響の少ないものではない、と私は考えている。
全ては、一歩から始まるのだから。
レースを楽しむために、観戦歴や前提知識などは必要ない。
その虜になった瞬間から、皆、障害ファンなのだ。
目標は高く、一歩から、一歩ずつ。障害馬も障害ファンも、日々「Hop, Step, High Jump」なのかもしれない。
写真:がんぐろちゃん、川井旭