エリザベス女王杯ってどんなレース?
1970年に3歳牝馬三冠競走の最終戦として創設された「ビクトリアカップ」を前身とするレースです。
1975年にイギリスのエリザベス女王が来日されたのを記念して、翌1976年に「エリザベス女王杯」として新たに第1回の競走が開催されました。コース・条件はビクトリアカップを踏襲し、3歳牝馬限定戦で京都競馬場の芝2400mで行われました。この間、1986年にはメジロラモーヌが桜花賞・オークス・エリザベス女王杯を制し、日本競馬において初めて「3歳牝馬三冠」を成し遂げました。(※馬齢は現在表記をしています)
その後、1996年の牝馬競走体系の整備に伴い、競走条件が3歳の牝馬限定から3歳以上の牝馬限定に変更。同時に距離も芝2400mから芝2200mへと短縮され、桜花賞・オークス・秋華賞の3歳牝馬三冠を走ってきた3歳牝馬VS4歳以上の古馬牝馬による「最強牝馬決定戦」の色合いが濃くなってきました。
2012年には英国王室と縁の深い関係を持つレースであることから、一般的にイギリス連邦以外では許可されないエリザベス女王即位60年記念「ダイヤモンドジュビリー」を日本で実施することについて特別に許可が下り、「エリザベス女王即位60年記念」の副題がつけられました。2013年からはバッキンガム宮殿の許可が下り、欧文表記がそれまでの「Queen Elizabeth II Commemorative Cup (日本語訳:エリザベス2世女王記念カップ)」から「Queen Elizabeth II Cup」へと変わりました。
今年と来年は京都競馬場のスタンド改装工事のため、阪神競馬場で行われます。
エリザベス女王と競馬
イギリス王室は競馬との関係が深く、エリザベス女王も5歳の時から乗馬に親しむなど馬と密接した環境で過ごされていました。イギリス史上初めて、スポーツ団体に勅許を与えてジョッキークラブの決定に法的基盤を付与したのは、エリザベス女王です。これにより、200年以上にわたって「先例」でしかなかったジョッキークラブの裁定には法的な根拠が認められることになり、権威と権限が大幅に強化されることになりました。
また、馬主としても有名で、1954年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスの優勝馬オリオール、1957年のイギリスオークスを制したカロッツァ、1958年のイギリス2000ギニー(日本でいう皐月賞)を制したポールモール、1974年のイギリス1000ギニー(日本でいう桜花賞)、フランスオークス(ディアヌ賞)を制したハイクレア、1977年のイギリスオークスとセントレジャー(日本でいう菊花賞)を制したダンファームラインがいます。イギリス王室が主催する競馬開催「ロイヤルアスコット」の中のレース、ゴールドカップで2013年に制したエスティメイトもエリザベス女王の所有馬でした。
1000ギニー、オークス、2000ギニー、セントレジャーとイギリスのクラシックを4勝挙げているエリザベス女王ですが、イギリスダービーは未だに未勝利です。2011年には所有馬のカールトンハウスが1番人気となり、85歳にして初のダービー優勝馬所有なるかと競馬界を超えて広くイギリス社会の注目を集め、女王自らもエプソム競馬場に見に行かれましたが、落鉄のアクシデントなどもあり3着に終わりました。
所有していた馬の中で日本と縁が深いのはハイクレア。ディープインパクト、ブラックタイドの母方の曾祖母として知られています。また、娘のハイトオブファッションはイギリス2000ギニー、イギリスダービーなどを制したナシュワンの母としても知られています。ナシュワンは凱旋門賞馬バゴの父として知られており、今年の宝塚記念を制したクロノジェネシスから見ると、ナシュワンは父方の祖父にあたります。
今年の見どころ
ラッキーライラックが史上3頭目のエリザベス女王杯連覇を達成するか?
昨年のこのレースを制したラッキーライラック(牝5 栗東・松永幹厩舎)。
勝てばメジロドーベル(1998年・1999年)、アドマイヤグルーヴ(2003年・2004年)以来3頭目のエリザベス女王杯連覇となります。
昨年のこのレースを制したのちは香港ヴァーズ・中山記念と連続して2着でしたが、春にはG1の大阪杯を制しました。宝塚記念は直前に降った雨の影響もあってか、3コーナーでは早くもムチを入れたりするなど苦しい競馬を強いられ6着と敗れています。
前走の札幌記念はスローペースを懸念して2番手から競馬を進めましたが、それが影響したのでしょうかいつもの伸びが見られず3着に敗れました。早めにポジションを取って競馬を進めたのが敗因の一つもありますが、タフな条件で行われた宝塚記念の反動があったかもしれません。
今回はミルコ・デムーロ騎手がラヴズオンリーユーに騎乗するため、クリストフ・ルメール騎手が騎乗します。大一番での乗り替わりに不安があると思いますが、ルメール騎手はアーモンドアイ、グランアレグリア、ソウルスターリングなど牝馬でのG1レースに実績を残しています。今年の秋もアーモンドアイで天皇賞・秋を、グランアレグリアでスプリンターズステークスを制するなど絶好調です。
ここ最近は早めにポジションを取る競馬を行っていましたが、理想とする競馬は昨年のエリザベス女王杯のように中団で構える競馬でしょう。ルメール騎手はこれまではラッキーライラックと戦った経験も豊富ですから、ラッキーライラックの理想の競馬を熟知しているはずです。
馬主のサンデーレーシングの規約では来年3月でもって繁殖牝馬になるラッキーライラック。
G1レース4勝目に向けて、チャンスを掴み取りたいところです。
ノームコアが昨年のヴィクトリアマイル以来のG1レース制覇となるのか?
ラッキーライラックが3着に敗れた札幌記念を制したのはノームコア(牝5 美浦・萩原厩舎)。
昨年のヴィクトリアマイル以来のG1レース制覇を狙います。
今年は芝1200mの高松宮記念(15着)から始動したノームコア。
連覇を狙ったヴィクトリアマイルはアーモンドアイが圧勝しましたが、この馬も2着のサウンドキアラとはタイム差無し(クビ差)の3着と健闘しました。
その後、昨年出走しなかった安田記念に出走。勝ったグランアレグリアからは0.5秒差の4着でしたが、アーモンドアイ(2着)とは0.1秒差に迫りました。
そして迎えた札幌記念では2番人気に支持され、道中は6番手を追走、ラスト600mのタイムがメンバー中最速の1位の34.5秒を披露し、ペルシアンナイトの追撃を振り切りました。
ヴィクトリアマイルを制していたり、安田記念で4着に入っていたりと、マイル実績が豊富なノームコア。ここでは芝2200mという距離への適性が問われると思いますが、心配はないでしょう。3歳時には紫苑ステークス(芝2000m)を制し、今年の札幌記念(芝2000m)を制している実績がある点と、父のハービンジャーは芝の中長距離で結果を残している点がその裏付けです。
半妹(父はバゴ)のクロノジェネシスは同じ距離で行われた宝塚記念を圧勝するなど、むしろ芝2000m以上の距離が合いそうな血統背景から見ると、芝2000m前後の距離が一番合う可能性すらあります。
騎乗予定の横山典弘騎手は1990年のキョウエイタップ以来、30年ぶりのエリザベス女王杯制覇を狙います。人馬ともベテランのコンビで久々のG1レース制覇となるでしょうか?
ラヴズオンリーユー、サラキア、センテリュオといったディープインパクト産駒たちにも注目!
昨年のオークスを制したラヴズオンリーユー(牝4 栗東・矢作厩舎)。
近走は不調ですが、この馬の復活があってもおかしくはありません。
昨年のエリザベス女王杯の3着で、デビュー戦から続いた連勝が4でストップ。
今年は予定されていたドバイシーマクラシックが新型コロナウイルスの影響で中止。
5月のヴィクトリアマイル(7着)はレース中に窮屈な場面もあり、半年ぶりの影響もあってかいつもの伸びがありませんでした。
6月の鳴尾記念はパフォーマプロミスとの接戦でハナ差の2着。前走の府中牝馬ステークスは切れ味を身上とするこの馬にとっては不利な重馬場でのレースで5着に敗れています。
ポイントとなるのは馬体重でしょう。
2戦目の白菊賞ではマイナス12Kg、昨年のエリザベス女王杯ではプラス16Kg、前走の府中牝馬ステークスはプラス12Kgと2桁の馬体重の増減があり、この馬のベストな馬体重がどのくらいなのかが把握できていないファンも多いでしょう。
3歳の休養明けだったエリザベス女王杯は成長分の増加だったことを加味しても、前走の府中牝馬ステークスのプラス12Kgは馬が太目残りで、ベストの状態にまだ仕上がっていなかった事も考えられます。
最終追い切り、レースの馬体重に注意しなければなりません。
ラヴズオンリーユーが敗れた府中牝馬ステークスを制したのは同じディープインパクトの娘のサラキア(牝5 栗東・池添学厩舎)。初重賞制覇の勢いでG1レースに挑みます。
昨年のエリザベス女王杯6着後は愛知杯9着、福島牝馬ステークス5着、エプソムカップ13着と重賞戦線では苦戦していたサラキア。オープンの小倉日経オープンで約2年ぶりの勝利を得ました。重馬場で行われた府中牝馬ステークスは8頭立ての7番人気と低評価だった背景には、不良馬場で行われたエプソムカップでの13着があったのでしょう。レースは逃げるトロワゼトワルの4、5番手を追走。最後の直線では馬場の良い外側を回り、2着のシャドウディーヴァに0.5秒(3馬身)差を付ける快勝を演じました。
サラキアにとって追い風なのは、府中牝馬ステークスでコンビを組んだ北村友一騎手との続投。なぜならば、北村騎手とのコンビでは4戦3勝2着1回とパーフェクトな数字を残しているからです。弟
には朝日杯フューチュリティステークスなどを制しているサリオスがいる血統。
血統の良さと勢いで初G1レース制覇を狙います。
また、オールカマーでカレンブーケドールを直線で差し切り、初重賞制覇を成し遂げたセンテリュオ(牝5 栗東・高野厩舎)。昨年4着のリベンジを狙います。
今年は愛知杯5着、大阪城ステークス(リステッド)5着、マーメイドステークス2着とあと一歩の戦績だったセンテリュオ。オールカマーは9頭立ての5番人気の伏兵的存在でした。レースは前半1000mが64.3秒の超スローペース。このペースを嫌がって他の馬が動き出す中、じっと待機したセンテリュオはラスト600mのタイムがメンバー中最速の34.5秒を披露し、粘るカレンブーケドールをハナ差交わしてのゴール。悲願の重賞初制覇となりました。
センテリュオの魅力と言えば、キャリア16戦中ラスト600mのタイムがメンバー中最速だったのが7回と、瞬発力に秀でている点です。
愛知杯の様な重馬場でのレースでは結果を残していませんが、大阪城ステークス、マーメイドステークス、オールカマーと3戦連続でラスト600mのタイムがメンバー中最速を披露している辺り、馬がスケールアップしたかも知れません。阪神コースは相性の良い舞台。今度こそ悲願のG1レース制覇を狙います。
リアアメリアをはじめとする3歳馬の走りにも注目!
もちろん、ディープインパクトの娘は3歳世代にも期待の馬がいます。
筆頭はローズステークスを制したリアアメリア(牝3 栗東・中内田厩舎)が挙げられます。
前走の秋華賞は13着と大敗しましたが、2番ゲートからのスタートが災いになったのでしょう。
秋華賞の上位5頭を見ると、3着に入ったソフトフルート以外は12番ゲートから外枠でスタートを切った馬が上位を占めています。前日まで降った雨により、内側のゲートからスタートした馬にとっては不利だったかもしれません。
阪神コースは新馬戦以外のレースで大敗していますが、阪神ジュベナイルフィリーズ(6着)は馬が未完成だった点。桜花賞(10着)は重馬場が影響していた可能性もあります。
パンパンに乾いた馬場が前提ですが、年上相手でも通用するポテンシャルは持っているはずです。
さらに、秋華賞で3着に入ったソフトフルート(牝3 栗東・松田厩舎)もディープインパクトの娘です。
秋華賞では道中最後方でレースを進め、ラスト600mのタイムがメンバー中最速の1位の35.7秒を披露(2位は勝ったデアリングタクトらの35.8秒)。芝2200mも京都で行われた1勝クラスの矢車賞を制するなど中距離で実績を残しています。
騎乗予定の福永祐一騎手はコントレイルで牡馬三冠を成し遂げましたが、「牝馬の福永」とも言われているように、牝馬との相性も抜群。管理する松田国英調教師は来年2月でもって定年のため引退ですから、松田調教師にG1レース制覇のプレゼントをもたらしたいところです。
3歳勢でディープインパクト産駒以外で魅力的なのは、ウインマリリン(牝3 美浦・手塚厩舎)。秋華賞は15着と大きく負けましたが、オークス以来のレースで馬体重がプラス12Kgと太目残りが敗因と考えれば、一度使っての変わり目が期待できそうです。秋華賞5着のミスニューヨーク(牝3 栗東・杉山厩舎)も秋華賞は見せ場十分の内容でした。騎乗予定の加藤祥太騎手は、嬉しいG1レース初騎乗となります。