京都開催の締めくくりG1「マイルチャンピオンシップ」。
春の安田記念と合わせて「春秋マイルG1」として多くの名マイラーを生み、名勝負を繰り広げてきた。また京都巧者の好走も多く、所謂リピーターも上位に食い込みやすいというのも特徴的なレースである。
今回は歴史あるマイルチャンピオンシップの中で、初のG1を得意の京都で制覇し、鞍上の大偉業に貢献した1頭の京都巧者について振り返っていく。
今回の主役はトーセンラー。
オルフェーヴル世代のこの馬は、3歳時にきさらぎ賞で重賞を制覇。そのまま順調にクラシック戦線を戦うだろうとされていた。しかし2011年3月11日、放牧先でトーセンラーは震災による大きな揺れを受けた。停電などのライフラインの切断に加え、栗東所属のため東北から栗東までにも長時間の移動が重なった。まだ幼さも見える3歳になったばかりのこの馬にとって、精神的ダメージは少なからずあっただろう。
その影響があってか、春のクラシックは大敗続きとなったトーセンラー。
しかし、秋には一変。
始動戦のセントライト記念で2着、菊花賞で3着と好走すると、5歳になって京都記念で久々の重賞制覇。さらに天皇賞春でゴールドシップに先着する2着に食い込むなどG1制覇へ日に日に近づいていった。
そして、運命のマイルCSの日が近づいてくる。
マイルCSまで20戦近いレースを戦い抜いて来たトーセンラーは、レベルアップを果たしていた。
しかし地力アップだけでなく、トーセンラーにはもう一つ、マイルCSに向けて大きな勝算があったのである。
──実はこの馬の戦績は、非常に特徴的なものであった。
それは京都競馬場との相性である。2013年のマイルチャンピオンシップに挑むまで京都競馬場の出走回数は8回。そのうち3着以内を外したのはたったの1回のみ。それも4着だけと京都競馬場の申し子と言っても過言ではないくらい好相性を見せていた。さらに距離を問わずに好走しているのも特徴で、1800mから3200mを自在に走っている。そして今回は1600m戦。未知の領域ながらこの馬にはそれを凌駕する「淀適正」と自在性に、ファンの期待が集まった。
前の週に開催されたエリザベス女王杯とは打って変わって、秋晴れの良馬場で行われたマイルチャンピオンシップ。
メンバーを見てもスプリントからマイル戦まで多彩な顔触れがそろっていた。
トーセンラーは京都大賞典を経ての出走と異例ともいえるローテーションながら、2番人気に支持された。前述の京都特性が評価されたのであろう。
ゲートが開きレーススタート。
先手を奪ったのはコパノリチャード。
連れてガルボ、クラレント、ダイワマッジョーレが追走。
武豊騎手とトーセンラーは後方15番手付近から追走、それでも先頭とはあまり差が無く全体的に固まりながら坂を下り4コーナーへ。
コパノリチャードがややリードを広げながら直線に向く。
内を閉めこんでコパノリチャードが先頭。ダイワマッジョーレが外に切り替えて追い出す。連れてクラレント、外からは1番人気ダノンシャークが追い込む。
残り200mを切ってダイワマッジョーレが先頭に替わるや否や、外から矢のように差し込む1頭がいた。
それが、トーセンラーだった。
ダノンシャークの外から持ち前の切れ味を炸裂し、内の各馬をあっという間にねじ伏せた。
デビューから見ても初のマイル戦。しかしその距離条件を克服し、見事得意の舞台で初めてのG1制覇を果たしたのだ。
ゴールインの際、とあるアナウンサーはこう叫んだ。
「トーセンラーだ!初のマイルも関係なし!武豊やった!G1、100勝目!」と。
──そう、この勝利で武豊騎手はG1通算100勝目を達成した。
前の週に勝利していたメイショウマンボ。武幸四郎騎手に次いで2週連続兄弟でのG1制覇を果たすと共に、前人未到の偉業を成し遂げたのだ。そしてトーセンラーもまた、震災を乗り越えて初めてのG1をつかんだ。
人馬の偉業が京都競馬場で2つ花開いた歴史的なレースとなった。
時期的にも多彩な顔触れがそろう、マイルチャンピオンシップ。
次に悲願のタイトルを手にするのは、どの馬か。