元気いっぱい、駆け抜けた - 第90代日本ダービー馬、タスティエーラの引退に寄せて
■8年後の邂逅〜2015年世代の仔達が彩った、2023年クラシック戦線

2023年のクラシック戦線は、2015年のクラシックを戦ったサラブレッドたちの仔達の共演だった。

世代の頂点を決める日本ダービーでは、2015年のダービーで3着に終わったサトノクラウンの仔・タスティエーラが、父の雪辱を果たした。最後の直線、混戦から先に抜け出し先頭に立つと、ソールオリエンスやハーツコンチェルト、ベラジオオペラらの猛追を凌ぎ切り、第90回の節目となった日本ダービー優勝の称号を勝ち取った。

この年は、ダービー以外の二冠も、2015年世代の仔達が栄冠を勝ち取った。

皐月賞は、キタサンブラック(’15菊花賞優勝)の仔、ソールオリエンスが制し、菊花賞は、ドゥラメンテ(’15皐月賞・日本ダービーの二冠に優勝)の仔、ドゥレッツァが制した。

さらに牝馬戦線でも、ドゥラメンテの仔リバティアイランドが牝馬三冠を達成し、なんと同世代の仔達が数年後に同一年のクラシックを席巻するという、稀有な一年となった。

■世代代表として戦い続けた、タスティエーラの足跡

2025年シーズン終了と同時に、タスティエーラは、通算成績15戦4勝、GⅠの勲章としては日本ダービー以外に香港のQEⅡ世カップに優勝し、競走生活を終えた。

2024年の春シーズンにややパフォーマンスを出せなかった時期もあったが、私の中でタスティエーラは「健康優良児」で、常に持てる力を出し切っていたイメージがある。

500kg前後の馬体ははち切れんばかり、パドックや返し馬を見ていると、いつでも「絶好調」、「元気いっぱい」という印象を持っていた。

タスティエーラは、クラシック緒戦の皐月賞(ソールオリエンスの2着)以降、現役を終えるまでの12戦、すべて激戦のGⅠに挑み続けた。いつも元気な姿を我々に見せてくれたが、それは決して簡単なことではなかったはずだ。

激戦つづきの中で死力を振り絞り、無事に競走生活をまっとうするということが、いかに容易でなく、いかに尊いことか。

──日本ダービーやQEⅡ世カップと、タスティエーラが栄冠に輝いた2戦に思いを馳せても、痛切に感じるのである。

ダービーでは、タスティエーラの栄光の陰で、スキルヴィングがレース直後に命を落とした。

そして、QEⅡ世カップでは、前年の天皇賞・秋、香港カップから、3戦続けて共演してきたリバティアイランドが、最後の直線における故障により、命を落としてしまった。

文字通り命がけの競馬の世界において、栄光と悲劇は常に表裏一体である。

だからこそ、命散った馬たちへの思いを胸に、私たちは勝者に惜しみない拍手を送る。

■リバティアイランドと豪華リレー、香港カップの思い出。

2024年12月の香港カップは、私にとって現地観戦したこともあり、忘れ難い思い出だ。

最後の直線では、タスティエーラが早めに先頭に立った。ダービーでも見せた、タスティエーラらしい、けれん見のない戦い方だ。

しかし、直後から香港の最強馬ロマンチックウォリアーが迫る。タスティエーラは懸命な抵抗を見せたが、ロマンチックウォリアーに交わされてしまう。すると、まるでタスティエーラからバトンを託されたかのように、今度はリバティアイランドが外からロマンチックウォリアーに追いすがった。

結果としては、日本ダービー馬と三冠牝馬という豪華なタッグをもってしても、ロマンチックウォリアーの底知れない強さには兜を脱がざるを得なかった。

しかしながら、タスティエーラとリバティアイランドが、息を整えつつ足並みを揃えてスタンドに帰ってくる様子は、とても清々しく、感動的な姿だった。

この思い出があっただけになおのこと、翌年同じ香港の地で起きてしまった事故が痛ましかった。

■次のドラマを待っている。お疲れ様、タスティエーラ

タスティエーラは、競走生活の最後の3戦、2025年の古馬王道路線〜天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念も懸命に駆け抜けた。

天皇賞(秋)では、最後の直線で早めに先頭を奪う、タスティエーラらしい競馬を見せてくれた。ラストランとなった有馬記念での、不利な大外枠から好位置を取りに行ったスタート後のダッシュも強く印象に残る。

最後の3戦、結果こそ伴わなかったが、いずれもタスティエーラらしい素晴らしい走りだったと思う。

競走生活を終えたタスティエーラは、2026年から優駿スタリオンステーションで種牡馬としての第二の馬生を歩み始める。

皐月賞とダービーでワンツーフィニッシュするなど、7度の対決があったソールオリエンスも、同時期にブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬となった。

──今度は、父としての対決が始まる。

種牡馬として生き残りを賭けた戦いも、競走生活と同じく、いやそれ以上に、厳しいものかもしれない。

しかし、そう遠くない未来に、馬柱の父の欄に、「タスティエーラ」の名を見つけられるだろう。ひょっとしたら、その隣には、「ソールオリエンス」の名を見つけることができるかもしれない。

気が早いのだが、タスティエーラやソールオリエンスの仔たちに、血を残すことのできなかったリバティアイランド、スキルヴィングの姿を重ねて応援できる日が来ることを、今から楽しみにしている。

写真:Horse Memorys、すずメ、三原ひろき、@QZygbdf8L1kEB9U

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