[ニュースコラム]“キング姐さん”2026年・冬の足跡。今冬の短期免許来日を振り返って…

今年の冬は格段に寒いような気がする。実際、2月7日の開催は降雪で8レース以降が開催取り止め、翌日8日の開催は火曜日に延期となった。降雪による開催途中での中止は6年ぶり、積雪による完全中止で代替競馬開催は7年ぶりのこと。それだけではない。今年は豪雪地帯での大雪がニュースにもなるなど、寒波が日本列島を襲った。

今年の寒い冬の競馬を盛り上げてくれたのが、やっぱり“キング姐さん”の存在だろう。関東に吹き込む冬将軍とともに、2026年1月24日から2月23日までの1ヶ月間、レイチェル・キング騎手は三度目の短期免許を手に日本へ戻ってきた。彼女の来日は、もはや“遠征”というより“帰還”に近い。初来日から積み重ねてきた経験、そして日本のファンが抱く親しみ。その両方が、“キング姐さん”を冬競馬の風物詩として、温かく迎え入れている。

実際に私の2月の馬券作戦は、「姐さん流し」「姐さん×ルメール二頭軸」「姐さん頭の馬単」・・・。どんなに寒くても、R・キング騎手のクールな表情でパドックを周回する姿を見ると、思わずR・キング騎乗馬番のマークシートを塗りつぶす。パドックでの丁寧な馬の扱い、勝っても負けても変わらない柔らかな笑顔が、私を含めてファンの心を確実に掴んでいるはずだ。

R・キング騎手は今回の来日前、「前回より一つでも多く勝ちたい」と語っていた。

その言葉は派手さこそないが、彼女の本質をよく表している。勝利数の積み上げより、騎乗の質を磨き、馬の力を最大限に引き出すことにこそ価値を置くタイプだ。特に経験の浅い3歳馬や、1勝クラスで停滞している古馬が、彼女の騎乗で好走するケースを今年も数多く目にした。彼女は“結果だけを追わない”姿勢を貫いている。だからこそ「キング姐さんの存在」は、勝利数以上に私たちの記憶に残り、冬の来日を心待ちにしているファンも多い。

例年なら、正月競馬から彼女の姿を見られるのだが、今年は1か月という短い滞在。来日初日の1月24日は、いきなり4勝をマークし、最終週は土日で5勝を上げるなど、通算76戦16勝(勝率21.1%)と今年も大暴れした。第1回府中競馬終了時点での全国リーディングジョッキーランキングは、1か月だけの騎乗ながら8位にランクされている。

R・キング騎手の騎乗は、派手な仕掛けよりも、馬のリズムを尊重する静かなタッチが特徴だ。そのスタイルは、日本の競馬場の芝の質、ペースの緩急、馬場の繊細さと驚くほど相性が良い。今回の滞在でも、勝利数以上に「レースの流れを読む精度」がさらに研ぎ澄まされたシーンを多く見た。

R・キング騎手のJRA通算成績は、2026年第1回府中競馬終了時点で421戦61勝(重賞6勝)。そして、その内訳には“女性騎手として初のGⅠ制覇”という歴史的瞬間が刻まれている。冬の来日時に、2024年、2025年とも2勝ずつ重賞制覇を成し遂げていたが、今年は重賞レースに7戦騎乗で勝つことはできなかった。

特別勝利も2勝に留まったが、今回の来日でのベストレースを挙げるとしたら、私は、1月31日の12レース(4歳以上1勝クラス、芝1800m)を挙げたい。

このレースは、1勝クラスで安定感のあるレースを重ねていた、ルメール騎乗のオルグジェシダが1番人気。R・キング騎乗のアールヴィヴァンが差の無い2番人気で続く。スタートと同時にルメール騎手を徹底マークしたR・キング騎手。中団馬群を進むオルグジェシダの直後の外につけたアールヴィヴァンは、相手はこれ一頭…とばかり、差を保ったまま追走する。そして直線。抜群の脚色で先頭集団にとりつくオルグジェシダから、ワンテンポ遅らせて、R・キング騎手がGOサインを出す。内で粘るエリーナストームを交わしオルグジェシダが先頭に立ったその外から、スピードに乗ったアールヴィヴァンが襲い掛かった。

ゴール手前では1/2馬身の差をつけ、R・キング騎乗のアールヴィヴァンが先頭ゴールしていた。

ゴール板を通過し、小さくガッツポーズをしてみせたR・キング騎手の姿に、会心のレースだったことが見受けられた。

今回の1ヶ月の騎乗は、派手な数字こそ残らなかった。しかし、R・キング騎手の騎乗には「日本でのキャリアを長く続けるための助走」のような落ち着きがあった。

彼女はまだ35歳。オーストラリアでも日本でも、キャリアの円熟期に差し掛かっている。

今回の1か月間の短期免許来日は、「勝ち星を積むための遠征」ではなく、「日本の競馬に溶け込み、その存在を確立させるための時間」だったのかもしれない。

R・キング騎手は、派手な言葉を使わない。しかし、彼女の騎乗は雄弁だ。馬の息遣いに寄り添い、レースの流れに身を委ね、勝利の瞬間には控えめに微笑む。

私たちは彼女の「カッコいい騎乗」に魅了され、冬の中山、府中で欠かせない存在に彼女がなっていることに気づく。

“キング姐さん”が短期騎乗を終えた翌日、東京には「春一番」が吹いた。

姐さんがオーストラリアへ帰ると、冬将軍が去り、競馬場に春がやって来る…。

いつの間にか、こんな競馬サイクルが定着しはじめた──。

Photo by I.Natsume

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