[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]アメリカンファラオ(シーズン2-14)

アメリカンファラオが、2026年の1シーズン限定で、静内種馬場にて供用されることが日本軽種馬協会より発表されました。この発表の前に、アメリカンファラオに関するポストをXでチラホラ見ていましたが、まさか日本で種牡馬入りするとは夢にも思っていませんでした。

軽種馬協会のHPを見ると公式なリリースもされており、本当に来るのだというのが正直な感想です。肝心の種付け料は400万円。僕にとっては大金ですが、米3冠馬の種付け料としてはお手頃なのではないでしょうか。産駒の日本での活躍は目覚ましく、その1頭であるカフェファラオはすでに種牡馬入り、人気を博しています。本家のアメリカンファラオが日本にやってくるのです。

海外の歴代最強馬が種牡馬として日本に輸入された例としては、1991年に導入されたダンシングブレーヴ以来の衝撃になるのではないでしょうか。当時、僕は競馬を始めたばかりでしたから、生産者たちの反応は全く記憶にありませんが、本当に来るのだと誰もが思ったはずです。

ダンシングブレーヴはマリー病を患っていましたので、1992年は50頭、93年は65頭、94年は65頭、95年は35頭、96年はなんと20頭、97年は40頭、98年は50頭、99年は50頭にしか種付けすることができず、種牡馬生活8年間でわずか325頭に種付けしたのみ。

そのうち219頭がレースに出走し、その中からキョウエイマーチやキングヘイロー、テイエムオーシャン、エリモシックなどのG1馬が誕生しました。そこからさらに血がつながって、日本競馬史上最強馬の1頭イクイノックスやブリーダーズカップディスタフを勝ったマルシュロレーヌらが誕生しており、ダンシングブレーヴが日本に来ていなければ、彼ら彼女たちはいなかったかもしれません。

アメリカンファラオは1年間限定の供用ですが、おそらく200頭前後の子どもたちが血を継ぐことになるはずです。その中から何頭のG1馬が出て、その先の未来の名馬へとどれほどの影響を与えるのでしょうか。

アメリカンファラオ導入の壮大さに想いを馳せつつ、僕は自分の繁殖牝馬であるスパツィアーレにとっての逆転チャンスかもしれないと考え始めました。もしアメリカンファラオの仔を受胎しているとなれば、スパツィアーレを繁殖セールで売ることもできるでしょうし、自分で産駒を取ってもセリで売れやすいはず。もちろん、アメリカンファラオの力を借りて産駒が走れば、スパツィアーレの繁殖としての価値も高まります。受胎しにくくて、産駒もまだ結果が出ていないスパツィアーレにとって、アメリカンファラオは千載一遇の革命チャンスかもしれません。

いずれにしても、スパツィアーレには来年、何としてでも受胎してもらわなければ困ります。僕のためだけではなく、スパツィアーレ自身のためにも、どんな手を使っても受胎させなければいけません。幸いにもスパツィアーレは今年空胎のため、2月10日の種付け解禁日から、発情次第では種付けに向かうことができます。

そんな僕の思いの一部始終を慈さんに電話で伝えると、「それはいいかもしれません。日本軽種馬協会からのリリースによると、種付け日の2日前に予約をして、その状況に応じて種付けできるかどうか確定するというシステムらしいです。19歳以上、2年連続不受胎、分娩後初回発情の繁殖牝馬はお断りされることがあるそうですね」と詳しい情報を教えてくれました。スパツィアーレは上の3つには当てはまりませんので、当日の枠に運良く空きがあれば種付けしてもらうことができるのではないでしょうか。「運次第ですね」と慈さんは言います。

それからPG(馬の繁殖管理において黄体を退行させ、発情を誘起・同期化するために使用されるホルモン剤)の話になりました。PGを打つことで、卵が大きくなり受胎しやすくなりますし、また黄体期を短縮させ、約1週間、排卵を早めることもできます(ショートサイクル法)。サラブレッドの発情周期は約4週間ですが、ショートサイクル法を使うことで次の排卵を3週間後に迎えることができます。たとえば、2月から6月までの繁殖期間があるとして、4週間に1度のサイクルで種付けをすると約6回が上限ですが、ショートサイクル法を使うと8回まで種付けが可能になります。スパツィアーレのように受胎しにくい繁殖牝馬にとって、この2回の差は大きいです。

ちなみに、アメリカンファラオの相手の繁殖牝馬として、分娩後初回発情(イチハツ)が敬遠されているのは、単にイチハツは受胎率が良くないからだそうです。そうした研究結果もあり、イチハツ<ショートサイクル法≦2回目発情の順で受胎率が良いため、最近はイチハツを飛ばしてPGを打って約3週間後に種付け、もしくは2回目の発情を待って約4週間後に種付けをする生産者が増えてきているのです。受胎しやすく、種付け回数も多くなるなんて、PGは良いことばかりに思えます。

「良いことばかりに見えるけど、何か副作用があるのでしょうか?」と慈さんに聞いてみると、「いや、そんなことはないと思いますよ。昔ながらの獣医さんは自然な周期を好むのでPGを使わない人もいますが、某大手牧場なんかはバンバン使っています。繁殖牝馬やその卵の状況に応じてPGを使ったり、使わなかったりする獣医さんが多いのではないでしょうか」と意外な答えが返ってきました。

というのも、僕の繁殖牝馬を担当してくれている獣医さんは昔ながらのタイプであり、PGを打ったと聞いたことはなかったからです。僕はそれが自然な形だと思っていましたが、某大手牧場は毎回確実に打っているそうですし、他の獣医師さんは繁殖牝馬の状況に応じて使い分けているということなのです。スパツィアーレは自然に任せていたから、碧雲牧場に来てからは隔年でしか産駒が取れていないのかもしれません。僕自身はできるだけ薬など飲まない自然派ですが、さすがにサラブレッドの生産に関しては、ある程度の人為的な操作は必要かなと考えます。そもそも、サラブレッドの生産自体が極めて人為的なものだからです。

「スパツィアーレに関しては、揖斐先生にお願いしたいです」と告げました。ダートムーアは碧雲牧場に来てから毎年、PGを打たずとも確実に受胎していますので、あくまでも相性の問題であって、スパツィアーレが難しい繁殖牝馬というだけの話です。もっと早くに手を変えておけば良かった、遅きに失した感は否めませんが、まだ間に合うと僕は信じています。ここから手を尽くしていけば、スパツィアーレを手放さずにおいて本当に良かった、と思える日がいつか来るはずです。 来年は揖斐先生にPGを打ってもらって、2月から真っ先にアメリカンファラオに向かうイメージが湧いてきました。運が良ければ、アメリカンファラオの枠が空いていて、受胎してくれるのではないでしょうか。とはいっても、アメリカンファラオは時の運ですから、入れなかった場合も考えておかなければいけませんね。

(次回へ続く→)

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