
ジャスティンパレスが現役生活の終盤を迎えたころ、私は「次こそ来る」と宣言してジャスティンパレスから購入しては、馬券を外していた。そんな私を見かねた兄が、こう言った。
「ジャスティンパレスは強いよ。毎回いい脚を使う。でも、レースの決着がついてから突っ込んでくるから間に合わんやん。いつも期待だけさせる馬」
私は兄の語彙力の高さに感心すると同時に、ジャスティンパレスとは、なんとままならない馬なのかと、ますます彼を気にいった。
ジャスティンパレス。中長距離のGⅠレースの出走表に、当たり前のようにその名前があった。実際、2021年のホープフルSから25年の有馬記念まで5シーズンにわたって記録した国内GⅠへの出走回数は19回にのぼる。これは決して簡単なことではない。
競馬ファンにとって身近な存在だったジャスティンパレスは、実をいうと、王族のような超良血馬でもある。19年、彼はノーザンファームで生まれた。父はディープインパクト、母パレスルーマーも重賞馬を輩出した良血の繁殖牝馬で、セレクトセールでは2億900万円(税込)で落札された。管理を任された杉山晴紀調教師も、プレッシャーが大きかったとのちに語っている。
ただ、当時のジャスティンパレスは、見た目は特別な馬というわけではなかった。体は未完成で、非力さもあった。レースを使うことで馬体に影響が出る心配もあり、陣営はじっくりと成長を待った。その慎重な育成は、3歳の秋を迎えるころに実り始める。
秋緒戦の神戸新聞杯を3.1/2馬身差で圧勝し、待望の重賞初制覇。その後も菊花賞3着、翌年の阪神大賞典1着と、中長距離馬として着実に実績を積んでいった。
そして天皇賞(春)。ここまで積み重ねてきた経験と成長が結実し、ジャスティンパレスは晴れてGⅠ馬となった。

しかし、そのあとも簡単にはGⅠ2勝目へ届かなかった。そこに立ちはだかったのが、同世代、同じ青鹿毛の怪物イクイノックスだった。
23年の天皇賞(秋)。ジャスティンパレスはメンバー最速の上がり3ハロン33.7秒を記録し、並外れた走りで追い込んだ。だが、そのはるか前、イクイノックスは直線でさらに加速し、2馬身半差で先にゴールを切った。勝ちタイム1分55秒2は、当時の芝2000mの世界最速タイムと報じられている。

そしてイクイノックスが去ったのち、競馬界を席巻した同世代のドウデュースもまた、怪物だった。
翌24年の天皇賞(秋)。先行勢が粘る展開の中、ジャスティンパレスは後方から4着まで脚を伸ばしたが、ドウデュースは上がり3ハロン32.5秒という驚異的な末脚で勝利する。
勝つ者と負ける者が明確に映し出されていく。ついに2頭には先着できないまま、怪物たちは先にターフを去ってしまった。ならば、ここからようやくジャスティンパレスの時代が来るのかと思ったが、そうはいかない。そのころにはクロワデュノール、マスカレードボール、ミュージアムマイルら新世代が、すでに産声をあげていたからだ。
6歳となった25年。大阪杯と天皇賞(春)では掲示板に届かず、年齢やピークアウトを指摘する声も聞かれるようになってくると、とうとう宝塚記念では10番人気まで下降。それでも、メイショウタバル、ベラジオオペラに続く3着に食い込んだ。
冒頭でジャスティンパレスを「期待だけさせる馬」と評していた兄でさえ、レースの終わりにはこう言った。「ちょっと感動した。あんな強いんや」と。
そして秋風が吹き、ジャスティンパレスにとって3度目の天皇賞(秋)が訪れた。
私は、天皇賞(秋)を振り返るのが好きである。ジャスティンパレスの確かな実力を感じるからである。
2023年、4歳。イクイノックスの走りがすべてを惹きつける中で、後方2番手から大外を回り、2着まで駆け抜けたこと。イクイノックスのタイムにはかなわなかったが、従来のコースレコードを上回る1分55秒6で走破したこと。
2024年、5歳。ドウデュースの差しが芸術のように美しく決まった中で、彼は馬群を割って4着まで脚を伸ばしたこと。
そしてこの2025年、6歳。
ミュージアムマイルとマスカレードボールという3歳馬2頭が、世代の強さを見せつけた。だが、ジャスティンパレスもまた、進路がなかなか開かないなかで活路を見いだし、西日に向かって猛烈に伸び、3着まで駆け上がった。

競馬では、1着こそが強さの証明なのかもしれない。しかし、こうした走りを見せられると、次こそはきっと来るのだと信じたくなる。
勝ち切れないかもしれないと思いながらも、次こそはと期待して馬券を買ってしまう。そんなファン心理は「ジャスティンパレス依存症」というミームまで生んだ。ジャパンC、有馬記念でも、ともに5番人気に支持された。そして、有馬記念7着をもって現役を引退した。
天皇賞(春)以降、勝利することはできなかった。それでも、GⅠ以外では4戦4勝。競走馬戦績を振り返ると24戦中17回も掲示板に入っている。スピードもパワーも、そして丈夫さも兼ね備えていた。それでも、GⅠ2勝目には最後まであと一歩届かなかった。
もちろん、皆が皆「ジャスティンパレス依存症」ではないので、単純に馬券が当たらず腹立たしかった人もいるだろう。けれど、それを深掘りする必要はない。
SNSでジャスティンパレスのことを検索すると、私の目に入ったのは「たくさんの感動をありがとう」「応援できて幸せ」「多くのGⅠレースに出て盛り上げてくれたことに感謝」といった優しい言葉ばかりだった。ジャスティンパレスは、ただGⅠに顔を出し続けた馬ではない。彼の走りは人の心を動かした。そして、間違いなく愛されていた。

写真:うみ、すずメ、ぼん(@Jordan_Jorvon)、水面

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