[インタビュー]最強の1勝馬・エタリオウが、ヴェルサイユFに来た理由。

神戸新聞杯で2着、菊花賞で2着、日経賞で2着。勝てそうで、勝てない。
通算戦績は17戦1勝、そのうち2着は7回──。
惜敗で積み上げた賞金額1億9570万円は、JRAデビューの1勝馬として史上最高額。
鋭い末脚・豊富なスタミナと確固たる実力を持ちながらなかなか勝ち切れず「最強の1勝馬」と呼ばれたエタリオウが、2020年末に引退した。

引退後のエタリオウは、国内トップクラスの引退名馬在籍牧場である『ヴェルサイユリゾートファーム(以下、ヴェルサイユF)』で過ごすことに。
一時期は「エタリオウ、乗馬に」という報道もあったが、その後「種牡馬入りへ」と正式発表され、多くのファンが沸いた。同時に、引退馬が過ごす牧場での種牡馬生活という異例の進路に、驚いた人も多かったことだろう。
今回はそのヴェルサイユリゾートファームの岩崎崇文さんに『種牡馬エタリオウ』について伺って来た。

1頭の馬が繋いだ縁。

「オーナーから馬房の空き具合については聞かれていましたが……エタリオウ引退を知ったのは皆さん同様、メディア報道でした。そのニュースを読みながら『あれ、もしかして先週の問い合わせってエタリオウのことかも……』と考えていましたが、その通りでしたね」

ヴェルサイユFと、エタリオウのオーナー『(株)Gリビエール・レーシング』代表・森岡幸人さんの縁は、森岡さんが個人所有していた競走馬、グランドリビエールの引退後から始まる。

フランス語で『大河』を意味するグランドリビエールは中央・地方で通算28戦2勝という戦績で引退すると、ヴェルサイユFに預託されることになる。グランドリビエールは森岡さんにとって初めての所有馬。のちに『Gリビエール・レーシング』の由来になったほど思い入れのある馬の存在が、ヴェルサイユFとエタリオウを繋ぐ礎となった。

2020年冬、森岡さんから「綺麗な馬房って空いている?」という連絡をもらった岩崎さん。
たまたま空き馬房があることを伝えたが、どの馬に馬房を使わせたいのかは知らなかった。
しかしその翌週に、上述した『エタリオウ、引退』の報。当然のように、ピンときた。

「オーナーから正式な打診があった際には、特に悩みませんでした。ついこの間まで現役だった馬なので元気が有り余っているだろうという点が懸念されましたが、ウチにはローズキングダムというヤンチャな馬をお世話している実績がありましたから」

そうして、「最強の1勝馬」エタリオウの、第二の馬生を過ごす地が決まった。

グランドリビエール ヴェルサイユFにて

そして、種牡馬エタリオウ誕生。

そもそもエタリオウの引退は、オーナーや陣営にとっても急なものだった。
2020年の5歳シーズンを、日経賞6着・天皇賞(春)10着と敗れ、秋に向けて復調を目指していたエタリオウ。本来であれば秋冬の競馬を使ってから引退するつもりだった。
しかしその後、脚の腫れなどが見られたため、馬の体調を優先して引退という判断になった。

「エタリオウ引退後、オーナーがエタリオウの引退後について考えた時『エタリオウの産駒を見てみたい』という思いに駆られたそうです。乗馬から種牡馬へ、という決断に踏み切ったのも、エタリオウへの愛ゆえでしょう」

エタリオウ引退が報道された際、オーナーである森岡さんのもとには大量の連絡が来たという。
大半は、エタリオウのその後を危惧するもの。愛された馬だからこそ、心配の声も多くあがったのだろう。

「オーナーからは、エタリオウがヴェルサイユFに来ること・種牡馬になることは好きな時に発表でもいいよと言われていたのですが、オーナーが連絡を受けるご負担やファンの心情なども配慮して、急遽、年末に発表しました」

ヴェルサイユFの公式SNSアカウントでエタリオウ種牡馬入りを発表すると、たちまち大反響。数年後デビューを迎えるであろうエタリオウ産駒に思いを馳せるファンも多かった。

岩崎さん自身も、エタリオウが種牡馬となることについて「(現役時代は)惜しい競馬をする馬だなーというイメージです。ただ実力も十分ですし、血統も良いですから」と期待を寄せる。
実際に会ってみても、画面越しに受けていた印象と変わらなかった。

「やっぱりステイゴールドの血が流れているなぁ、という印象ですね。性格は予想通りと言いますか……(笑) 他の馬を見ると、牡馬・牝馬かかわらず興奮状態になるので、その辺りには気を配っていますね。馬体はさすが一流馬といった感じで、まだまだ現役でもやれそうな状態です」

引退する際には脚の腫れがあったエタリオウだが、今では放牧など軽い運動をする分には問題ない状態に回復している。

引退後のエタリオウにかかる期待。

ヴェルサイユFといえば、言わずと知れた引退馬の集う場所。タイキシャトルやタニノギムレット、ヒルノダムール、メイショウドトウらが過ごしてることでご存知の方も多いだろう。
さらにヴェルサイユFは引退馬の預託以外に生産も行なっていて、さまざまなノウハウを持つ牧場でもある。

しかし一方で、ヴェルサイユFではこれまで種牡馬を所有したことがなく、現状は手探りなことも多い。

「基本的には他の馬と変わらず接していますが、まだまだ未知の領域ではありますね。まず気にしているのは、食事の量です。種牡馬を世話している同業者に色々聞きながらやっています。あとは種付けする場所ですが……屋内馬場があるので、そこかなぁとは思っていますが、まだ検討中です」

他の引退馬と異なる部分、同じ部分を考えながら接していく必要がありそうだ。

人気種牡馬ステイゴールドの血が流れているだけに、種牡馬としての活躍も期待されるどころだが、大々的な宣伝などは予定していない。

「オーナーは、ほとんどプライベート種牡馬のように考えているようです。なので種付け数も、自ずと10頭前後なのかなぁとイメージしています。ウチの生産した牝馬も種付けしたら面白いかなとは思っています。ただ、オーナーが馬の体調を最優先に考えている方なので、あとは体調と相談ですね。少なくともバンバン牝馬を集めてエタリオウを疲れさせてしまう、というようなことは考えていません」

あくまで馬の体調優先なのは、ヴェルサイユFの信念にも繋がるところ。それでも、エタリオウの産駒がどんな走りを見せてくれるのかは、ファンとしては楽しみなところである。

さらに、SNSでエタリオウのことを取り上げた時の反響の大きさに、岩崎さんは「さすがついこの間まで現役馬だっただけのことはあるな」と、舌を巻く。

「やはり大人気ですね。種牡馬としても楽しみですが、それ以上に競馬ファンへ『引退馬』という概念を浸透させる上での活躍も期待しています! 近年は引退馬支援という考え方も広まってきていますが、そこに若いエタリオウが加わることで、新しい層にも呼びかけられればと思っています」

競走馬の馬生は、現役だけではない。
エタリオウの過ごす日々そのものが、引退馬の存在をアピールするものへと繋がっていく。
「最強の1勝馬」の次なる活躍が期待される。

そんなエタリオウは今、ヴェルサイユFでのんびりとした日々を過ごしている。
この縁を繋ぐきっかけとなった、グランドリビエールらと共に。

写真:ヴェルサイユリゾートファーム/ヴェルサイユファーム、Horse Memorys

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