桶狭間、雨中決戦。猛者たちの意地、飛び込む新星
今から459年前の1560(永禄3)年6月。
尾張の織田信長が海道一の弓取りといわれた今川義元を破り、戦国下剋上に名乗りをあげた、桶狭間の戦いが起こった。
谷あいで休んでいた今川本隊に崖から馬を駆って一気に攻め立てたなど伝説めいた話が多いが、実際には事前に情報戦を仕掛け今川義元の居所を的確に掴み、正面から奇襲攻撃を決行、大軍が混乱する間に大将である今川義元を討ちとったというのが真説とされる。今川軍の油断を誘ったのは折からの大雨だったといわれている。
それから459年が経過した桶狭間の電撃戦、2019年CBC賞もまた大雨に見舞われた。
サマースプリントシリーズは開幕戦の函館スプリントSが薬物騒動で7頭立て、本州シリーズ開幕のCBC賞が停滞する梅雨前線の影響による大雨のなか、不良馬場で行われ、2戦続けてすっきりしない幕開けとなった。
春の高松宮記念の2、3着セイウンコウセイ、ショウナンアンセム、3歳51キロで出走するアウィルアウェイらを差し置いて1番人気に支持されたのはレッドアンシェル。1200m戦初出走だった彦根Sを快勝した勢いをかっての参戦だ。
短距離重賞の常連ビップライブリー、中京3勝のコース巧者グランドボヌール、前年のサマーチャンピオン・アレスバローズ、パラダイスSから連闘策で挑むキョウワゼノビアなどハンデ戦らしく癖のあるメンバーが出揃った。
不良まで馬場を悪化させた雨は向正面を暗く煙らせ、スターティングゲートから飛び出す13頭、その馬上の騎手たちの色とりどりの勝負服をかえって鮮やかに映し出す。
先行争いを制したのはトップハンデ58キロを背負うセイウンコウセイだった。高松宮記念を制した実績馬は名うての道悪巧者であり、怯むところはない。中京巧者のグランドボヌールが内枠を利して2番手へ。外から仕掛け気味にラインスピリットが並ぶ。その直後のインにショウナンアンセム、外からビップライブリーが続く。この直後は馬群を形成、インにコパノディール、レッドアンシェル、外から掛かり気味にメイショウケイメイが押しあげる。後方のインにアレスバローズ、ラベンダーヴァレイが並び、キョウワゼノビア、タマモブリリアン、アウィルアウェイと続いてく。
バシャバシャと音が聞こえるような水しぶきをあげながら馬群は3角から4角にかかる。前半3ハロンは34秒9。比較は難しいが、セイウンコウセイのマイペースは激流になる必要はなかった。あくまで自分のペースを刻むセイウンコウセイ。4角で外からビップライブリー、レッドアンシェルが一気に差を詰め、アレスバローズはまっすぐインに突っ込んでいく。
そして、最後の直線。セイウンコウセイが中京の道悪で止まるわけはなく、先頭のまま粘り強く走る。ビップライブリーの外からレッドアンシェルが重い馬場を苦にせずに力強く駆け、セイウンコウセイを交わした。4角で若干外に振られたセイウンコウセイが空けたインを見逃さなかったのがアレスバローズ。最内からセイウンコウセイを交わしにかかる。大外からはキョウワゼノビアが一気に前との差をつめる。
これらの攻防がもつれるようにゴール板へ迫る。先頭に立ったレッドアンシェルがインと外の攻防を制してゴール。2着は最内から最後に伸びたアレスバローズ。セイウンコウセイは3着に粘った。勝ち時計1分9秒8(不良)。
各馬短評
1着レッドアンシェル(1番人気)
昨年の6月は重馬場の阪神1800mを走っていたが、秋には1400m戦にシフト、3勝クラス(旧1600万下)を勝ち抜けずにいたが、彦根Sで初の1200m戦出走。そこで眠っていたスプリンターとしての資質が開花した。マイル重賞では結果が出せなかった馬がスプリント重賞で一発回答を果たしたわけで、これは秋が楽しみになる新星登場といっていい。
2着アレスバローズ(7番人気)
昨年このレースと北九州記念を制し、サマーチャンピオンに輝いた馬が7番人気とは意外だった。道悪適性への疑問などが要因だろうが、さすがにサマーチャンピオンだけあり、今年もきっちり好走した。ただし、今日は道中からインにこだわった騎乗で、直線入り口でセイウンコウセイが空けてくれたラチ沿いに飛び込んでのもので、川田将雅騎手も自信満々というわけではなかった。しかし、この走りで再浮上する可能性は高く、2年連続のサマーチャンピオンも十分狙えるだけの力は示した。
3着セイウンコウセイ(2番人気)
雨の桶狭間はかつては織田信長だが、今はこのセイウンコウセイのものといってもいい。58キロを背負い、この馬場で先行、4角出口でややヨレて空けてしまったインをアレスバローズにすくわれなければ、2着だって十分あった内容。春の高松宮記念も2着とまだまだ力は衰えてはいない。
総評
前後半34秒9-34秒9。不良馬場で厳しい競馬ではあったが、ペースはキレイな平均ペース。
古馬短距離重賞は下級条件戦とは違い、オーバーペースにはならない。歴戦の古馬たちは自らが走りやすいペースを知っているからだ。レースとしてはどの馬も力を出せるラップ構成だっただけに不良馬場への巧拙を除けば、能力比較として参考になる一戦だった。それでも、早めに外に出したレッドアンシェルの福永祐一騎手でさえ、前がよく見えなかったとコメントしているように厳しい条件下ではあった。外の福永騎手が見えないと感じたならば、最内を突いたアレスバローズの川田騎手はさらに厳しかっただろう。
それでも、一瞬空いたラチ沿いを見逃さず、思いっきり馬を追いたてた。桶狭間を戦った織田軍同様に騎手たちの勇敢さも感じさせるレースだった。
写真:のだまハイ