ドキュメンタリー「それぞれのダービー」

「去年の今頃は、よくわからずに見ていましたね(笑)」

そう語るのは、競馬歴2年目のSさん。

2015年のダービーで、ドゥラメンテの圧勝劇に釘付けになったという。

「鳥肌が立ちました。走る前はどの馬もかわいいな、くらいに思っていたんですが、終わってみると他と全然違って見えて」

そんな彼女は、去年と同様にテレビ観戦をすると言う。

「ダービーで競馬にハマって、競馬場にも足を運んでいます。でもダービーは、あえて家でのんびりと見ようかと思っています。去年と今年とで、かなり競馬の見方も変わったので、その辺りを比較したいですね!」との事だ。

今年はドゥラメンテみたいな馬が出てきそうですか?との質問には「どうでしょう、ちょっと違うのでは」という意見が返ってきた。

「マカヒキやサトノダイヤモンド、ディーマジェスティみたいに、強い馬がたくさんいますからね。一頭が目立つのではなくて、駆け引きやレベルの高さみたいな、洗練された戦いが楽しめそうだと思っています」

そう語るSさんの本命馬は、リオンディーズだ。「去年の朝日FSが忘れられなくて。復活劇が見られたら、それこそ鳥肌ですね」。

大好きなビールと生ハムを用意しながら、テレビの前で運命の瞬間を待つ。それもまたダービーの醍醐味が味わえるひとときだろう。


「土曜日の23時に羽田に着きます」

私の問いにそう答えたUさんは、札幌在住の競馬ファンだ。

2014年からダービーの現地観戦を続けているとの事だ。理由は写真の撮影だと言う。

「人が多くて身動きもとりにくいし写真もあまり良いのが撮れないとわかってるんですが、やっぱり行ってしまいます」

そんな情熱がわいてくるのは、やはりダービーならではの魅力・引力だろう。

馬券はほぼ買わない主義。

JRAには貢献できていませんが……とUさんは笑った。

「現地に行けない人などに、Twitterを通じて少しでも雰囲気を感じてもらえたらと思って写真をあげています」

1番撮りたい馬はマカヒキだ。仕草や表情に注目しながらファインダーを覗き込む。

そんなUさんのお目当ての撮影スポットは、1コーナー側だと言う。もしかしたらゴール後のガッツポーズが撮れるかもしれない、そう期待しながらファンファーレが鳴るのを待つ。

帰りの飛行機は19時半。

観光もせずに、札幌への帰路につく。

きっとそのカメラには、たくさんの感動的なシーンが詰まっている事だろう。


西門2階の通路。そこで寝袋を敷いて寝泊りをしながら当日の朝を待つのはKさん。友人らとシフトを組みながら、一週間並び続けるという。

「ご飯に関しては駅前に餃子の王将、ドトール、セブンイレブンなどがあるのでそこで調達をします。トイレは通路下に一つだけあるので、ご飯食べた後の歯磨きや身支度もトイレでやります」

そこまでして、彼が獲得したい位置とは。

「ゴール前11番12番柱の灰色の席ですね。みんなが立っても4コーナーからよく見えるので、直線全てが見渡せるんです」

その席は、ダービーの時だと1陣に入らないと取れない席だと言う。

府中の長い直線。今年の最終直線はいつも以上に盛り上がるだろう。

一昨年のダービーから泊まりでの観戦をしているとの事。きっと、それだけの価値が十分にあるからこそ続いているのだと思う。激動の2分半に向けて、着々と準備を進める。

「3690人」

今年のダービーで開門の前で待っていた人々の人数だ。それぞれが、とても大きな思いを胸に、開門の瞬間を待つ。


こんなにも夢中に、こんなにも真剣に。我々をアツくさせる。

ダービーの魅力は語り尽くせない。

写真:ウマフリ編集部

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