2008年、惜しまれつつも廃止となった旭川競馬場。ただ、競馬場は廃止されても、同じホッカイドウ競馬の門別競馬場で、そのまま引き継がれて行なわれているレースがある。

その一つが、ブリーダーズゴールドカップ。旭川時代は、長丁場の2300mという過酷な条件で、格付けもGⅡだったこのレース。同場廃止後の2009年から、開催地を門別競馬場に移し、5年後にはGⅢとなったものの牝馬限定戦へ様変わり。以後、女同士の熱き闘いが演じられている。

牝馬限定戦となった2014年。地元ホッカイドウ競馬から7頭、岩手から2頭、そしてJRAから5頭の、計14頭が北の大地に集結した。

人気はJRA勢に集中。中でも単勝オッズ1.1倍という断然の支持を集めたのがワイルドフラッパーだった。この年、ともに牝馬限定の交流重賞、エンプレス杯とマリーンカップを連勝すると、牡馬混合の平安ステークスでも3着。その実績からして、再度の牝馬限定戦では、負けることは考えられないという見方が大半だった。

2番人気に続いたのはサンビスタ。名門グランド牧場の生産馬で、天皇賞馬の父スズカマンボと、フェアリーステークスを勝った母ホワイトカーニバルも同牧場の生産馬。さらには、管理する角居勝彦調教師も、以前同牧場での勤務経験があるという縁で繋がっていた。実績面では、条件クラスを戦いながらコツコツと力をつけ、5歳となったこの年の2月にオープンへと昇級。その後も、3着、2着と安定した成績を残し、この舞台で重賞初制覇を狙っていた。

3番人気はケイティバローズ。前走、1000万クラス(現・2勝クラス)の檜山特別を勝利し2連勝。格上挑戦ながら、唯一の4歳馬で勢いは十分。単勝10.1倍と、上位2頭からはやや離れた評価になっていたものの、一発を狙っていた。

以下、マーチャンテイマー、リアライズキボンヌのJRA勢が続いたものの、3頭とは大きく離れた評価。一方、地方所属馬では、6番人気のココロバでも単勝200倍を超えており、苦戦が予想されていた。


カクテル光線に照らされた長い直線の一番奥。そのスタート位置でゲートが開くと、外のマーチャンテイマーとサンビスタが好スタート。そのまま、ともに馬場の内側へ寄せられながら、先行争いが演じられた。

内枠を利して、スピードの違いで逃げたのはワイルドフラッパー。それに、マーチャンテイマーが続き、リアライズキボンヌを間において、プリュムローズとココロバの地元勢も先行。

それら3頭の外からサンビスタがポジションを上げ、2コーナーでは単独4番手。さらに、向正面に入るところで、気合いをつけられながらケイティバローズが5番手に上がり、結果、中間点に差し掛かる前から、JRA勢が先団に固まる隊列となった。

そしてそのまま、レースは3コーナー手前から一気に動いた。まず、逃げるワイルドフラッパーがペースを上げると、ケイティバローズ、マーチャンテイマー、サンビスタの3頭がそれを追う。この時、ワイルドフラッパーは内1頭分を開けてコーナーを回ったが、イン突きを得意とする岩田康誠騎手に導かれたサンビスタが、上手くそのスペースに進入。手応えが楽なまま、最短コースを通ることに成功すると、早くも、4コーナーではワイルドフラッパーと一騎打ちの展開となった。

迎えた直線。コーナリングの差で、サンビスタがわずかにリード。そこから、ワイルドフラッパーが盛り返し、2頭の激しい叩き合いが展開されるかに思われたが、サンビスタがわずかずつ、しかし確実にその差を広げていく。

残り100mでリードは2馬身半となり、焦点は、盛り返してきたマーチャンテイマーと、粘る大本命馬ワイルドフラッパーとの2着争いへ。最終的には、ワイルドフラッパーがなんとか凌いだものの、その3馬身前では、サンビスタが圧勝のゴールイン。重賞初制覇を飾るとともに、見事、リニューアル初年度の女王に輝いたのだった。


その後、次走のレディスプレリュードでワイルドフラッパーに敗れたサンビスタは、続くJBCレディスクラシックで再び逆襲に成功。ついにGⅠ級のレースを制し、ダート界の「牝馬ナンバーワン」の称号を手にした。

しかし、本当の覚醒を迎えたのは、翌6歳シーズンのこと。

サンビスタは、ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンが所有する、いわゆるクラブ馬。本来であれば、クラブの規定で引退となるはずだったが、協議の結果、引退が先伸ばしにされることになった。

馬も、それに応えるように春に交流重賞を2勝。その後、秋はレディスプレリュードに勝利するも、JBCレディスクラシックは2着。残念ながら連覇はならなかったが、その次走がすごかった。

12月。かしわ記念以来、7ヶ月ぶりに牡馬混合戦のチャンピオンズカップに出走したサンビスタは、16頭中12番人気の低評価だった。

しかし、初コンビのミルコ・デムーロ騎手とともに、中京の直線を力強く抜け出すと、前年覇者のホッコータルマエやコパノリッキーなど、GⅠ馬8頭を含む豪華メンバーをまとめて下し、見事1着でゴールイン。牝馬ナンバーワンの座についた翌年、今度は日本ダート界の頂点を極めたのである。

数ある重賞を制してきたミルコ・デムーロ騎手にとって、これが意外にもダート重賞初勝利。そして、牝馬でのGⅠ勝利はこれが初めてだった。さらには、JRAのダートGⅠを牝馬が制すること自体、2021年現在でも、この時のサンビスタが唯一という、超のつく快挙だったのだ。

名門牧場の結晶のような馬が、条件戦からコツコツと力をつけ、本格化を機に大きく飛躍。やがて、中央のGⅠで牡馬を撃破するという、まさにシンデレラストーリー。

そのきっかけとなったのは、馬産地のど真ん中で行なわれる、リニューアルしたばかりの重賞だった。

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