17戦7勝──そのうち新馬戦を除く6勝が左回りのダート戦、右回りは芝ダート含め僅か3回の出走で現役生活を終えた"砂上のサウスポー"カフェファラオ。
7勝のうちG1級競走は連覇したフェブラリーステークスにマイルチャンピオンシップ南部杯を加えた計3勝。中京1900mのG3シリウスステークスでも勝鞍はあるが、得意条件であれば無類の強さを発揮する反面、条件から外れると馬券内にも来ない極端な戦績であった。
父は米国三冠馬アメリカンファラオ、母はG2勝ち馬Mary's Follies。
血統表にはダートの本場アメリカで活躍した血がずらりと並び、5代血統表の奥にはBuckpasser、Northern Dancerのクロスも見える(5代血統表ではMr. Prospectorは5×4だが、5代父FappianoもMr. Prospector産駒のため、6×5×4の血を持つ)。
カフェファラオはアメリカンファラオの初年度産駒として美浦の堀宜行厩舎に入厩、スピード全開の競走馬生は、冬の中山競馬場から始まった。
2歳~3歳 連勝と挫折、いずれも味わった若馬時代
カフェファラオの新馬戦は2歳12月の中山1800m戦、鞍上はムーア騎手が務めた。
スタートを出るとすぐにムーア騎手に押されて1コーナーまでにハナを取り切ると、先行馬を引き連れて1000mを64秒6で通過。他の馬たちはジョッキーが促してカフェファラオを追いかけるが、最序盤でスピードに乗ったカフェファラオは馬なりで3コーナーまで進む。
後続の馬たちが追ってくる中、ムーア騎手が4コーナー出口で一気に気合を入れると、2番手に追い上げたバーナードループを突き放し、10馬身差の勝利。
2歳新馬戦でのこの1勝が、カフェファラオにとって後にも先にも唯一の"右回り"での勝鞍になった。
圧勝から挑んだ3歳初戦は東京1600m戦のヒヤシンスステークス。
既に2歳重賞を勝ちあがった馬もいる中で、前走の圧勝からファンはカフェファラオを1番人気に推した。
鞍上はデムーロ騎手。3番枠からスタートするが、1歩目で飛び上がり、最後方からのスタートになった。
ダートコースに入って馬群の5馬身ほど後ろの最後方から馬群を追いかけるカフェファラオ。
ウルトラマリン、メイショウテンスイが先頭でペースを作る中、大きなストライドで一完歩ずつ前との差を詰めたカフェファラオは残り1000mで馬群に追いついた。
迎えた3コーナーでもカフェファラオは大外のまま、デムーロ騎手の手も持ったままで大外を捲り、4コーナーで中団まで位置を上げて最後の直線勝負へ。
前にいたウルトラマリン、メイショウテンスイが粘るが、残り200mでついにカフェファラオが先頭に立つと、後方から猛追するタガノビューティーを1馬身1/4差振り切って勝利。3着ヤウガウはさらにその2馬身半後方で入線した。
2着のタガノビューティー、5着ヘルシャフト、6着メイショウテンスイ、7着ウルトラマリン、10着レーヌブランシュの5頭がこのレースの後にオープンクラスを勝ち上がるハイレベルなメンバーの中、出遅れをものともせずに大外一捲りで勝ち切り。順調に2連勝をあげ、G3ユニコーンステークスへと向かった。
ユニコーンステークスではレーン騎手とのコンビを結成。大外16番枠から今度はスタートをしっかり決めてダートコースへ入ると、インコースを確認するレーン騎手に促され先行ポジションを確保。
前半の600mで逃げるルメール騎手・レッチェバロックをぴったりマークする2番手ポジションにつけ、残り300m付近でレッチェバロックが一杯になったと見るやスパートをかける。末脚勝負に徹したデュードヴァン、ケンシンコウを5馬身突き放してみせた。
ケンシンコウは新潟でレパードステークスを勝ち切る実力馬。ほかにも古馬重賞2勝のサンライズホープやクラスターカップを勝つオーロラテソーロ等、このレースもレベルの高い馬たちが参戦していたが、スピードの差は明らかであった。
カフェファラオは3歳の大一番、ジャパンダートダービーに参戦。
レーン騎手が継続騎乗、これまでの3連勝の結果から1番人気を譲らず、単勝オッズも1.1倍、敵はいないだろう…と思われた。しかし、スタートから先行位置を取ろうとしたカフェファラオの前にダイメイコリーダがポジションを取ると、横でダノンファラオがブロックする形となり、ライバルたちに包まれてしまう展開に。更に1コーナー入り口で躓き、3番手のまま向こう正面を迎えてしまう。
力の要る大井の馬場に脚を取られたのか、レーン騎手が鞭を入れてもカフェファラオは思うように加速しない。カフェファラオを最序盤で抑えたダノンファラオとダイメイコリーダの一騎打ちの末、ダノンファラオが勝利。カフェファラオは7着に沈んだ。この日の大井競馬場は不良馬場からスタート。ジャパンダートダービーの時には1段階回復して重馬場だったが、スピードよりもスタミナが求められる条件になり、後に距離を伸ばして2400mのダイオライト記念を勝利するダノンファラオとの適性の差が着差に出た一戦とも言える。
夏休みを取って仕切り直しの一戦は、古馬混合のハンデ重賞シリウスステークス。
先述の通り、中京1900m開催の左回りのレースで、ここから約1年ルメール騎手とのコンビでレースに挑むことになった。8枠15番からスタートしたカフェファラオは馬1頭分空けた外目を安全に回りつつ、16頭中8番手付近の中団ポジションでレースを進める。
コーナーから外目で仕掛け始めるルメール騎手。その内でダイメイコリーダが外のメイショウワザシ、内のエムオーグリッタに挟まれて下がってしまう。もしもロスを省こうとインコースを走っていたら、巻き込まれていたかもしれない。そうした展開による明暗を切り抜けつつ、ルメール騎手に導かれて外々を安全に回ったカフェファラオ。ハンデの恩恵もあったものの、直線でしっかり抜け出して重賞2勝目をあげた。これは、中京競馬場で勝利したことで、G1チャンピオンズカップへ弾みをつける1勝でもあった。
そして、下半期のダート王決定戦・チャンピオンズカップ。
国内では無敗のクリソベリルが1番人気、カフェファラオはクリソベリルと未対戦であることや前走の勝ちっぷりもあり、2番人気に支持される。
7番枠からスタートしたカフェファラオは内外の先行馬たちを行かせてから中団でのレースを選択。おそらく、シリウスステークスと同様に外を回って後半で抜け出すレースを思い描いていたのだろう。
だが、迎えたコーナーでカフェファラオはスパートを開始したものの、前との差が詰まらない。
逃げを打ったエアアルマスを抜いて"尾張巧者"インティが先頭に立つ。カフェファラオのすぐ前を走っていたチュウワウィザード、そしてカフェファラオのすぐ後ろにいたはずのゴールドドリームが、36秒台の末脚を繰り出し、自身も全体4位の上り37.1秒でまとめたが6着まで。クリソベリルも本来の力を出せず4着に敗北、後に右後肢の輪状靭帯を傷めていたことが発覚した。
デビューからの勢いに乗って挑んだジャパンダートダービーでは馬場に泣き、チャンピオンズカップでは上がり勝負で中距離戦を走ってきたトップクラスの古馬たちとの力差を見せられてG1級タイトルには手が届かなかったカフェファラオ。
しかし、栄光の瞬間はすぐそこ──"府中ダートマイルG1" フェブラリーステークスにまで迫っていた。
4歳 いざ府中のG1へ、挑戦続く古馬時代
カフェファラオの4歳初戦はフェブラリーステークス。待ちに待った"府中ダートマイルG1"の舞台だった。
この条件ならばいまだ無敗、チャンピオンズカップで競った中距離路線組の馬たちは川崎記念やドバイへ向かうため、カフェファラオは1番人気で迎えられた。
前年ヒヤシンスステークスを勝った日から1年。
あの日のメインレースだったフェブラリーステークスで、カフェファラオは再びスピード勝負に挑んだ。
外のレッドルゼルが好スタート。内のサクセスエナジー・インティ、さらに末脚勝負のサンライズノヴァが出負け気味となる。カフェファラオもどちらかと言えばゆったりとゲートを出たが、最内のエアアルマスが逃げ、2番枠のインティが控える競馬を選択したため、すんなりと先行ポジションを確保した。
前はエアアルマス、ヘリオス、ワイドファラオが並んでカフェファラオはその3頭を前に見ながら4~5番手でレースを進める。3コーナー手前から、カフェファラオは下がってきたヘリオスを交わして前の2頭を追いかけ始めた。
そして直線では前が空いてるワイドファラオの外目へ導かれると、先頭を目指して雄大な馬体が先頭に迫る。
カフェファラオが空けたインのポジションからワンダーリーデル、更に後ろにいたエアスピネルが馬群を抜けて末脚を繰り出したが、カフェファラオは3/4馬身差振り切って1着でゴール。ついにG1馬になった。
さらにカフェファラオは、マイルG1級競走での連勝を目指して、春2戦目はかしわ記念に参戦。
しかし、ここは南関の女傑サルサディオーネがハナを切り、川崎記念で中央馬から逃げ切ったカジノフォンテン、南関マイル重賞馬ワークアンドラブが先行、更に外枠のサンライズノヴァ、ソリストサンダーも先行集団を追いかけたため、カフェファラオはインコースに閉じ込められてしまう。
向こう正面で先行争いについていけなくなったワークアンドラブを外からかわすが、その外にいたサンライズノヴァがいち早くカジノフォンテンを捉えようと捲りを試み、カフェファラオもそれを追走する苦しい展開になってしまう。
前走とは逆に抜け出したカジノフォンテンを追いかけようとするが、そこまでに脚を使ってしまっていたため余力が無く、サンライズノヴァの捲りについていかない。さらに仕掛けを待ったソリストサンダー、馬群の後ろから追込み競馬に徹したインティに差され、前を走っていたワイドファラオにハナ差まで迫るのがやっとの5着敗戦。最序盤で位置を取れず、自分の競馬をさせてもらえずの敗戦であった。
ダートマイル戦はしばらく開催が無いため、夏休みに入るかに思われたが、なんと芝レース挑戦を表明。
函館記念に挑み、結果次第では札幌記念に連戦するプランが明かされた。
確かに、フェブラリーステークスは芝スタートで、函館芝コースでの追切でもダイナミックな走りを披露。
…とはいえ、そう簡単に勝たせてもらえるほど甘くは無かった。最内枠の5~6番手でロスなく運んだが、前でばてた馬が壁になった上、後方から末脚を伸ばしたアイスバブルに前をカットされてしまい追い出せずに苦しい競馬となる。ハンデ58.5キロも重なって9着に敗れると、札幌記念はパスしてチャンピオンズカップへ向かうことになった。
迎えたチャンピオンズカップでは大外16番枠を引いたカフェファラオ。
青のブリンカーを装着し、ゲートは今一つだったもののスムーズに中団を追走するが、直線で外から来たメイショウハリオ、内にいたクリンチャーに挟まれたところで止まってしまう。そのはるか前では、テーオーケインズが上がり35.5秒の鬼脚を繰り出して2着チュウワウィザードに6馬身差をつけた。
カフェファラオは11着に惨敗。4歳シーズンを終了した。
芝ダートの違いこそあれ、かしわ記念も函館記念も、そしてチャンピオンズカップの終盤も、他の馬に包まれて本来の走りは見せられなかった。他馬を気にせずのびのびと走れるレース──カフェファラオが真価を発揮するのは、やはり府中の大一番であった。
5歳~6歳 連覇へ、海外へ、そしてリベンジへ駆け抜けた
得意な条件が"ワンターンのマイル戦"とはっきりしたカフェファラオの5歳シーズンは、連覇のかかるフェブラリーステークスから始動した。
鞍上はこのレースから福永騎手になり、ルメール騎手はJBCレディスクラシックの勝ち馬テオレーマとのコンビで参戦。JBCスプリントや根岸ステークス等、末脚で重賞を勝っているレッドルゼルに1番人気は譲ったが、久しぶりに得意舞台に戻ってきたカフェファラオは2番人気でレースを迎えた。
スタートを五分に出ると、外から一気にハナを目指すサンライズホープや、白毛馬ソダシ、1400m巧者テイエムサウスダンらを前に行かせ、自身は馬2頭分内を空けた外目4~5番手、前年と同じポジションで前にいる馬たちを追いかける。前年と同じように、コーナーをスムーズに抜けたカフェファラオの前にいたのはソダシとテイエムサウスダン。
残り400mでソダシを交わしたカフェファラオだったが、テイエムサウスダンと岩田康誠騎手の渾身のラストスパートを抜くには更に1ハロンを要した。しかし後方から迫るものは無く、カフェファラオはコパノリッキー以来2頭目のフェブラリーステークス連覇を達成。重馬場とはいえ決着タイム1.33.8は芝並みの高速決着で、モーニンが記録した1.34.0を抜いてレースレコードになった。
次走に選ばれたのは同じ府中1600mでも芝のG1安田記念。
馬のリズムと気持ちを優先し、ワンターンの競馬を選択したようだった。
実際にカフェファラオは最内枠で汗ばみながらも、残り400mまでは先行して直線を向いたのだが、開催が進んだ芝は外の方が伸びる馬場で、最後の脚を残せず17着に終わった。
夏は休んで、マイルチャンピオンシップ南部杯へ。
地方のダート交流G1だが、盛岡競馬場はときに芝並みの高速決着になるコースで、レコードホルダーのアルクトスとの決戦と目されていた。雨は上がったが不良馬場のダートコースをかき分けて、得意の先行策で前を追いかける。
残り200m付近まで鞭を温存していたヘリオス、最内のイグナイター、外から末脚を繰り出したシャマルの4頭がゴールに飛び込んだところで、ハナ差ヘリオスを差し切ったカフェファラオが勝利。前年のチャンピオンで3連覇を目指したアルクトスは脚部不安を抱えながらレースに挑み、最後は前の馬たちの勝敗を見届けて完走、このレース限りで現役を引退した。
カフェファラオはチャンピオンズカップを目指したが左後脚の骨折が判明し5歳シーズンはこれで終了。
6歳初戦はサウジカップへの参戦が決まり、福永騎手がこの日のリヤドダートスプリントを引退戦に選んだことから、モレイラ騎手に乗り替わっての挑戦であった。
距離が1ハロン長い1800mでもワンターンの競馬が合うと見られたカフェファラオ。逃げるパンサラッサを見ながら、いつも通り外目を走る先行策で走り出した。しかし、外に各馬が集まりインコースが空いていると見るや、すかさずモレイラ騎手がカフェファラオをコーナー手前でインコースに誘導し、パンサラッサの真後ろの位置を確保。
直線でモレイラ騎手に追われると、並走していたクラウンプライドを残り50mで振り切る。最後はジオグリフにハナ差先着したが、逃げたパンサラッサがそのまま逃げ切り、後方から猛追してきたカントリーグラマーに差し切られての惜しい3着でレースを終えた
ドバイターフへ続戦したヴァンドギャルド以外の5頭はそのままドバイワールドカップへ挑んだが、パンサラッサが外枠でスタートが決まらず、先行勢が楽に逃がさない消耗戦になった。普段より後方にいたカフェファラオさえも余力が残らず、最後方から末脚一気の追込みを見せたウシュバテソーロを見送ると後方でレースを終えた。
帰国したカフェファラオは前年に続き安田記念へ。
鞍上は浜中騎手とのコンビに乗り替わり、スムーズに走れる8枠をゲットし2度目の挑戦。
マイル戦に戻れば積極的に先行するカフェファラオ、フェブラリーステークス以来の対戦になるソダシの外を回って直線残り400mまでは前年同様先行集団と並んで見せ場を作ったが、最後の坂で苦しくなり、残り200mで外から差されたソングラインの連覇を見送った。とはいえ、前年17着から12着に着順をあげ、高速決着の中カフェファラオも1.32.3で走破。G1でなければ勝負になるほどの好タイムで、ソングラインとの着差も前年から0.1秒詰めた。
秋は連覇を目指しマイルチャンピオンシップ南部杯へ。
中央開催(東京・京都)と重なったため、鞍上は岩手リーディング2位(当時)の高松亮騎手に決まった。
スタートでよれてタガノビューティーと接触したが立て直して、レモンポップ、イグナイター、ジオグリフを前に見ながらカフェファラオはインの4番手で前を追う。軽快に逃げるレモンポップを楽に行かせまいと併せていたイグナイターが置いていかれ、レモンポップが独走。カフェファラオはロスなく終始インコースを攻めて直線を迎えたが、前のイグナイター、レディバグを交わす脚は残っていなかった。
後方からの末脚勝負を仕掛けたタガノビューティー、ノットゥルノと僅差の5着でレースを終えた。
カフェファラオは12月のチャンピオンズカップを待たずに11月24日に競走馬登録を抹消。
アロースタッドで種牡馬入りすることが発表された。
次世代へ個性を繋ぐか
ワンターンのダートマイル戦はラストランの南部杯を除きすべて勝ち切り[5-0-0-1]。それ以外の条件では新馬戦とシリウスステークスでの勝利があったものの[2-0-1-9]と、極端とも言える成績で現役を終えたカフェファラオ。揉まれ弱さや気性的に難しいところがありながらも類稀な能力でG1級競走を3勝し、2022年の最優秀ダートホースにも選出された。
最後に敗れたレモンポップはその後カフェファラオが出走しなかったチャンピオンズカップを初めて逃げ切り、2着イグナイターはJBCスプリントを勝ち切った。僅差4着のタガノビューティーとは3歳時から競い続けたが、現役生活の最後まで強い相手と切磋琢磨し続けたと言えるだろう。
初年度産駒は2025年に産まれる。2度の安田記念挑戦でも芝マイルトップクラスのメンバーと競って残り400m坂の手前までは見せ場を作れたことからも、産駒は芝・ダートどちらにも対応できるのではないだろうか。
カフェファラオ自身がアメリカンファラオの初年度産駒として日米のファンから活躍を喜ばれたように、カフェファラオの初年度産駒から父譲りのスピードで活躍する馬の登場を楽しみに待ちたい。
写真:かぼす