[地方レース回顧]さらば「7つ星」、来たれ「マイルの王者」~2022年・MCS南部杯~

秋の交流Jpn1開幕戦、マイルチャンピオンシップ南部杯。今年はJBC競走が盛岡競馬場での開催とあって、この秋には本レースを含めた4つの交流Jpn1競走が盛岡競馬場で行われることになります。

このレースで2着1回、そして今年勝利で3連覇を狙うアルクトス、フェブラリーステークス連覇、左回り1600mを最も得意とするカフェファラオ、今年の交流重賞3勝で勢いに乗るシャマル、かしわ記念2着2回で今度こそのG1級制覇を狙うソリストサンダー、悲願のG1級制覇へ走り続けるエアスピネル、1400m巧者ではありつつもスピードを武器に一発を狙うヘリオス、末脚決まれば2度目の南部杯制覇を達成するサンライズノヴァと、JRAのダートマイル戦で実績上位のメンバーが集いました。

地方競馬からのメンバーも豪華。大井競馬に移籍してダートG1級競走の制覇を狙うタイムフライヤー、地方移籍後に黒船賞・かきつばた記念でヘリオスに勝利している園田所属の新星イグナイター、全日本2歳優駿勝馬で今年のシアンモア記念を制し復調気配のヴァケーション、岩手競馬所属の強豪牝馬ゴールデンヒーラー等こちらも豪華な顔ぶれ。

レース時には雨は上がっていたものの、昨年に続き不良馬場でのレース、16頭が秋のマイル王を目指してゲートへ向かい、スタートを迎えました。

レース概況

外枠のエアスピネル、シャマル、ゴールデンヒーラーが好スタートを決め、五分に出たヘリオスが武豊騎手に押されてハナまで進出、逃げの手に出ます。

ヘリオスの逃げを追いかけたのはシャマルとアルクトス、向こう正面ではカフェファラオとやや出負けしたソリストサンダーも追いついて、イグナイターも先行集団でレースを進めます。

先行集団の後ろにエアスピネルとタイムフライヤー、2馬身後方にヴァケーション、その後ろでサンライズノヴァが末脚を溜めながら中団を追走。少し離れてオンザロックスとゴールデンヒーラー、カミノコが後方に。さらに離されてマイネルヘルツアス、ミスティネイル、ゼットセントラルの3頭がレースを進めます。

残り800m地点を過ぎた時点で、逃げるヘリオスの後方は横に広がり、ほぼ一団で追いかける展開に。軽快に飛ばすヘリオスに離されまいと各馬距離を詰めながらコーナーの攻防へ。

ヘリオスのすぐ外目にソリストサンダー、更に外からカフェファラオが進出の機会を伺い、シャマルもその後ろから川須騎手の鞭が入って追い上げを開始します。
この辺りでアルクトスが一杯になり、残り400m地点で直線に入る前に馬群から後退。

直線の攻防はロスなく逃げたヘリオスを外からカフェファラオがダイナミックな走りで追い詰め、最内からはイグナイターが、カフェファラオの外からは川須騎手の激に応えてシャマルが伸びてきます。

残り200m付近まで鞭を温存していたヘリオスが最後の粘りに入りますが、ゴールに飛び込んだところでハナ差ヘリオスを差し切ったカフェファラオが勝利。ほんの僅か粘り切れなかったヘリオスは大健闘の2着、3着4着も僅差でしたが、上り最速タイの末脚を繰り出したヘリオスが半馬身差イグナイターに差をつけて3着、イグナイターはこのメンバー相手でも4着と地力の高さを見せました。

上位4頭から6馬身離れていましたが、好スタートから後方で脚を溜めていたゴールデンヒーラーがコーナーから仕掛けてシャマルと最速タイの36.7秒の末脚を繰り出し5着、地元の盛岡競馬場で、中央馬たちにも先着する好走でレースを終えました。

各馬短評

1着 カフェファラオ

「左回り、マイル戦、ワンターン」の条件が揃うと無類の強さを発揮するカフェファラオ、前走の安田記念では芝の猛者たちに挑みましたが17着。昨年はチャンピオンズカップ直行でこの期間は休養に充てていましたが、得意条件の揃う盛岡競馬場での走りは流石の一言でした。

今回の勝鞍を含めた7勝のうち5勝は左回りのマイル戦。右回りやもう少し長い距離の勝鞍もありますが、長い直線でスピードに乗って減速せずに伸び勝つレースを得意としています。

JBCスプリントでは距離が短く、かといって武蔵野ステークスではハンデを背負ってしまうので、次走はチャンピオンズカップではないでしょうか。1周コースの競馬は得意条件からは外れますが、今年G1級競走を2勝している勢いで古豪たちに再び挑んで欲しいですね。

2着 ヘリオス

今年に入って武豊騎手とのコンビで勝鞍こそないものの、根岸ステークス・黒船賞・かきつばた記念と連続して馬券内に好走しているヘリオス。さきたま杯では春シーズン4戦目の疲れもあったか5着に敗れましたが、秋初戦のここではスピードを活かして逃げる競馬で僅差2着の好走でした。

中央競馬では1600mよりもスピード能力を活かせる1400m戦の方が得意な馬ですが、南部杯はスピード能力のある馬が活躍しやすい舞台設定なので、ペースメイクの名人である武豊騎手のリードも相まって好走できたのでしょう。

1200m戦でも勝鞍のある馬なので、JBCスプリントに参戦出来ればレッドルゼルの末脚にどこまで耐えられるかの勝負になるはずです。来年以降、クラスターカップに挑んでも面白い勝負になりそうな予感がする1頭です。

3着 シャマル

今年の上り馬として注目されたシャマルは、このメンバー相手でも3着に好走。
3歳未勝利戦でのデビューとスロースタートながら、馬券を外したのはデビュー戦と先行策が叶わなかった3勝クラス初戦のみのとても安定した戦績の持ち主です。

デビュー以来、一貫して川須騎手が主戦を務め、東京スプリント・サマーチャンピオン・テレ玉杯オーバルスプリントを勝利、西へ東へコースを問わずスピードを活かせるのも能力の証でしょう。

さきたま杯からの3戦が1400mであり、今回が初のマイル戦でしたが、距離負けの印象は受けません。JBCスプリントだけでなく、来年の根岸ステークスやフェブラリーステークスでも好走するかもしれません。

4歳にして交流重賞でベテランたちと肩を並べて勝負できるのですから、この先がまだまだ楽しみですね。

14着 アルクトス

3連覇を目指しての出走でしたが、山口功一郎オーナーのTwitterにて引退レースになるかもしれない(状態次第でJBCスプリントへ)と投稿がされており、まずは無事の完走を願っていたファンも多かったことでしょう。

昨年のさきたま杯を勝った後も脚部不安のため南部杯まで夏休みを取って間隔を空け、南部杯を全力投球してシーズンを終了すると決めていただけに、今年の出走も脚の状態をギリギリまで見極めてのことだったと思われます。

例年のような伸びはありませんでしたが、最後の3ハロンは一完歩ずつ踏みしめるように39.4秒かけて完走。
レース後まもなく、引退と優駿スタリオンステーションでの種牡馬入りが発表されました。

4度盛岡競馬場で南部杯を駆け抜けたアルクトス、7歳シーズンまで24戦の力走、本当にお疲れ様でした。

レース総評

この舞台で好走を続けたアルクトスが現役を退き、次の王座はこの舞台設定が最も適したカフェファラオへ引き継がれました。
「得意条件で1着か条件が合わずに馬券外か」の極端な成績の新チャンピオンですが、南部杯はリピーターが多いレースなので、気が早いですが来年もこの舞台で強いカフェファラオを見ることが出来るかもしれません。

カフェファラオは、かつてコパノリッキーが挑戦したフェブラリーステークス3連覇、そして来年以降もこのレースに挑み続ければブルーコンコルドの3連覇、あるいはエスポワールシチーの3勝の記録に挑むことになるでしょう。

また、園田競馬のイグナイターが4着、地元所属のゴールデンヒーラーが5着に大健闘し、Jpn1クラスでも中央、地方の垣根を超えた熱戦が続く予感がします。
両馬ともに4歳シーズン、ダート戦線は長く活躍する馬が多いので、来年以降も全国各地から多士済々が集い、名レースが繰り広げられることでしょう。

写真:青狸

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