[写真展「SANCTUARY」]馬の方から心をひらき、血脈までを写し取る - 大狩部牧場・下村優樹が見るEMA YOSHIDA

恵比寿駅近くのギャラリーにて開催中の個展「SANCTUARY」。25年間馬と向き合い、20年間馬の調教と指導に携わってきた馬術家でもあるEMA YOSHIDA(吉田瑛摩)氏による写真展だ。

母子馬が馬房からまっすぐにこちらを見つめる瞳。放牧地で駆け回る仔馬たちの元気な姿。迫力満点の交配の貴重な現場。出産の時を待つ一頭の牝馬。様々な馬の日常を切り取り、構成されたこの展示のほとんどの作品は大狩部牧場で撮影された。それというのもEMA氏が大狩部牧場の公式カメラマンであることから実現したものだ。展示初日に行われたレセプションには、大狩部牧場の下村優樹代表もはるばる北海道から来場し、「ただ残すだけではなく、実際にその馬と対峙しているかのような写真を撮れるのはEMAさんしかいない」と力強いメッセージを送った。

ではそもそもなぜEMA氏が大狩部牧場の公式カメラマンとなったのか。そのきっかけとなったのは、下村代表の直感と行動力だった。

SNSでEMA氏の写真を目にして感銘を受けた下村代表は、2025年に開催された個展「Timeless」を観たいと、北海道から仙台までまさに「飛んで」行った。そして、その目でEMA氏の作品を確かめ、ぜひ一度大狩部牧場の馬たちを撮ってもらいたいとオファー。当初は一度だけのつもりだったが、撮影に来たEMA氏からの「継続的に撮りたい」という申し出から、公式カメラマンとして活動していくことに。そして、今回の展示に繋がったというわけだ。

今回の展示にはパールシークレットの初産駒を写した作品があり、下村代表の思いをうかがうことができた。大狩部牧場は、種牡馬パールシークレットを導入。パールシークレットは、サラブレッド三大始祖のうちの一頭であり存亡の機にあるバイアリータークの血を引いており、この貴重な血統を日本で保存、発展させることを下村代表は目指している。

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を彷彿とさせるその作品に写し出されているのは、シンギュラチャームの2026。下村代表曰く「この仔はパールシークレットの血を受け継ぐという宿命を背負っている。それをわかっているのかような、意志を感じるような表情」で、「こんな表情をするのか」と普段接している中では特段感じていなかった仔馬の一面が引き出されていることに、驚きを隠せない様子だった。ただ一方で、その表情に思い当たる節もあるそうだ。「馬は、生まれてすぐの頃の本質が、その馬自身の本質であり、途中で変わったとしても戻っていくんです。そういえば、この仔は生まれてすぐ、3日くらいは、こんな表情をしていたかもしれない」と語る声は、心なしか高揚しているようにも思えた。どんどん成長していく馬のその時、その一瞬を残せるのは写真の力であり、それが生産者である下村代表の心をこんなにも打つほどに魅力的なのは、紛れもないEMA氏の力なのだ。

また、EMA氏が大狩部牧場の馬たちと対峙するとき、下村代表は不思議な感覚を抱くという。たとえば放牧地に初対面のEMAさんが居るというのに、馬たちはいつも通りに過ごしている。それがまるで、馬の方から心をひらいているかのように思えるというのだ。毎日接してる下村代表ともスタッフとも違う、長年馬と共に生きてきたEMA氏だからこそ、馬たちとの関係を即座に築けるのだろう。EMA氏は馬に認められた存在なのではないかと思わされるエピソードである。

馬は人を魅了する生き物で、だからこそ長い間、人と共に暮らしてきた。EMA氏の作品からは眼前にいる馬その一頭の先にある、広大な血脈さえ見えてくる。もしかしたら、私たちを魅了する馬という存在そのものを写し取っているのかもしれない。馬に認められた、僅かな人間だけが撮れる写真。「魂の血脈のようなものがEMAさんの写真からは伝わってくる」と下村代表は展示会場を見渡しながら、目を輝かせた。

馬の方から心をひらき、血脈までを写し取る。EMA YOSHIDA氏と馬たちとの間にあるもの。それはまさに聖域なのかもしれない。

そんな聖域を体感できる個展「SANCTUARY」は恵比寿駅近くのsee you galleryにて10月26日まで。都内で大狩部牧場の空気を感じられる貴重な展示に、ぜひ足を運んでみてほしい。


EMA YOSHIDA個展「SANCTUARY」

会期:2026年10月10日(土)~26日(月) 13:00 - 20:00(火水休館日・入場無料)

会場:see you gallery
https://seeyougallery.com
東京都渋谷区広尾1-15-7 2F【恵比寿駅東口より徒歩4分】

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