![[写真展「SANCTUARY」]馬の心が見える写真 - EMA YOSHIDAと大狩部牧場](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/10/2026101602.jpg)
霧の中の幻想的な馬の群れ。彫刻のような力強さを湛えた馬術馬。仔馬たちのじゃれあう愛くるしい姿から、緊張感の走る迫力の交配の現場まで。馬の生活のリアルが伝わる個展「SANCTUARY」は、馬術家であり写真家のEMA YOSHIDA(吉田瑛摩)氏による写真展だ。
『馬と歩んで25年。馬の一生と、未来へ受け継がれる血脈を写真で記録する』
その言葉通り、馬の命がまっすぐに写し取られた作品の数々からは、馬と長い年月を共にしてきたからこその距離感や空気感が伝わる。しかし、EMA氏の撮る写真は、ただ馬の生活を「記録」しただけではない。不思議なことにEMA氏の写真を前にしていると、実際にその馬と出会い、触れ合ったかのような感覚に陥る。

両親の影響で中学生から乗馬を始めたというEMA YOSHIDA氏。19歳で馬術修行のためドイツに渡り、人と馬との多様な関わりや芸術表現に感銘を受け、現在は馬術の指導・調教・馬との撮影プロデュースに携わっている。大狩部牧場の公式カメラマンとしても活動しており、今回の展示はその縁から大狩部牧場で撮影された馬たちの作品を中心に構成されている。
大狩部牧場の馬たちはそのほとんどが撮影時に初対面だった、と聞いて驚いた。すっかり打ち解けているような、自然体の馬たちの姿がそこには写し出されていたからだ。馬と長年過ごしていると、初対面でもその馬が緊張しているか、怯えているか、興味を持ってくれているかなどがわかるのだとEMA氏は言う。そして、この馬はどういう風に撮ればいいか、どう撮りたいかを感じ、考える。たとえば「この馬の筋肉を見せたい」と思えば、それを一番魅力的に見えるように写す。

さらにEMA氏は、絵画的なアプローチも積極的に取り入れている。カラヴァッジョの画風を意識した作品、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を彷彿とさせる作品など、EMA氏の作品づくりの根底には確かな絵画の土壌が存在している。被写体の魅力を引き出す強い意志と、それを昇華できる技術。それが彼女の作品を「記録」からさらに上の芸術領域へと高めているのだろう。
会場を一緒に見て回っていると、母仔馬が馬房からこちらをまっすぐに見つめている作品の前でEMA氏は立ち止まった。写し出されていたのは、マリントウショウとその仔だった。
EMA氏の勤める乗馬クラブでも馬たちが日々を過ごしており、長く暮らしていると当然、最期の時もやってくる。そういう時に悲しんで泣いてくれる人がいるが、ずっと一緒にいるわけではないのにどうしてそんなに泣いてくれるのだろうと、以前は気持ちを完全には理解できなかったのだという。しかし、産後に子宮動脈破裂となった馬の様子を伝える大狩部牧場の配信を見て「こんなに心配で、今すぐに飛んで行きたい気持ちになるのだということを知って。それを教えてくれたのが、このマリントウショウなんです」とEMA氏は愛しそうに写真を見つめる。大狩部牧場で撮影を続けていく中で、EMA氏自身の中にも変化が生じていたのだ。

そして、今回の展示の核とも言えるのが、サラブレッド三大始祖のうちの一頭であり、存亡の機にあるバイアリータークの血を引いている、種牡馬パールシークレットだ。長年乗馬クラブで働いていて、近年、馬たちが弱くなってきているように思えていたというEMA氏。パールシークレットの仔たちに一生懸命強い血を繋いでいってほしいという強い願いから、交配シーンの撮影に至ったという。展示された交配の瞬間の作品は、現場の緊張感とパールシークレットの力強さがストレートに伝わり、息を呑むほどの迫力だ。
そして、その荒々しさを感じさせる「動」の作品と対になるように配置されているのが、「受胎告知」と題された作品である。パールシークレットの仔をお腹に宿した牝馬が一頭、静かに佇んでいる。「動と静」で構成されたその部屋には、強い馬の血を未来へと繋いでいってほしいというEMA氏の祈りが込められている。
「強い馬づくりをしている大狩部牧場の下村社長に頑張ってほしいと思っています。私はアートで馬の背景や馬事文化を伝えて、広めていきたいです」
レセプションの挨拶でそう述べたEMA氏。大狩部牧場とEMA YOSHIDAの出会いは必然であり、馬業界のこれからを変えていくのかもしれない。そんな予感がした。

馬の生産から終生まで、そのすべてを表現している今回の展示で、筆者の脳裏によぎったそんな予感をぜひその目で確かめてみてほしい。まるで、馬の心が見えるかのような写真たち、EMA YOSHIDA個展「SANCTUARY」は恵比寿駅近くのsee you galleryにて10月26日まで開催している。
EMA YOSHIDA個展「SANCTUARY」
会期:2026年10月10日(土)~26日(月) 13:00 - 20:00(火水休館日・入場無料)
会場:see you gallery
https://seeyougallery.com
東京都渋谷区広尾1-15-7 2F【恵比寿駅東口より徒歩4分】
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