[連載・馬主は語る]僕たちにできることはわずか(シーズン2-7)

そうこうしているうちに、初めての共有馬エコロテッチャンが水沢競馬場でのデビュー戦を迎えました。さすがに毎レース、岩手に応援に行くことはできませんので、せめて初戦ぐらいはと思っていましたが、ちょうど外せない仕事が重なってしまいました。盛岡競馬場で行われる芝の短距離戦が狙いであり、水沢競馬場のダート戦は調教代わりというか調整の一環として考えていましたので、正直に言うと、あまり期待はしていませんでした。思っていたよりも早く初戦を迎えることができたのは、永田厩舎の腕利き志村厩務員によるところが多いはずです。調教の動きも時計も良かったということで、競馬新聞の馬柱にも印が並んでいましたが、僕は半信半疑でした。

出走までの過程において、獣医師でありEquine Vet Ownersの代表である上手さんと永田厩舎の志村さんがあらゆる工夫をエコロテッチャンに施してくれました。そのひとつとして頭が高い(顎が上がってしまう)ところがあり、それを矯正するためにネックストレッチを装着しました。ネックストレッチは、ゴム製の紐を頭絡に通して腹帯とつなぐことで、頭が高いフォームで走る馬を矯正するための馬具です。頭が高い馬は、肉体の構造上そうなっていることが多く、背中や腰を上手く動かすことができず、トモの踏み込みが悪いがゆえに頭が上がってしまいます。

根本的な原因を解決しなければ、ネックストレッチで頭の高さを抑えてもあまり意味がありませんが、頭を低く、首を使って歩かせるようにすることで、背中や腰の上手な使い方を覚えさせ、それによってトモの踏み込みも良くなっていくことはあり得ます。根本的な要因を解消するためには、少しずつ時間をかける必要があるため、ネックストレッチを装着したから頭が低くなってOKという話ではないということです。工夫を施すことで、少しでもエコロテッチャンの走りにとってプラスになれば良いですね。

さらにレインライトという馬具も試してみることになりました。こちらは下方向への矯正だけにとどまり、ネックストレッチと比べて前方向への勢いを止めることが少ないため、追い切りのスピードでも邪魔にならず、馬が大きく首を使って走ることができるという優れものです。この馬具は、志村さんが冬期にノーザンファーム天栄にお手伝いに行ったときに知り合った岡崎主任からのアドバイスによるものだそうです。一流の馬乗りたちが情報や知識を共有しつつ、エコロテッチャンに関わってくれているのは嬉しい限りです。

それでも、馬は少しずつしか変わりません。本質はほとんど変わらないと言っても良いかもしれません。それは悪い意味ではなく、どれだけ素晴らしいホースマンたちが献身的にたずさわったとしても、藤澤和雄元調教師もおっしゃっていたように、「走らない馬を走るようにすることはできない」のです。決してあきらめているわけではなく、僕たちにできることはわずかであることを知っておくことも大切です。

当日、エコロテッチャンのレースはパソコンの画面上にてライブ配信で観ました。何と2倍台の1番人気になっているではないですか!パドックを観た感想としては、中央競馬時代の精神的に追い詰められていた頃と比べると比較的落ち着いて歩けていましたが、ゆったりと落ち着いて歩けているわけではなく、気持ちの小ささは変わっていないという印象です。どう見ても、人気を二分していた5枠の馬の方がどっしりと落ち着いていて、いかにもパワーがある立派な馬格を誇らしげに歩いています。テッチャンごめんなさい。普通にパドック解説をしていたら、僕は5番の馬を推奨します。エコロテッチャンは、スピードはあるかもしれませんが、このメンバーに入るとすでにパワーという点では見劣りするのです。

ゲートが開いた瞬間、僕は負けを覚悟しました。逃げるどころか、パワーとスピードの違いでハナに立てそうな気配すらなく、レースの流れについていくことができずに後方のまま終わってしまったのです。乾いた馬場が合わなかったとか、休み明け初戦だったからとか、逃げられなかったからとか、そういう次元ではなく、このクラスのダート戦では能力的に全く通用しないことが明らかでした。

9月には降級するそうなので、ひとつ下のクラスでどうかと期待しつつ、やはり芝のレースを中心にローテーションを組み立てていくべきですし、ダート戦に出走するにしてももう少し距離があってテンの争いが激しくならないレースの方が良いでしょう(それでもダート戦で先頭に立てるイメージはありませんが)。ダートと芝の二刀流で走れたら理想でしたが、そんなに話は上手くないようです。エコロテッチャンの軽いスピードを生かせる舞台を探していかなければなりません。

(次回に続く→)

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