[連載・馬主は語る]関わる人間の情熱の量がサラブレッドの運命を決める(シーズン1-7)

その日の夜は、日高の生産者の方々と食卓を囲みました。彼らは父親の世代が創業した牧場を継いだ息子たちです。そのまま跡継ぎとして牧場で働き始めた者もいれば、紆余曲折があって、一度、都会に出て仕事をしてから戻ってきた者もいます。彼らに共通しているのは、僕の周りにいるサラリーマンにはない、無邪気さであり、元気なエネルギーです。スカしている奴なんかひとりもいません(笑)。自分が一国一城の主であるという責任と矜持を持って、懸命に生きているのが伝わってきます。僕はすぐに彼らのことを好きになりました。

そこでしか聞けない(言えない)ような、ぶっちゃけ話も聞けて楽しかったし、何より生産の現場で実際に仕事をしている最前線の人たちと関わるのは刺激的でした。あーでもない、こーでもないとひとしきり語り合い、結局のところそうだようねと皆が落ち着く結論としては、人間がその1頭の馬に対して思い入れを持つことが何よりも大切だということです。

生産から育成、調教から身の周りの世話に至るまで、人間が思い入れを持って馬に接することが、その馬が強くなり成功するかどうかを大きく左右する。これは決して非科学的な話ではなく、どれだけの時間と労力が費やされ、その馬のことを考え、様々なアプローチを試み、時間をかけて育てられ、心身のコンディションを整えてもらったかにサラブレッドの競走生命は委ねられているのです。飛び抜けた才能を持つ馬はそうではないかもしれませんが、ほとんどの馬にとっては、関わる人間の情熱の量が運命を決めると言っても過言ではないのです。

「だからこそ、できるだけ高い値段で馬を売りたいんです」とある生産者は言いました。もちろんビジネスとして高く馬を売りたいと思うのは当然のこととして、それだけではなく、高く売れた馬はそれだけ大事にしてもらえる確率が高いという意味です。もちろんすべての馬がそうであるとは言いませんが、安く買われて行った馬はそれほど期待されずに、それなりの扱いしか受けません。高値で買われた馬は、それだけの育成場に預けられ、それだけの調教師のもとに入厩することになります。

どの馬にも可能性があって、公平に接するべきと頭では分かっていても、無意識のうちに、いや、自然な感情として、ある一定水準以下の値段で買われた馬には期待が掛けられません。同じ馬であっても、髙値で買われた方が周りの人間の意識が違うため、成功の可能性が広がるということです。

逆に言えば、たとえ一般的には安い値段で買った馬であっても、その馬主さんにとっては高い買い物であり、その馬の素質に情熱や期待を抱くことができれば、できる限り良い育成場や厩舎を探し、預かってもらう関係者とコミュニケーションをはかり、密に関わることで同じ効果を期待できるのではないかと僕は素直に思いました。

お金持ちの子どもが必ずしも優秀でないように(むしろスポイルされてしまうように)、実は教育とはかけられるお金の多寡よりも、言葉で表現するのは難しいのですが、関わってくれる周りの人たちの愛情や手間のようなものに大きく影響を受けるのです。払えるお金は限られていても、愛情や期待を持って見守り、行動することが、預かりの親である馬主に求められているのではないでしょうか。

生産者たちの馬に対する情熱を一身に浴びた僕は、ふとトレーニングセールに行ってみたくなりました。

(次回へ続く)

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