大混戦とは毎年使われる函館記念の慣用句のようなものだが、今年もやはり大混戦。前走重賞で3着以内だったのは鳴尾記念3着のステイフーリッシュのみ。1、2着のほかに9頭が参戦する巴賞組だが、そのレースは13番人気スズカデヴィアスが勝ち、波乱決着。そして、函館記念ではスズカデヴィアスではなく、巴賞で2番人気9着敗退のマイスタイルが1番人気。2000mのオープン特別を勝ったレッドローゼスが2番人気。重賞タイトルホルダーのステイフーリッシュ、エアスピネルが3、4番人気となった。

ポポカテペトル、ナイトオブナイツ、ドレッドノータス、メートルダール、マイネルファンロンと続く。

スタートを決めたマイスタイルが枠を利してラチ沿いからハナを奪う。今年に入ってから逃げ戦法をとらず控える競馬を模索していたが、この日は持ち前のスピードを活かしてすんなりと先頭に立った。

先行争いは内枠勢が優勢、3枠のドレッドノータス、マイネルファンロンが2、3番手に収まり、レッドローゼス、アメリカズカップの1枠2頭はそれに対して引く形になった。1周目のゴール板を過ぎると外から4番手をうかがうステイフーリッシュ、直後に大外枠のエアスピネルが先行態勢をとる。

1角では先頭集団はマイスタイルに引っ張られるようにバラけはじめる。先頭マイスタイル、2番手マイネルファンロン、3番手ドレッドノータスがそれぞれ2馬身ほどの間隔で走る。以下は正反対に徐々に馬群になっていき、その先頭にステイフーリッシュ、レッドローゼスがいる。

2角から向正面にかけてペースを落とすだろう地点でもマイスタイルの走りは変わらず、11秒台後半という追走する方がちょっとイヤになるようなラップを踏む。

無理に追いかけられないマイネルファンロンを尻目にじわりとその差を離すマイスタイル。それでもマイネルファンロンはマイスタイルの逃げを射程圏外に逃さないように強気に攻める。対照的に3番手のドレッドノータスは深追い無用と菱田裕二騎手は手綱を一旦抑えるような素振りだ。

2、3番手の動きが4番手以下に大きな影響を与えた。マイネルファンロンがマイスタイルを追いかけ、ドレッドノータスが抑えたことで4番手ステイフーリッシュ、レッドローゼス、エアスピネル、アメリカズカップは抑えることを余儀なくされ、早めに動き始める馬は出てこない。唯一動いたのは後方にいた格上挑戦のゴールドギア。押しあげて先行集団に並ぶ。

中団以降が金縛りに遭ったことでマイスタイルは3、4角でわずかながらペースを落とし、息を整え、後続の仕掛けを待っていた。早めに並びかけたのはマイネルファンロンで、4角ではマイスタイルの外を併走。後ろはドレッドノータスがペースをあげられないと見るや、ステイフーリッシュが3番手にあがり、その外からレッドローゼス、エアスピネル、ゴールドギアが仕掛け、インからアメリカズカップが差を詰める。

最後の直線。手応えはマイスタイルよりマイネルファンロンだった。直線入り口からマイスタイルを交わし、先頭に立つ。このときマイスタイルに併せて食らいつかせないように丹内祐次騎手は手綱を操り、右ステッキでやや外に持ち出す。3番手は変わらずステイフーリッシュ、ラチ沿いからドレッドノータスが食い下がる。

残り200mを切ったところから一旦は2番手になったマイスタイルがまだ余力を残していたのかマイネルファンロンを差し返しにいった。マイネルファンロンが抵抗するもマイスタイルがインからひと伸び、クビだけ前に出たところがゴールだった。マイネルファンロンは2着、3着はステイフーリッシュ。勝ち時計は1分59秒6(良)。

各馬短評

1着マイスタイル(1番人気)

かつて弥生賞2着、日本ダービー4着とマイペースならしぶとさをクラシック路線で発揮。

古馬になってからも函館で条件戦を卒業、重賞では福島記念2着、京都金杯2着と番手以下に下げる脚質転換を試みた。この試行錯誤、無理に追いかけないように我慢させる競馬が結果的にこの函館記念の逃げ戦法で活きた。1番人気ながら行けば、周囲がさっと引き、やや速めのラップを刻みながらもリズムを崩さず、勝負どころで後ろを待つ余裕を作れたことが最後の差し返しにつながった。

逃げ先行自在の巧みな競馬、馬名の通り、自分のスタイルを完成させた印象だ。

2着マイネルファンロン(9番人気)

こちらもマイスタイルの逃げに対して射程圏内に捕らえながらの追走を心がけ、タイミングよく仕掛け、一旦は先頭。直線入り口で前に出た地点で馬体をマイスタイルから離し、勝負を決めに行ったが相手のファイトバックに屈した格好になってしまった。函館記念男丹内祐次騎手の渾身の騎乗だっただけに悔しい2着だった。

3着ステイフーリッシュ(3番人気)

スタート直後からスムーズに4番手を追走。リズムよく走り、最後の直線でもただ1頭だけ前との差を詰めてきた。京都新聞杯勝ちがあり、実績十分なだけに歯がゆい競馬が続く。好位追走は自分の形となりつつあるが、もう1列前、番手あたりから強気に勝ちに行く競馬で活路を見出せるとよいのではないかと思う。

総評

田中勝春騎手はこれが重賞50勝目。

2015年福島牝馬S(スイートサルサ)以来の4年ぶりの重賞勝利となった。遠めでも勝春騎手がどこにいるかすぐ分かるような独特の騎乗フォーム、48歳のベテランながら馬上での柔らかさは健在。馬とケンカすることが滅多にない勝春騎手にマイスタイルはまさにベストパートナー。行きたがる馬をじっくりなだめる技術は勝春騎手ならではだ。

若者の夏にまたひとり、意地を見せたベテランが現れた。

中年だって永遠に夏は巡ってくる。マイスタイルとのコンビでさらに大きな舞台でカッチースマイルを振りまいてもらいたい。

大混戦の函館記念も終わってみれば、1番人気の勝利で幕を閉じた。

人気を背負った馬がハナに行き、常に先頭を走る形になりながら、後続はマイネルファンロン以外まるでマイスタイルを無視するかのような競馬を展開。

ドレッドノータスが抑えたことで金縛り状態に陥るのは無理もないが、しかし前を走るのは1番人気馬なのだから、どこかで金縛りを振りほどくような気概があってもよかったのではないだろうか。

写真:アカネノユメ、あやか

あなたにおすすめの記事