これから始まる話は、アラフォー間近のお金もない、暇もない、英語もほとんど話せない一人の男が、フラッと香港国際競走を見に行ってみようと決意し、初めて日本を飛び出して経験した二日間の話である。
中には「もっと海外を知っている」「香港競馬は自分の方が詳しい」「そんなことも知らないのか」と、色々感じる方がおられると思うが、そこは軽い気持ちで読み進めて頂ければと思う。
なお、安いデジカメとスマホのカメラのみで場所取りなど何もなく、撮影知識もないので、過去ウマフリで掲載された凱旋門賞観戦記のような写真は期待しないことをオススメする。
2016年12月10日、香港国際競走前日。まだ夜も明けぬ午前4時に関西国際空港へ向けて出発した。
フラッと……とは言うものの、中央地方全てを踏破した以上、今年は香港あたりでも行くかと、貧乏暇なしの私は数か月前から航空券を押さえていた。当然のことながらLCCのセールでの購入である。
もちろん有料の荷物は預けない。香港の気候を考えて荷物は少なく、あまり着込まずの出発となったので、空港リムジンバスに乗るまでは寒さに耐える事となった。
無事香港へ向けて離陸することとなったが、時間的に結構ギリギリの乗り継ぎをクリアしてほっとしていた。今思えば危ない橋を渡ったものだ。
香港とは時差が1時間ある。昼前に香港国際空港へ着陸。空港内の地理、入国審査など、わからないことだらけであたふたしていた。
初日はホテルで借りられるというスマホでWi-Fiに繋ごうと考えていたため、ネットは未だ使えない状態。空港のWi-Fiは、なんでか良くわからないが繋げない。
現地通貨を持って行かず、空港でキャッシングしようと思っていたが、ATMの言語は英語と中国語。どのボタンだ、わからない。空港内を歩き回って日本語対応のATMを見つけ、ようやく現地通貨を手に入れ、香港のICOCA・Suica的な「オクトパスカード」を購入しエアポートエクスプレスに乗車し、地下鉄MTRに乗り継いだのちにホテルへ向かった。すでに予定していたスケジュールから1時間ほど押していた。
ホテルは喫煙ルームが選べるところを選択。英語で喫煙を希望すると「of course」の返事。ホッとしたのも束の間、「やっぱりダメだ、今日は喫煙が空いていない」と言われて愕然とした。そこは妥協したが、さらに朝食付きプランのはずが朝食はないと言われ、それはおかしいと、できうる限りの英語を駆使してクレームをつけ、なんとか朝食付きを勝ち取った。……そもそも、こちらは間違っていないはずなのだが。
部屋に入るともう午後3時前。当日は夕方から現地のツアーを予約しており、翌日は深夜便での帰国ではあるものの、ほぼ沙田競馬場で潰れるので、もう2時間ほどしか自由に日中の香港を見られない。正直焦った。
ではどこへ行くか?
当然競馬場ということになる。と言っても国際競走が行われる沙田ではない。
香港にはもう1つ、ハッピーバレー競馬場がある。主に水曜日のナイター開催をしているので土曜日は開催していないわけだが、せっかく来ているのだからとりあえずどんなところかは見ておきたいと思った。また、ハッピーバレー競馬場には競馬博物館が併設されているので、それも足を運ぶ理由の1つであった。
ハッピーバレー競馬場は、香港島の方にある。MTRで香港島へ渡り、せっかくだからトラム(路面電車的なもの)に乗っていくことにした。停留所に次々とトラムが来るが、行先が「跑馬地」(中国語でハッピーバレー)とあるものを選べば乗っているだけで競馬場の前まで連れて行ってくれる。料金は後払いの一律2.30香港ドル。ここでもオクトパスカードが使える……というか、交通機関では大体使える上にコンビニなどでも使えるので、オクトパスカードは買っておいて損はない。駅の加算機やコンビニで簡単にチャージができる。
トラムは2階建てで、2階からの景色はなかなかいいものである。誤算だったのは、土曜日だからなのかこれが香港の普通なのかわからないが、とにかく渋滞が酷くなかなか進まないこと。さらには何かに抗議するデモ行進まで行われていて交通規制がかかり、そこらじゅうでクラクションが鳴りまくっている。なんだか、海外に来たな、アジアに来たなと感じる場面であった。
漸くハッピーバレー競馬場に着いた頃にはもう4時前。スタンドには入れなかったが競馬博物館からコースが見渡せた。内馬場部分は公園として開放されているようで、何やらスポーツが行われていた。
入場は無料なので博物館を見学。当然日本語の説明なんてない。香港競馬の歴史やら、名馬?の剥製やら、寄贈されたと思しきカップやらが展示されている。雰囲気で英語を読んでみるが、私にとってはまぁ「へぇー……ふーん……」という程度である。もし興味がある方は訪れてみてはいかがだろうか。グッズショップやレストランもあるので、楽しめる方は楽しめると思う。貧乏人の私は何も買わないし何も食べずに後にした。
現地ツアーのために九龍へ戻らないといけないので、とりあえず街中までトラムで帰り、湾仔というところからスターフェリーに乗船。10分ほどすると九龍側へ着いた。土日などは料金が多少上がるようだが、それでも3.40香港ドルなのでちょっとしたクルーズ気分を味わえる。香港の風を感じたい方は是非乗ってみてはどうだろうか。船から見る夜景も素晴らしいものだろうと思う。
ここもオクトパスカード可。そして現地のツアーに参加。せっかく香港に来たので、競馬以外に定番の夜景とそれなりの食事は押さえておきたいと思ったので予約しておいたのだ。何気に、各地の競馬場へ行くついでに夜景スポットに寄るのが好きなのである。オッサン一人で見るもんでもないのだが。
まずはビクトリアピークからのいわゆる「100万ドルの夜景」である。ピークトラムというケーブルカー的なもので登ることになっていたが、週末だからか物凄い行列。ツアーの団体は優先的に乗れるということだが、それでも1時間以上は並んでいた。つまりツアーでない客はもっと並ぶということになる。当日は一般客の長蛇の行列の中で倒れた人が救急車で運ばれるという一幕もあった。時期、曜日によると思うが、ピークトラムで夜景を見に行きたいという方は現地ツアーに参加したほうが何かとスムーズに進むかもしれない。
こちらもオクトパスカード可。しかしツアーにピークトラム代金が含まれていたので出番はなかった。
ピークトラムに並んでから1時間半ほどでやっとビクトリアピークからの夜景を拝むことができた。山の上まで来るとさすがに風が肌寒い。やや霞んでおり、80万ドルくらいの夜景だった……かもしれない。天気にもよるが、冬場は比較的見やすいようだ。夏場はガスってしまい見えないということもあるらしい。つまり香港国際競走のついでに100万ドルの夜景、というのはいいセットなのだ。この夜景スポットは色々あるようなので、予算、都合に合わせて検討されたい。
夜景のあとは山を下りて水上レストランでのディナー。香港入りして以降、何も食べていなかったので、しこたま食ってやろうと意気込んでいた。いわゆる広東料理だったようだが、なんだかんだで日本でも普通に食べられるよね、というものばかりで、特に味にこだわりのない自分にとってはそこまで感動するものでもなかったが、とりあえず空腹は満たせた。同じテーブルに座った方々が皆香港国際競走目当ての方だったので、初対面ながら競馬談義に花が咲いた。知らない人でも競馬の話となると自然と盛り上がってしまうものである。
ツアーはここでお開き。あとはホテルへ帰って初日終了となるのだが、ちょっとしたハプニングが起こった。
旺角からホテルへと暗い夜道を歩いていると、現地の警察3人ほどに呼び止められて取り囲まれ、何やらまくし立ててくる。おそらく「何してるんだ、どこへいくんだ」的な職務質問的なことをされていたんだと思うが、「日本人だ、ホテルへ行く」と主張すると、「じゃあパスポートを見せろ」となったので、パスポートを提示すると、「OKOK、ニホンジン」と解放してくれた。正直かなり焦ったのは確かだ。海外は恐ろしいなと感じた。
もう夜も遅くなり、正直疲れていたので、軽く香港国際競走の予習をして床に就いた。
写真:馬人