アイムユアーズ~強豪世代に誕生した北海道クイーン~

皆さんは、アイムユアーズと聞いて、どのレース、そしてどの騎手を思い浮かべるだろうか。

重賞4勝を含む5勝を挙げ、15戦で鞍上は10人もの騎手が起用された。その「5勝」もすべて異なる騎手によるもので、藤田伸二騎手からニコラ・ピンナ騎手まで幅が広い。どの騎手でも安定した成績を残していた馬だった。

同じ2009年生まれの牝馬には、牝馬三冠などGI7勝の顕彰馬、ジェンティルドンナがいる。

アイムユアーズは、震災から3か月後、6月の函館でデビュー。
1番人気に推されながら3着に敗退するも、中1週後同じ函館で勝ち上がりを果たした。続いて同じ条件の函館2歳ステークスで重賞初挑戦となり、1馬身半差の2着。函館での3戦で、勝ち上がりと賞金加算に成功する。
その後、初めて関西に遠征したファンタジーステークス(GIII)で8番人気評価をはねのけて、重賞初勝利。続く2歳王者決定戦、阪神ジュベナイルフィリーズは重賞タイトルを獲得したにもかかわらず8番人気の評価だったが、2着に食い込む活躍を見せた。


3歳始動戦には、フィリーズレビューを選択。
レースは、2012年3月11日の15時35分発走であった。
民放は震災から1年の特別番組を放送し、地上デジタル放送、地上アナログ放送で競馬は届けられなかった。
「東日本大震災被災者支援競馬」と題して行われる中、重賞勝利、GI2着、デビュー以来3着以内、これらの実績が支持されて3.5倍の1番人気での出走だった。

立ちはだかるのは15頭、中でもクイーンカップで1番人気2着のイチオクノホシや、ファンタジーステークスで2着のアンチュラスなどが対抗馬としてあげられていた。

レースがスタートすると、アイムユアーズは逃げるエイシンキンチェム、レディーメグネイトの直後につける3番手にポジションか確保。直線コースで抜け出し、外からプレノタートが追い上げを見せたものの、1馬身半差をつけて先頭で入線、重賞2勝目をあげた。

その次走は、優先出走権を獲得した桜花賞に駒を進めると、2歳女王のジョワドヴィーヴル、シンザン記念勝利のジェンティルドンナに次ぐ3番人気に。最後の直線コースでジェンティルドンナ、ヴィルシーナとの3頭で競り合ったが、ジェンティルドンナに1馬身差をつけられて3着。続く優駿牝馬(オークス)でも好位から抜け出そうとしたが、ジェンティルドンナの追い込みには敵わず4着に敗れた。

しかし、アイムユアーズはクラシックで敗退後も諦めず、再起の舞台には北の大地が選ばれる。

オークス4着から一休みし、クイーンステークスへ。戦う相手は、歴戦の古馬たちだった。福島牝馬ステークスを制し、ヴィクトリアマイルでも2番人気に推されたオールザットジャズ、後にエリザベス女王杯を勝つこととなるレインボーダリアなどと顔を合わせる中、2.9倍の1番人気に推された。
アイムユアーズは中団待機から、第4コーナーにかけて先行集団に取り付く。直線入り口で先頭に躍り出ると、外から追い込む10番人気の伏兵、ラブフールをクビ差退けて勝利。古馬相手に堂々とした勝ちっぷりを見せて秋華賞に直行し、ジェンティルドンナ、ヴィルシーナの双璧に次ぐ3番人気に推されたが──結局、上位2頭には及ばず6着に敗れた。

古馬となり、牝馬限定重賞に進むも上位に食い込むことができず、アイムユアーズは再び北の大地に戻る。
札幌競馬場の改修工事のため、前年と異なり函館での開催となった。

桜花賞馬マルセリーナ、福島牝馬ステークスを連覇したオールザットジャズ、オープン昇格直後のキャットフィーユなどと人気を分け合ったが、1番人気の支持。逃げるクィーンズバーンの直後につけ、最終コーナー手前で難なく抜け出すと、そのまま押し切り勝利。追い込んだスピードリッパーとはクビ差の決着であった。
そうしてアイムユアーズは、重賞4勝目、クイーンステークス連覇を達成したのだった。


好位から抜け出して伸び、押し切りを狙う競馬が多いアイムユアーズ。
牝馬三冠ではジェンティルドンナやヴィルシーナといったライバルには敵わなかった。

しかし、北海道など小回りコースではその能力が遺憾なく発揮されて、積み上げた重賞タイトルは4つ。
世代屈指の実力を持つ牝馬だったと言える。

その後のクイーンステークスは、翌2015年キャトルフィーユ、2016年メイショウスザンナが勝利。アイムユアーズと同じ世代の牝馬が4連覇を果たした。さらにその2頭は牝馬三冠レースに出走し、ジェンティルドンナの後塵を拝した経験を持っている。

年上相手に連覇を果たしたアイムユアーズ、そしてベテランとして年下に強さを見せた2頭。
これは年上のオルフェーヴルなどを下したジェンティルドンナや、年下と相対しヴィクトリアマイル連覇を達成したヴィルシーナ、ベテランとなってからヴィクトリアマイルを連覇しスプリンターズステークスも制したストレイトガールにも通ずるものがある。
この世代に対して三冠馬が誕生するときにありがちな「世代レベル低かった論」を唱える者は、さすがにいないだろう。

引退後、アイムユアーズは繁殖牝馬となった。
父ファルブラヴ、母父エルコンドルパサーという血統に加え、母母父がサンデーサイレンスとサンデーサイレンス系の血が遠い。ユアーズトゥルーリ(父:ロードカナロア)は早々に種牡馬入りし、モーベット・スワーヴエルメといった仔たちもPOGでも人気を博している。
大物が生まれる下地は十分できているはず、今後も「アイムユアーズ」という名前に触れる機会はしばらく続きそうだ。そしていつか、彼らが、母の成し遂げられなかったクラシック制覇を達成するかもしれない。

参考:2012年03月11日のテレビ番組表(東京・地上波1)

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