![[対談・治郎丸敬之×緒方きしん]片目のサラブレッド・福ちゃんがついに初出走!「革命」のデビュー戦を振り返る](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/08/202608112-1.jpg)
馬体のプロ・治郎丸敬之さんと、ウマフリ代表の競馬ライター・緒方きしんによる対談企画。
今回は、治郎丸さんが所有する、川崎競馬場でデビューを果たした隻眼の競走馬・ドコフクカゼ、通称「福ちゃん」について取り上げていく。
誕生から約2年半。多くの方から成長を見守られてきた福ちゃんが、ついにサラブレッドとして最初の一歩を踏み出したその一日を、2人に改めて振り返ってもらった。
■オレンジ色に染まった川崎競馬場。「革命」と呼ばれたデビュー戦
緒方:福ちゃん(ドコフクカゼ)のデビュー、改めましておめでとうございます。本当に感動しました。当日、川崎競馬場に着いてパドックへ行くまでは、「ちゃんとゲートを出てくれるかな」とか「無事に走り切ってくれるかな」とか、緊張の方が大きかったんですが、パドックで多くの人が福ちゃんを応援しにきていただいているのを見て、緊張を感動が上回りました。
治郎丸:ありがとうございます。あの光景はすごかったよね。馬主の僕からしても想像以上だったよ。
緒方:もちろん福ちゃんのグッズであるオレンジ色のタオルを持った方が来ること自体は知っていましたし、横断幕の前に人が集まるだろうとも思っていました。でも、あそこまで多くの方々がいらっしゃるとは想像できていませんでした。

治郎丸:僕は、おおよそ100人くらいは来てくださるんじゃないかなとは思っていたんだ。事前に「行きます」と言ってくださった方も、かなりいたから。けど、感覚として、当日はその2、3倍くらいいた気がする。もしかすると、タオルがオレンジ色だったのも大きかったかもね。狙ってそうしたわけじゃないんだけど、すごく視覚的に分かりやすかった。もちろん、タオルを持っていない福ちゃんファンにもたくさんいらっしゃったと思うけど、オレンジ色のタオルがあることでパドック全体が染まったように感じたよね。僕も30年くらい競馬を見てきたけど、パドックでああいう感じになるのって見たことがないレベルだよ。
緒方:平日の昼間、しかも重賞などではなく新馬戦ですからね。おそらく、何も知らずあの場にいた方は「一体、何が起きているんだ」と思ったでしょう。関係者の方々も同じように驚いていたんですか?
治郎丸:驚いていたね。そのなかでも印象に残ったのが、山崎裕也調教師から言われた言葉なんだよ。実は福ちゃんが生まれた時から気にかけていただいた方なんだけど、山崎裕調教師がパドックで僕に「治郎丸さん、レボリューションを起こしましたね」って言ってくださった。すごく嬉しかったね。しかも自分のところの管理馬ではないのにそう言ってくださったということに、懐の深さも感じた。
緒方:革命かぁ…。確かに、あの日の川崎競馬場には、それまでの競馬場とはどこか違う空気がありましたよね。
治郎丸:福ちゃんのことを全く知らない人からすると、突然、何かすごいことが起こったように見えたと思う。でも僕とか、ずっと福ちゃんを見てきた人たちからすると、全然突然じゃない。生まれてから約2年半、ずっと見守って、発信を続けて、その積み重ねの先にデビュー戦があった。僕は「革命」って、そういうものなんじゃないかなと思うんだよね。その瞬間だけを見ると、突然何かが起きたように見える。でも実際には、長い時間をかけた準備があるからこそ、表に出た時に「革命」に見えるくらいの大きさになる。僕たちからすると2年半くらいやってきたことのひとつのゴールだったから、決して突然起こった出来事ではないんだよ。
緒方:僕もかなり早い段階から治郎丸さんの横で福ちゃんの物語を見せていただいていたので、あの日はいろいろと思い出しました。牧場へ会いに行ったこともそうですし、最初の頃に治郎丸さんから話を聞かせていただいたことも…。川崎の焼肉屋さんで飲みながら、福ちゃんブログを始める話をしましたよね。そういう時間が全部つながって、ようやく競馬場までたどり着いて、出走の時を迎えたんだな、と。
治郎丸:そうだね。競走馬としてはここから始まるんだけど、「デビューする」というところまではひとつの区切りではあった。だからこそ、ああいう形でたくさんの方が集まってくれたのは本当に嬉しかったね。
■向こう正面で巻き起こった大歓声。新たな一歩を踏み出した競走馬・福ちゃんの物語
緒方:レースでは向こう正面でひと捲り。ここでも驚かされました。ただ、スタートしてしばらくはちょっと砂を被って嫌がるような仕草も見せていたように見えましたね。
治郎丸:ゲートが開いてから1コーナーまでは「ならないでほしかったけど、やっぱりこうなっちゃうか」って思ったよ。競馬って、不安に思っていたことはなぜかだいたいその通りになるんだよね(笑) 良いことはなかなか思ったようにいかないのに、「こうなったら嫌だな」ということは起きたりする。だから、最後方まで下がった時は「ああ、このまま後ろをついて回る感じになるかな」って思ったね。でもそこから、向こう正面でカメラが切り替わった瞬間くらいに、後ろからものすごい勢いで上がってきた。カメラワークも良かったよね。急に後ろから風みたいに来て、みんなが気付いた瞬間、ワーッと盛り上がったから。
緒方:あの歓声はとんでもなかったですね。体感としては昔、札幌記念でゴールドシップが捲った時くらいの歓声に感じました。
治郎丸:僕も宝塚記念のゴールドシップを思い出した(笑)。
緒方:お互いゴールドシップですか(笑)。そんなことを思い起こさせるような歓声が2歳新馬戦で起きるっていうのも、やっぱりすごいことと思います。そこでかなり脚を使った福ちゃんですが、自分から勝負に行ったうえで最後まで大きく失速せず4着。デビュー戦としてはかなり手応えを感じられる内容だったんじゃないですか?
治郎丸:そうだね。結果論ではあるけど、あくまで馬主の立場として考えれば、最後まで脚を溜めていたら2着くらいまで来られたかもしれない。賞金も100万円くらい違うから、「そっちの方が良かったな」と思うところがないわけじゃないよ(笑) でも、どっちが皆さんにとって印象的だったかな、と考えたら、間違いなく向こう正面で捲っていった瞬間だと思うんだよね。
緒方:あそこが福ちゃんのレースで一番盛り上がったポイントだったのは間違いないですからね。あれだけのパフォーマンスを初戦から見せてくれましたし、次戦も期待できそうだと思いました。
治郎丸:実際、福ちゃんはここからどんどん良くなるんじゃないかなと思う。お母さんのダートムーア、ひいては牝系にいるエアグルーヴもだけど、新馬戦は負けているんだよね。だからデビュー戦は、とりあえず無事に走り終えるということが大切だった。ただ一方で、あまりにも惨敗したら「競走馬としての資質はどうなんだろう」というのは冷静に考えないといけないとも思っていたよ。そのなかで見せ場を作って、かつ自分自身に競走能力があるところも示してくれたのだから立派だよね。福ちゃんはもう僕だけの馬じゃないと思っているから、こうして先を考えられる結果を出してくれて本当に良かった。

緒方:しかも、ここで物語が終わるわけではなく、あくまで1レース目。まだまだ無限大の可能性を残しています。
治郎丸:そうなんだよ。「デビュー戦は一生に一度だから絶対に行きます」と言ってくださる方が本当にたくさんいた。確かにその言葉の通りではあるし、それだけ価値のあるものなんだと思う。だから僕としては「デビュー戦だけ人が集まって、2戦目になったら誰も来なかったらちょっと寂しいな」とは思ってる(笑)
緒方:無限大の可能性があるはずなのにそうなってしまった場合、ちょっとどころかかなり寂しいですよね(苦笑)。皆さん、引き続きの応援をどうかよろしくお願いします!
治郎丸:でも今回の盛り上がりは一過性のブームとは違うんじゃないかと思っているから、実のところ、あんまり心配はしていない。僕たち関係者だけじゃなく、2年半という期間の間、毎日のように福ちゃんを我が子のように見てきてくれた人たちがいるわけでしょ。その人たちが集まったものでもあるから、急に全部なくなるようなものではないと思うよ。そこにまた、いろんな窓口、それこそウマフリとかで福ちゃんを見て、新しく知ってくれる方が加わっていけばいいよね。
緒方:福ちゃんという存在は、ウマフリの記事を読んで知ってくださった方もちらほらいましたし、治郎丸さんが運営されているYouTubeチャンネル「片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS」から知ってくれた、という方もいらっしゃいます。おっしゃる通り、いろんな入口から入ってきていただければ、ありがたい限りですよね。
治郎丸:Youtubeは福ちゃんが産まれた2024年からのスタートだけど、ウマフリでは2021年に連載を始めた『馬主は語る』からだね。おそらく、その頃から読んでくださっている人もいる。もちろん、これはファンの方々だけでなく、競馬関係者もね。だから「治郎丸のやつ、なんか大変なことになってるな(笑)」みたいな感じで読むときもあれば、福ちゃんや僕の馬たちの近況を知るきっかけとなったりと、様々な目線で見てくれていると思う。
緒方:もう5年近く、寄稿を続けていただいているんですね…。そう考えると、『馬主は語る』を書き始めた頃からは、想像もしなかった方向に物語が進みましたよね。
治郎丸:当時はこんな展開になるなんて全く思ってなかった。本当は生産事業で馬が高く売れて、「俺は馬主じゃなくて、生産の方でお金を儲けるんだ。どうだ、馬を見る目があるだろう」みたいな話を書きたかったんだよ!(笑)
緒方:本当に、かなり想像とは違うところにたどり着きましたね(笑)
治郎丸:でも、物語ってなかなか思った通りにはいかないんだよね。そこが面白いところでもあるし、難しいところでもある。ただ、何かを始めなければ、こういう想像しなかった場所にもたどり着かないのもまた事実だと思うよ。費用的な面で言うなら、僕がROUNDERSを作った時以上にお金は使っている。でも、それ以上のものはもう得たかなっていう感じはあるんだよね。福ちゃんが無事にデビューしてくれただけでも「ひと仕事したな」とは思っているよ。
緒方:間違いなくここまで来ただけでも、大きな区切りではありますね。でも実は、これがまだまだ新たな物語の始まりに過ぎないという可能性もあるわけですよね?
治郎丸:そうだね。この先、またとんでもない方向に未来が転がっていく可能性もあるじゃない?福ちゃんが活躍して、交流重賞を勝ったり。あるいは繁殖入りしたら、その子どもたちが中央のGⅠを目指したり。とかね。そういうストーリーも描いてる。どうなるかは分からないけど、それだけ先まで続いたら、本当に大きな物語になるからね。
緒方:まずは無事に走ってくれることが一番、というのは大前提ですが、やはり、川崎で起きたあの「革命」の景色を目の当たりにした1人の人間としては、この先にもっと壮大な未来が待っているんじゃないかと思いたくなります。この「革命」を、ここからさらに大きくしていきたいですね。
治郎丸:そうだね。まだ始まったばかりだから、これからも皆さんと一緒に見守ってもらえたら嬉しいよ。
緒方:まずは明日(8月19日)のデビュー2戦目、無事に頑張ってもらいたいですね。
治郎丸:ぜひ、応援よろしくお願いします!
パドックを彩った無数のオレンジ色のタオルに、向こう正面から福ちゃんが進出した瞬間、競馬場で巻き起こった大歓声。外から見れば、それはある日突然起きたようにも映る「革命」だった。だが、その裏側には福ちゃんが生まれてから約2年半、その成長を見守り続けてきた人々の時間があるからこそ起きたもの。いわば必然の「革命」とも言える。そして、これはまだ物語の途中。まずは無事に。そして、その先へ。福ちゃんが次にどのようなストーリーを見せてくれるのか。これからも見守っていきたい。
ドコフクカゼのデビュー2戦目は、8月19日15時15分発走の川崎第2レース・ダート1400m戦を予定している。
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