尾張を愛した快速馬、インティ。ダート王まで駆け上がった連勝街道とその後を振り返る。

2-0-2-2。この数字は2019年フェブラリーステークスを勝ったG1馬インティの「中京競馬場での生涯成績」である。2度の勝利は500万下のレースと初の重賞参戦で制したG2東海ステークスでのもの。着外も、うち1度はG1チャンピオンズカップでの4着なので、中京競馬場との相性が良かったことが伺える。

インティは、未勝利戦から東海ステークス制覇、そしてフェブラリーステークス制覇まで、7連勝でG1馬に駆け上がった。
以降、勝利こそ無かったものの、大レースでスピードを活かした競馬を続けた走りを評価され、2022年9月に引退を迎えた際には優駿スタリオンステーションにて種牡馬入りすることが発表された。

引退の前年に亡くなった父ケイムホームの後継としての役目を担う快速馬インティの連勝劇、そしてその後の走りを振り返る。

3歳未勝利デビュー、連勝劇への第一歩は、2戦目だった。

インティのデビュー戦は3歳4月、阪神ダート1800m戦。2歳6月から新馬戦が始まるJRAの所属馬としては遅いデビューと言える。鞍上には、藤岡康太騎手を迎えた。レースではゲートとのタイミングが合わず一歩目で出遅れてしまうが、1コーナーまでに加速して先行馬群に取りつき、以降4コーナーまでは先行ポジションを確保。直線で力尽きて9着に敗れてしまったが、目立つ走りを披露した。
このレースの勝ち馬マジカルスペルはオープンクラスまで勝ち進み、その後は東京競馬場の誘導馬として活躍。振り返れば、相手が強いなか終盤まで未完成の身体で追走して見せたのだから、大器の片鱗はこの時点で見せていたのかもしれない。

2戦目は同じコースで、鞍上も同じく藤岡康太騎手。前走から1か月空けて、6月の未勝利戦だった。

──そしてこのレースから、インティは持ち前の快速を発揮し、連勝街道に乗り始めたのである。

6番ゲートからスタートを切ったインティ。またしてもタイミングが合わなかったものの、今度はハナを切ることに成功し、先頭で1コーナーへ。
デビュー戦では脚が止まっていた4コーナー出口でも、その勢いは止まらない。
逃げて上り最速の36.8秒でラスト3ハロンをまとめ、7馬身差でゴールを駆け抜けたのだった。

初勝利から1か月以上の間隔を空けて、8月末の小倉1700mの500万下クラスに出走したインティ。松若風馬騎手に乗り替わったが、前走の走りを評価されて1番人気でレースを迎えた。

試金石となる勝ち上がり初戦、インティはのびのびと一人旅を披露した。

向こう正面で既に後続を5馬身ほど引き離し、ストライドを広げてマイペースに逃げ続けたインティを、後続の各馬は早めに動いてつかまえにかかる。しかしその差は詰まるどころか、4コーナー出口で突き放されてしまったのであった。いきなりの人気に応える、4馬身差の快勝だった。

このレース後、球節の腫れでほぼ1年の休養に入ったインティだったが、新たな出会いと「連勝街道の続き」が待っていたのである。

武豊騎手との出会い、そしてG1制覇へ。

2018年7月、インティは中京競馬場の500万下クラスでレースに復帰する。そしてこのレースから武豊騎手が主戦騎手を務め、以降、引退まで海外遠征等で不在の場合を除いてコンビを組むことになる。

スタート直後、大外からハナを狙ったスズカフリオーソに追い越されたところで引っかかったインティ。武豊騎手が向こう正面まで手綱を抑えながら前を追いかけてレースを進めることとなった。しかしコーナーでその手綱が緩むと、あとはインティの独壇場となる。結局、2着に粘ったスズカフリオーソを、鞭も使わずに4馬身突き放して3連勝を遂げた。

3か月が過ぎ、10月の京都競馬場1000万下クラス。ここも前走同様に、武豊騎手はインティを抑えながらレースを進めた。コーナーを抜けるころには後続の先行馬たちが手ごたえ一杯になるが、インティだけが止まることなく、2着に10馬身差をつけて4連勝。

続戦した準オープンの観月橋ステークスでも他馬が押してハナを目指す中、インティだけがテンのダッシュを活かして先行する。最後は直線で着差を広げて5馬身差をつけ、5連勝となった。

そして2019年、オープン馬になったインティはG2東海ステークスに挑む。

好スタートから難なく先頭に立ち、1000m61秒台のペースで入り、直線で後続を突き放すこのコンビでの勝ちパターンに持ち込もうとしたが、最後まで追ってきた馬が現れた。

チュウワウィザードが川田騎手の鞭に応え、これまでは独走していたインティの背に一完歩ずつ迫ったのである。

負けじと武豊騎手が鞭を入れ、インティも残り200mでギアを入れなおす。

のちのGⅠ馬2頭の初顔合わせ。この時はインティに軍配があがった。

チュウワウィザードの猛追を2馬身差で凌いだインティは、連勝を6に伸ばしたのだった。

東海ステークスを勝って、いよいよ舞台は東京競馬場のG1フェブラリーステークスへ。

出走14頭中12頭がオープン勝利実績ありという豪華メンバーの中で、インティは前年の覇者ゴールドドリームと僅差の1番人気に推された。

スタートを五分に出たインティ。武豊騎手がスタートダッシュをうながすと、ダートコースに入るころには加速して先頭に立っていた。

2番手でサンライズソア、その後ろにサクセスエナジー、ワンダーリーデル、外にオメガパフューム。ゴールドドリームはちょうど中団の8番手を追走していた。後方からノンコノユメが出遅れを巻き返そうと追い上げ、追込みのサンライズノヴァやコパノキッキングらは直線に向けて末脚を溜める。

インティが刻むタイムは1000m60.2秒。いつものペースより少し早いように見えるが、実は最初の600mは過去10年で最も遅い35.8秒で入っていたので、楽なペースで直線まで先頭を保っていたといえる。

余力十分のインティはいつものように後続を突き放さんと直線でスパートをかけ、先行馬たちを2馬身、3馬身と離して駆けるが、その外からゴールドドリームが末脚を伸ばしてきた。

残り200m、インティとゴールドドリームの間にはまだ4馬身以上の差があったが、ゴールドドリームの鋭い末脚が一完歩ずつインティを追い詰めてゆく。

しかし、武豊騎手のペースメイクで体力を残していたインティは、最後まで先頭を譲らなかった。

ゴールドドリームとの着差はわずかにクビ差だが、インティは、未勝利戦から7連勝で一気にG1の頂にたどり着いたのであった。

そしてインティはダートの強豪たちとの戦いに挑み続けることになる。

勝てずとも、挑み続ける。GI馬インティの激闘譜。

フェブラリーステークスを勝って、GⅠ馬としてダート界を背負う存在となったインティ。しかし少しずつ歯車が狂っていく。

かしわ記念ではゴールドドリームとの再戦となったが、ここでは出遅れてしまった上にゴールドドリームに徹底マークされてしまう。一度は直線で先頭に立ったものの、ラストは差し切られて2着に敗れた。

さらに帝王賞ではハナに立とうとしたものの、シュテルングランツの特攻ともいえる大逃げでペースが乱れた上、当時の道営最強馬スーパーステションに並ばれたことで掛かってしまい、直線で脚を残せず6着に終わった。

武豊騎手の遠征のため川田騎手が代打を務めたみやこステークスでは、大外枠から3頭のハナ争いに加わるが、手ごたえが怪しくなったところで内からウェスタールンドに当てられ、更に外にいたアドマイヤビクターとも接触して手綱を引かざるを得ず、15着と大敗──。

連勝劇が止まってからのインティは、実力は見せつつも、悔しい敗北を続けた。陣営も、もどかしさがあった事だろう。

……しかし、中京競馬場で、再びインティは強さを見せつけた。

チャンピオンズカップでは、終始テーオーエナジー、クリソベリルらのプレッシャーを受けながらも果敢に逃げて3着。久しぶりの対戦となったチュウワウィザードにも先着した。

2020年は京都競馬場開催の東海ステークスから始動しまインティ。外枠を引いて他の馬に絡まれなかったため、逃げずとも引っかかることなく、苦手とする上がり勝負の展開のなか3着に粘り込んだ。

しかし、連覇を狙ったフェブラリーステークスでは前年より1秒以上も時計の早いハイペースに巻き込まれてしまう。直線では脚が残らず14着に大敗してしまった。

春は2戦で終えて休みに入ったインティ。復帰初戦のマイルチャンピオンシップ南部杯では大雨に見舞われてしまい、コーナーで早々に捕まって9着。ただ、決着タイムが1.32.7と芝並みに速かったので、インティ自身の走破タイム1.34.8も自己ベストを更新していた。

このように、原因は明白であるものの敗戦を続けたインティはチャンピオンズカップでとうとう10番人気まで人気を下げてしまう。

──しかし、中京競馬場で再度、インティは輝きを見せる。

春の東海ステークスで先着されたエアアルマスの外側2番手で向こう正面を迎えると、残り200mでそのエアアルマスをかわして先頭に立ったのである。

最後は充実期を迎えていたチュウワウィザード、そして和田竜二騎手の檄に応えたゴールドドリームに交わされたものの、ゴールドドリームとの着差はクビ差。相手が本調子ではなかったとはいえ、才気溢れるクリソベリルにも先着して見せた。

しかし、ファンを驚かせたのはこれだけではなかった。

2021年の初戦として挑んだ東海ステークスでは不良馬場に苦しめられて12着と惨敗。続くフェブラリーステークスではスタートの1歩目で出負けして後方からの競馬になってしまう。2番枠からのスタート、外からどんどん他の馬がインティを追い越して行くが、武豊騎手の手はじっと止まったままだった。

多くのファンが「このまま終わってしまうのか…」と思ったであろう4コーナーの出口、インティの闘志は、まだ燃えていた。

武豊騎手が直線で大外に持ち出すと、なんと上り2位の末脚を繰り出したのである。優勝争いには加われなかったものの、6着まで追い上げて見せた。

さらにかしわ記念、ゲート扉に頭をぶつけて出遅れたインティは再び末脚勝負を選択。船橋の雄カジノフォンテンが逃げ切りを狙い、追いかけた先行馬たちが下がっていく中、インティは最後方からスパートして3着と健闘。
秋初戦のマイルチャンピオンシップ南部杯でも、代打・岩田望来騎手と共に上り最速の35.8秒を出して4着に食い込んだのであった。

そして、最後の中京競馬場でのレース、3度目のチャンピオンズカップに挑んだインティ。
白毛馬ソダシが逃げるなか、インティは武豊騎手と共に2番手で再びの先行競馬で挑む。直線に向いたところで一旦は先頭に立ち、そのまま粘りたかったが、新たなチャンピオン・テーオーケインズに突き放されて4着に終わった。

年が明けて2022年も現役を続行したが、フェブラリーステークス、かしわ記念の2戦で後方のままレースを終えたたインティ。掛かる仕草を見せ、走る気持ちに翳りは無かったが、身体が追いつけなくなり、引退が決まった。

まさにスピード1本勝負の競走馬生を送ったインティ。デビュー時にはゴール前にバテて敗れた馬は、その後スピードを武器に7連勝を重ねて、8歳春まで5年間闘志を燃やし続けた。

チュウワウィザード、オメガパフューム、クリソベリル、ゴールドドリーム、テーオーケインズ、ノンコノユメ、モーニン、カフェファラオ、モズアスコット、アルクトス…。数々のダート馬が綺羅星のごとく揃った10年代後半から20年代前半のダート界。そのなかで、G1とG2を1勝ずつの戦績というのは、数字以上に価値がある。非常に濃い現役時代を過ごしたと言えるだろう。

インティの産駒から、彼を彷彿とさせるスピードで駆け抜ける産駒は現れるだろうか。

2023年度の種付け料は50万円(受胎確認後)と、その蹄跡を思えばリーズナブルにも感じられる種付け料。産駒がデビューする2026年が、今から楽しみでならない。

写真:かぼす、mat、Horse Memorys

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