![[地方レース回顧]根性の走りで夏のグランプリ戴冠!~2025年・帝王賞~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/07/IMG_7407.jpeg)
夏の大一番、帝王賞。
年明けから続いてきた地方・ダート路線の一つの到達点であり、上半期のダート王決定戦とも呼べるこのレースには、毎年さまざまなドラマがある。
今年は、別路線で実績を積み上げてきた4歳馬のミッキーファイトとサンライズジパングが、古馬のベテラン勢に挑む構図が注目を集めていた。しかしサンライズジパングは最終登録前に出走回避を選択。さらに、8歳にして川崎記念を制覇して復活を示した古豪メイショウハリオは輸送中に発症した食道閉塞により無念の競走除外となり、盤石に見えたメンバー構成に一抹の波乱が生じた。
4歳世代の大将格であるフォーエバーヤングは秋に備えて休養に入り、古馬中距離の最強馬ウシュバテソーロもドバイワールドカップを最後に現役を退いている。それでも、現役で実績を積んできた猛者たちが顔をそろえた一戦であることに変わりはなかった。
実際、東京ダービーを制したラムジェットですら出走は当落線上という、現ダート戦線の層の厚さが窺えるメンバー構成となった。
レース概況
最内枠を引いたヒーローコールが積極的に飛び出し、隊列を引っ張る展開に。2番手には筋骨隆々の馬体を誇るミッキーファイトが、終始半馬身差でピタリと並びかける。ウィルソンテソーロとノットゥルノがその後ろを射程圏に置き、ラムジェットとアウトレンジはさらに控えて1コーナーへ進んでいった。
向正面では、逃げるヒーローコールにぴったり寄り添う形のミッキーファイトの気迫が際立ち、後続3番手集団にはウィルソンテソーロ、アウトレンジ、ノットゥルノが横並びで追走。さらにその後ろからはラムジェットが三浦騎手に促され、高知の強豪シンメデージーが中団をキープ。末脚を生かすディクテオンも矢野騎手のアクションに応えて、後方からじわじわと進出を開始する。
1000m通過を迎える頃、早くも先頭に並びかけたミッキーファイトがヒーローコールを捕え、3コーナーで先頭に立つ。直線入り口では、ミッキーファイト、ウィルソンテソーロ、ノットゥルノの3頭が並ぶ形で一気に後続を突き放しにかかる。
しかしその中団から、内をロスなく立ち回っていたアウトレンジが直線で外に切り替え、馬場の外目を豪快に伸びてくる。ミッキーファイトはその気配を感じながらも、並びかけた2頭を力強く振り切ると、最後は一完歩ごとに迫るアウトレンジをねじ伏せてゴール板を駆け抜けた。
3着は外から交わしにかかったアウトレンジに食らいつきながらしぶとく抵抗したノットゥルノ。ウィルソンテソーロは残り100mで脚色が鈍り、2着争いから脱落した。大外をロス多く追い込んだディクテオンが4着まで押し上げ、ウィルソンテソーロは5着に終わった。
勝ちタイムの2分03秒9は、前年の帝王賞の2分6秒9から3秒以上のタイム短縮となるハイレベル決着だった。単純比較は出来ないが、時計だけで言えばフォーエバーヤングが同じコースの東京大賞典を勝利した2分4秒9よりも1秒早い決着であり、レースレベルの高さをタイムが証明したと言ってよいだろう。

各馬短評
1着 ミッキーファイト ルメール騎手
東京、中山、京都、新潟、大井、名古屋、阪神と、これまで7か所の競馬場を巡り、1600mから2000mまで幅広い距離を経験してきたが、一度も3着以下に崩れたことのない安定感は特筆に値する。540キロ台の筋骨隆々の馬体は大きな武器で、今回の勝利でドレフォン産駒として初のダートG1級タイトルを手にした。
最内の逃げ馬に半馬身差でつきあいながら、プレッシャーを与え続け、早め先頭からそのまま押し切った内容はまさに力の証明。序盤からスムーズに加速し、先行勢が動く展開でも余力を保てるのは、この馬の立ち回りの巧さと地力の裏付けだろう。ルメール騎手の進路選択も一切の迷いがなく、4歳ながらすでに中距離路線で世代の大将格を担う存在感を示した。
この先、古馬路線でさらなるタイトルを積み重ねることはもちろん、ジャパンダートクラシックでわずか0.2秒届かなかったフォーエバーヤングの背中に、今度こそ並びかける日が来るかもしれない。

2着 アウトレンジ 松山弘平騎手
1800m以上の中距離戦を主戦場としてきた5歳馬。道中は内でロスなく脚を温存し、直線では外へ進路を切り替えて力強く伸び、勝ち馬ミッキーファイトに迫った。最後までしっかりと脚を使っており、相手が強かっただけで内容は勝ちに等しい。
浦和記念や平安ステークスで培った、前を射程圏に入れて差し切る競馬を、この大舞台でも貫いたが、今回は競った相手の地力がわずかに上回った。馬群を捌いて進路を確保する立ち回り、追い出してからの反応、ゴール前の脚色はどれも上々。松山騎手とのコンビは平安ステークスに続いて2戦目だったが、呼吸がしっかり噛み合っていた。
父も母も寺田寿男オーナーの所有馬で、数少ないレガーロ産駒の星として存在感を示している。条件が整えばさらなる重賞タイトルを狙えるだけの力は十分だろう。
3着 ノットゥルノ 武豊騎手
8枠からスムーズに好位を取り、直線では一旦2着争いを優位に進める手応えを見せた。もともとジャパンダートダービーを制したG1級の実績馬で、外枠との相性も良く、今回も馬券内に好走。これまで馬券圏内13戦中5回が8枠からの出走で、ピンク帽子はこの馬にとって幸運の色だろう。
近走は交流重賞やG3で斤量を背負う分、交わされるレースもあったが、武豊騎手のペース判断と仕掛けが冴え、粘り腰とストライドの大きな走りを存分に発揮した。栗東の音無厩舎から美浦の中舘厩舎へ転厩し、大井までの輸送負担が軽減された点も、今回の安定した内容に繋がった可能性がある。
4歳時に佐賀記念を制した際も59キロを背負いながら先行押し切りを決めており、大舞台でこそ力を出せるタイプ。今回も最後の直線で馬体を沈めてもうひと踏ん張りを見せる姿は、芝の名馬ドウデュースの有馬記念を彷彿とさせた。
ハーツクライ産駒らしい晩成性を考えれば、6歳シーズンに入った2025年も、右回りのパワー型コースで見せ場を作る機会はこれからも多いだろう。惜しむらくは、今年のJBCクラシックが左回りの船橋競馬場であることか。
レース総評
4歳世代の新興勢力と、これまで中距離路線を支えてきた古馬の実績馬が激突し、世代交代の気配を色濃く漂わせる一戦となった。フォーエバーヤングが休養に入り、ウシュバテソーロもターフを去った今、ミッキーファイトが堂々と力を示し、ドレフォン産駒として初のG1級タイトルを4歳で手にした意義は大きい。
アウトレンジは平安ステークスに続く安定感ある末脚で、5歳世代を代表する存在の一角であることを改めて証明。ノットゥルノも転厩2戦目ながらスムーズに立ち回り、再浮上の気配を強く感じさせる走りだった。
今回、メイショウハリオは輸送中のアクシデントで無念の競走除外となり、サンライズジパングも直前で回避を選んだ。実績馬や同世代のライバルたちとの再戦は、必ずや秋以降の大舞台で実現するだろう。そのとき、今回の主役たちがどのように進化を遂げているのか、興味は尽きない。
時計面でも、前年に砂が入れ替わった影響が顕著に表れ、以前ほど時計の出にくい馬場で、勝ちタイムは2分03秒9と前年よりも3秒以上速い決着。大将格が不在でも、個々の実力が極めて高いことを十二分に示した一戦だった。
これからJBCクラシック、チャンピオンズカップ、東京大賞典と続く秋シーズンへ向けて、今日の顔ぶれが再びぶつかり合うとき、勢力図はどのように塗り替わるのか。
古豪の意地と新興勢力の野心が交錯する、ダート王道路線の物語は秋へと続く。

写真:s1nihs