混迷のマイル界。
接戦を制するのはどの馬だ!?
NHKマイルカップから始まった東京競馬場でのG1競走5連戦も、いよいよ最後の安田記念を迎えました。上半期にはまだ宝塚記念がありますが、春競馬としてはここが一区切りとなります。
今年の春競馬もさまざまなドラマがありました。
それらの思い出を振り返りつつ実力伯仲のレースを楽しんでいくのも一興です。
2023年 安田記念の見どころ
今年はまず、出走メンバーのレベルの高さに注目が集まります。
G1を勝っている馬が、なんと10頭も集結。2022年、2021年の安田記念に出走したG1馬は6頭。グランアレグリアとアーモンドアイの対決で盛り上がった2020年でも9頭ですから、近年稀に見るハイレベルなメンバー構成と言えます。
また、各路線から馬が集まって「一体、どの馬が強いのか?」という点でも興味を惹かれます。
昨年の安田記念からは1着ソングライン、2着のシュネルマイスター、4着のセリフォスが出走。さらに今年のヴィクトリアマイル2着馬のソダシも出走し、これまでマイル界の中心にいた馬達が集まりました。
一方で、前走2000Mの大阪杯を勝ったジャックドールはマイルの距離では未知数な存在です。加えて「今年の3歳勢の参戦で今年の3歳勢のレベルはどうか?」「実力ある4歳勢の成長ぶりはどうか?」というポイントもあり、マイル界のターニングポイントになりそうな安田記念と言えるのではないでしょうか。
例年様々な路線から馬が集まる安田記念ですが、今年も各路線から有力馬が集まりました。同じ東京芝1600MのNHKマイルカップやヴィクトリアマイルを使ってきた馬や改修された京都のマイラーズカップを使ってきた馬、また大阪杯など前走中距離を使ってきた馬や、前走1200Mの高松宮記念を使ってきた馬もいます。その馬が一堂に集まって競うのですから各馬の能力比較が難しいのは確かです。まずは各前哨戦を見ていきましょう。
安田記念の前哨戦を振り返る
ヴィクトリアマイル
1着:ソングライン 2着:ソダシ 7着:ナミュール
勝ちタイム:1分32秒2(良)小雨
前半800M:46秒2 後半800M:46秒0 上り3ハロン:33秒7
前半800Mが46秒2に対し後半800Mが46秒0と、前後半の差が少ない流れとなりました。
レース中に雨が降っていたので速いラップとなりませんでしたが、前半600Mが速い流れ、中盤の400Mで少し緩くなって残り600Mでスパートする展開だったので底力が問われたレースと言えます。上位3頭のソングライン、ソダシ、スターズオンアースの力が一枚上でしたが、特にソングラインとソダシの東京芝1600Mの適性の高さが光りました。7着のナミュールはスタート後に左右から挟まれて落馬寸前の不利があったため「不利が無かったらどうだったか?」というタラレバはありますが、どちらにせよ上位3頭とはやや力の差があった印象を受けます。ソングラインとソダシは同じコースで引き続き好走に期待が集まりますが、ヴィクトリアマイルが激戦だったので中2週の安田記念でどこまで疲労があるかが気になるところです。
マイラーズカップ
1着:シュネルマイスター 2着:ガイアフォース 3着:ソウルラッシュ 5着:マテンロウオリオン
勝ちタイム:1分31秒5(良)
前半800M:46秒1 後半800M:45秒4 上り3ハロン:34秒0
前半800Mが46秒1に対し、後半800Mが45秒5とやや後半が速い展開となりましたが、3ハロン目からゴールまで1ハロン11秒台前半の速いラップが続く、ハイスピードの持続力勝負となりました。逃げたシャイニーロックが持続力で押し切ろうとするところを、地力上位の3頭がゴール前でわずかに交わした一戦となります。中でも一番外から追い込んできたシュネルマイスターの地力と切れが光ったレースでした。
勝ったシュネルマイスターは、得意のマイルで上り3ハロン最速の32秒9の脚を見せて快勝。2着のガイアフォースは中団を進んで、直線でうまく外に出して追い込んできました。決め手で勝ち馬に劣ったものの、マイル適性の高さを見せた結果と言えます。揉まれると厳しい面があるので、安田記念では7番枠をどう捌くかがポイントになりそうです。3着のソウルラッシュは外の中団前目を進んで直線ではジリジリ前との差を詰めていきましたが、決め手のある1,2着馬に交わされてしまいました。本番では、立ち回りの巧さをいかせればというところでしょうか。
大雨の影響を受ける東京競馬場
馬場適性で明暗が分かれるか
安田記念の大きなポイントになりそうなのが、馬場状態です。今年の春競馬は週末のお天気に悩まされてきましたが、今週の安田記念でも頭を悩ませることになりそうです。東京は金曜の時点で台風の影響もあって大雨になったので、その影響が気になるところです。水はけの良い東京コースですから、安田記念のレースの時間帯にはかなり回復しているかもしれませんし、馬場の変化と推移はチェックしておきたいですね。
ちなみに先週の東京の芝コースはCコース替わりで週中に雨が降らなかったこともあって、超がつくほどの高速馬場。とにかく内、前を通った馬が有利になることが多いという傾向でした。雨の影響が少ないならその傾向が継続されるでしょうし、東京コースは馬場が乾く時は内から乾いていく傾向があります。展開を考える上では内枠の先行馬がレース前半でどう動くかがカギとなりそうです。
安田記念 注目馬紹介
シュネルマイスター - 回り道をしたこの1年。昨年クビ差2着の悔しさを晴らせるか。
実力あるG1馬が多い中でも、コース実績と臨戦過程からシュネルマイスターには注目でしょう。
昨年秋にスプリンターズSへ参戦してからちょっと歯車が噛み合わなくなってしまっていた印象ですが、マイルの距離に戻った前走のマイラーズカップでは力を見せて差し切りました。
東京芝1600mではこれまで3戦して全て3着以内と、ほぼ完璧な戦績です。G1であっても実績は上位。ルメール騎手の腕を加味すれば、間違いなく力上位の存在です。気になる点とすれば「渋った馬場がどうなのか」という点。これまで渋った馬場での経験がないので全くの未知数です。
それでも近年のマイル界ではトップクラスといえる実力は健在。
昨年の安田記念で敗れたソングラインはヴィクトリアマイルからの中2週、大外枠ということを考えれば、昨年よりは厳しいはず。昨年はクビ差だったソングラインに対して、今年は逆転が可能でしょう。
別路線組がうまくマイルに対応できないならば、昨年から上積みあるこの馬が勝ち切る光景も見られるのではないでしょうか。
ソダシ - 曇りのち晴れで輝く白い馬体。東京芝1600Mで主役を狙う。
今年の安田記念のポイントは馬場状態をどう判断していかにうまく立ち回るか、という点に尽きると見ます。
はっきりとしたことは判断がつきませんが、水分が多い状態なら速い上りが出ない馬場になるでしょうし、逆に馬場が乾いていけば内が有利になる可能性が高いです。どちらに転ぶにしても内枠から先行する馬の好走確率が高いと言えるでしょう。今年の枠順でその条件を満たしそうなのが、ソダシです。
ヴィクトリアマイルでは外枠の16番枠から外の2番手を追走し、早めに先頭に立って押し切る寸前といった競馬をしました。上り3ハロン33秒0のような究極の脚が出せない馬場状態なら、この立ち回りがベストでしょう。
加えて今回は5番枠という絶好の位置。スタートを決めて、行く馬を行かせて2番手で進めばヴィクトリアマイルよりも余力十分で直線に入れるはずです。ヴィクトリアマイルの疲労が残っているかどうか、という点が気がかりではありますが、メンバーの中で1番安定度の高い馬と言えるのではないでしょうか。
ジャックドール - 先行争いに加わるのか、立ち回りに注目の中距離G1馬。
レース展開で注目なのは、先行争いです。
速い上りを出しにくい馬場状態であるからこそ、前半の先行争いは非常に重要です。先行馬の中で、特にジャックドールは『1600Mの距離でも先行できるのか?』という点が気になるところではないでしょうか。
ソダシはヴィクトリアマイルで2番手を進んでいましたが、前半600Mは34秒4。これに対し、ジャックドールは東京芝2000Mの白富士Sでは35秒9ですので、先行するのはちょっと厳しいかもしれません。ただ、同馬は逃げ馬といっても道中持続的な脚を使い、後半が速いタイプでもあります。そのスピードを維持する力は現役でもトップクラスです。ちなみに、前述した東京芝2000Mの白富士Sの勝ちタイムは1分57秒4で、そこからラスト400Mを引いた1600M通過時は1分33秒6。超高速馬場で1分31秒台が決着タイムになるならともかく、時計がかかる馬場になって全体の走破タイムが遅くなるならマイルの距離でも追走可能と言えるのではないでしょうか。
中距離G1を制したジャックドールの総合力と底力に期待しても良いかもしれません。
セリフォス - ここを勝って、名実ともにマイル王へ。
混戦とするマイル界ですが、現在の暫定王者という位置にいるのが昨年のマイルチャンピオンシップの勝ち馬であるセリフォスではないでしょうか。
昨年の安田記念では3歳馬ながらも4着と健闘
。秋には富士Sを制し、続いてマイルCSも制しました。
今年初戦はドバイターフで5着だったのでちょっと印象が薄くなってしまいましたが、昨年3歳ながらマイルCSを勝った同馬が今年の安田記念の中心になってもおかしくないはずです。
鞍上も昨年と同じレーン騎手ですし、4歳になって充実期に入ったとなれば今回完勝してもおかしくないでしょう。道悪の馬場がどうか、という点が気になりますが、想像以上に強くなっているかもしれません。
ここを勝てば名実ともにマイル王と言えます。今回はそれを証明する舞台になるのではないでしょうか。
ソウルラッシュ - 少し時計のかかる馬場に適性あり。恵みの雨でG1制覇を目指す。
馬場状態の変化によりますが、渋った馬場となった場合はそうした馬場への適性が高い馬のチェックは必要でしょう。マイルの距離や東京コースの実績も加味すれば、ソウルラッシュに浮上の余地があるのではないでしょうか。
4連勝でマイラーズカップを制しましたが、その後はワンパンチ足らないレースが続いています。
先行しての立ち回りが巧い馬なのですが、勝負ところでの切れる脚がないので決め手のある馬に交わされてしまう競馬が続いていました。馬場が思っていた以上に乾燥できず、速い上りが出ない馬場で行われるなら、ソダシと同様に先行して粘る展開もあるのではないでしょうか。
東京芝1600Mだと、富士Sではセリフォスの2着ですから、コース実績も十分。
前走はシュネルマイスターが叩き2走目で究極の切れを見せて交わされてしまいましたが、それでも早め先頭から0秒1差の3着と粘りました。ワンパンチ足らないのは否めませんが、馬場の恩恵をいかすことができれば面白い存在になりそうです。
イルーシヴパンサー - 昨年の1番人気馬の底力を改めて問う。左回りの1600Mなら浮上も。
展開を考えるならば、馬場状態を考慮する必要があるとはいえ、ウインカーネリアン、ソダシ、ジャックドール、ソウルラッシュ、メイケイエールと先行したい馬が多いメンバー構成であることは無視できません。
彼らを放置していれば押し切られてしまいますし、切れる脚が使いにくい馬場状態ということを考えるなら、各馬が早め早めに動いていく可能性が高いのではないでしょうか。一発穴をあけるなら先行馬よりも差し、追い込み馬に可能性がありそうです。
東京コース実績がある追い込み馬という事でイルーシヴパンサーに期待が集まります。
昨年の安田記念では連勝の勢いを買われて1番人気でしたがG1の壁に阻まれて8着でした。その後中京で行われた京都金杯を勝って前走の中山記念では進路が無く、内に入ってしまっての8着。右回り、1800Mが合わなかった印象です。実績ある東京芝1600Mに戻って見直したいですし、過去にはやや重馬場でも勝ち鞍があるので渋った馬場への適性もありそうです。外からの差しが決まるという展開になればドンピシャでハマることも期待できそうです。
G1馬が10頭という豪華なメンバーとなった今年の安田記念。
最強マイラー決定戦の名に相応しいメンバーが揃ったのは間違いないでしょう。
金曜から土曜の雨が少し残念ではありますが、レース自体は良い天気で開催されそうです。
まさに今のマイル界のごとく、曇りから晴れとなるようなマイル王者の誕生に期待しましょう!
この記事が皆さんの参考になれば幸いです。
写真:かぼす